「良き科学」の条件とは?ステイシー・コンキール氏が研究評価指標について語る
学術文献関連のオンライン活動を追跡する企業、Altmetricのアウトリーチ・契約担当マネジャーであるステイシー・コンキール氏をご紹介しましょう。同氏は以前、研究者のオルトメトリクス(altmetrics)の利用を支援する非営利団体、Impactstoryの営業・研究部長を務めていました。また、インディアナ大学ブルーミントン校(Indiana University Bloomington)の初代科学データ管理司書として働いていたこともあります。その前は、PLOSでマーケティング担当者として勤務していました。コンキール氏はインディアナ大学で情報科学・図書館学の修士号を取得しています。ブロガーやツイッターでも活発に発言しており、OAやオルトメトリクスの分野における有名人です。
学術出版の今日の状況を考えるときに頭に浮かぶのは、「活気に満ちている」という表現です。あらゆることが変えられ、改革されつつあります。古いシステムに疑問を呈し、学術出版に必ずや革命をもたらすという信念の下、新たなシステムが提案されています。このような状況の中で、学術界はどの程度進歩的だといえるのでしょうか。OAやオルトメトリクスといった動きに対する呼び掛けに、どの程度応えているでしょうか。さまざまな変化の潮流に巻き込まれている我々はどこに向かっているのでしょうか。今回のインタビューでは、ステイシー・コンキ―ル氏にこれらの質問の答えをお聞きすると同時に、学術研究や出版という環境において物事がどう変化しているかについての見解も伺いました。
コンキールさんは司書として働き始め、今ではOAの推奨者です。なぜそのような変化があったのでしょうか。
私は以前からずっと、おそらくOAという言葉ができる前から、OAの推奨者だったように思います。他の多くの司書もそうだと思いますが、私は社会正義という意識を持ってこの分野で働こうと思いました。誰もが情報にアクセスできてしかるべきだという信念を持っていたのです。図書館学を学んだ後の最初の仕事として、マサチューセッツ大学アマースト校の機関リポジトリでマリリン・ビリングス(Marilyn Billings)氏の下で働いていた時、有料の学問による悪影響というものが分かり始め、自分を本当に「OAの推奨者」だと考え始めました。
10年近く前の2006年、PLOS ONEの共同創始者の1人であるマイク・アイゼン(Mike Eisen)氏は次のように述べています。「科学者はインターネット革命の素晴らしい力を科学コミュニケーションに応用することに意欲的だが、学術出版の保守性がそれを阻んでいる」。この点において、科学コミュニティはどれぐらい進歩したとお考えですか?
アイゼン氏がそのように述べて以降、OAに対する風当たりは大きく転換しました。より多くの研究者が自分の論文をOA化するようになりましたし、プログラムやデータ、その他の学術的成果をオンラインで無料アクセスできるようにすることで、オープンサイエンス(open science)を実践する研究者の数も著しく増加しました。今では、資金を提供する条件として、OAやデータの共有が求められる場合さえあります。
そうは言っても、学術界(少なくともここ米国では)がたどるべき道のりはまだまだ長いです。多くの大学のテニュアや昇進に関する審査委員会は大変保守的です。これらの審査委員会は大抵、研究が実際に世の中に貢献したかどうかよりも、被引用数やh指数をより重視する傾向があります。そして、研究者の重要かつ多様な貢献、例えば分野における分析方法に変化をもたらすプログラムの作成や、分野内外での研究データの再利用の許可といった貢献を認めないままにしてしまうことも多いのです。
近い将来、昇進・テニュア審査委員会が、研究に対する貢献度を柔軟に評価するようになることを期待しています。(特に昇進への影響や助成金関連で)研究者がOA出版に前向きになれる要素が増えれば、OA出版サービスへの需要が増え、出版の保守的な傾向は大きく変化していくでしょう。
今日、誰もがオープンサイエンスやオープンデータについて口にします。これらについて、どのように定義あるいは説明しますか?「オープンアクセス」という今日の概念に対して、科学・出版コミュニティはどれぐらい「オープン」だと思われますか?
私は、オープンサイエンスやオープンデータは連続的なものだと思っています。研究をOA出版で提供することだけが、オープンサイエンスやオープンデータではありません。例えば「オープン」にするにしても、データの著作権はOpen Data Commons Licenseに付与するが、アーカイブには、アクセスするために購読が必要なICPSR (Interuniversity Consortium for Political and Social Research)などのリレポジトリを利用するという選択も可能です。(とはいえ、エディテージ・インサイトの読者の皆さんには、ローカルリポジトリや、データの取り扱いに注意が必要な場合はFigshareを利用するなどして、データへの自由なアクセスを可能にすることを奨励します!)購読料を支払わなければならないジャーナルで論文を出版し、プレプリントは研究所のリポジトリにアーカイブすることもできます。これは、BioMed CentralやPLOSなどのジャーナルが普及させたOAとやや毛色が違っているにすぎません。
科学界も出版界も、OAに対してかつてないほど前向きになっていると思います。(もちろん、まだまだ保守的な科学者や出版社も残っているので、先は長いですが!)
研究の影響度を測定することの重要性が高まり、新しいオルトメトリクスが出てきています。ジャーナルの権威を示す指標として、インパクトファクターは引き続き使用されていますが、全面的に使わない、または新しいオルトメトリクスと併用するという人も増えつつあります。そうしたオルトメトリクスにはどのようなものがあり、どのような経緯で生まれたのでしょうか。また、科学界の様々な利害関係者にとってどのような利点があると思われますか。
ジャーナルのインパクトファクター(JIF)は、ジャーナルが出版する各論文の質とはあまり関係がないことは、残念な(しかも驚くほど知られていない)事実です。しかしJIFは、研究者の研究の質を知るための簡便な手段として、雇用や昇進の判断を含めて多くの場面で利用されています。国によっては、研究者がインパクトファクターの高い学術誌から論文を出版すると、報酬が出るところさえあります。正に動機がゆがんでいるといえるでしょう!
これまで世界中の研究者と意見交換を行なってきましたが、私の「『良き科学』とは何ですか?」という問いに対する答えは決まって同じでした。「科学的に良い」研究とは、(a) 質が高く、(b) 世界に貢献するというものです。JIFのような、被引用数に基づいた指標ではこのどちらについてもほとんどわかりませんが、オルトメトリクスによってはわかるものもあります。
- 社会的な影響力を知る目安としては、容易ではありませんが、その研究が政策立案者に参照されたか、あるいはマスコミに広く取り上げられたかということが挙げられます。また、自分の論文がツイッターやFacebookなどのソーシャルメディアでどのように取り上げられているのかを見れば、一般の人々が自分の論文をどのように受け止めているのか、そして人々に影響を与えているのかどうかを知ることができます。
- 自分の研究がその研究分野にどのような影響を与えているかを知りたければ、自分の研究に対する査読や、他の科学者がブログであなたの研究について語っている内容、また引用された文脈を見てみるとよいでしょう。
オルトメトリクスや被引用数で、その論文にどれぐらいの注目度があったかを測定することはできますが、研究の影響度を示しているわけではないという点に注意することが重要です。自分の論文について誰がどのように話しているのかを共有できれば、科学者にとって本当に役に立つことだといえます。(ノーベル賞受賞者は、Publonsであなたの研究を称賛していますか?あなたの論文について、自分と出版社以外もツイートしていますか?NGOや患者擁護団体がオンラインであなたの研究をシェアしていますか?などなど)
新たに登場してきているオルトメトリクスについて、研究者や著者はどれぐらい認識しているでしょうか。オルトメトリクスによる研究の評価指標に対する認識をより高めるために、どのようなことをお考えですか。
言葉そのものは知らなくても、オルトメトリクスという概念に対する研究者の認識は高まりつつあります。ほとんどの人は、「オルトメトリクスはオンラインで自分の研究が話題になっているかどうかを調べる一助となるものだ」と説明すると「合点がいく」ようです。そして多くの人が、自分のオルトメトリクスを他人とシェアしようと思うようになります。
オルトメトリクスの「支持者」を増やそうと思っている人は、一対一で多くの対話をすること(オルトメトリクスが役立つという説得力のある事例を引き合いに出して)、ウェブサイトを作ること、特定のテーマについてまとめたコンテンツを探し当てるのに便利なツールであるLibGuidesのようなものを作ることを勧めます。
オープンデータや影響度を測る代替方法に対して世界中から注目が集まる中、効率的な科学コミュニケーションを可能にし、情報を提供するという点でリポジトリが果たす役割とはどのようなものになるでしょうか。
リポジトリは、科学コミュニケーションをより迅速にし、効果的なものにするために大きな役割を果たします。テーマを特化したArXiv(数学、物理学、計算生物学などのジャーナルに掲載された論文の電子プレプリントのリポジトリ)やSSRN(社会科学や人文科学の学術研究の迅速な普及を支援)などのリポジトリは、ジャーナルよりも分野全体との関連性が強いといえます。これらのリポジトリは、最新の研究の頼れる情報源として機能しており、購読者ベースの出版物よりもアクセスしやすいフォーマットで、ずっと安価に利用できます(例えばArXivの場合、エンド・ユーザーは無料で利用でき、支援機関にも1文献のアップロードにつき約6ドルのコストしかかかりません)。またこれらは、値の張る購読型ジャーナルにアクセスできない発展途上国の研究における重要な情報源です。
また、研究をリポジトリにアップロードすると、信じられないほど大勢の人の目に触れることになります。例えば2012年のネイチャー誌の読者は約300万人でしたが、ArXivの読者はその約2倍でした(そして今では1ヶ月当たり1200万人の読者を数えます)!
これまで仕事をしてこられた中で、オープンアクセスやオルトメトリクスの使用の受け入れに関して、地域による違いはありましたか。これらの概念が、特定地域の研究者により広く受け入れられているかどうかをお聞きしたいと思います。もしそうなら、これらの動きをより多くの人々に普及させていくために、どのような段階を踏む必要があるでしょうか。
私が思うに、オルトメトリクスの受け入れは、地域よりも研究分野によって違いがあると思います。例えば「インターネットに慣れ親しんでいる」科学といえる生物情報科学分野の研究者は、保守的な化学者に比べて、概してオルトメトリクスに対する理解があるといえます。
とはいえ、世界のどの地域にいるかによって、学者が自分の研究のために受け取ることができる情報量には違いがあります。そのために、学者がオルトメトリクスを有益だと思うかどうかに違いが出ることになるのかもしれません。オルトメトリクスの情報収集プログラムが、例えばある地域でツイッターやFacebookなどよりも重要なSina Weiboなどのサイトを追跡していないために、自分の研究のオルトメトリクスが見つからないならば、オルトメトリクスを受け入れにくくなるということはあるでしょう。(このため、Altmetricでは、そのような情報源も追跡しようとしています。できるだけ地域の事情を反映したデータにしたいと考えています。)
つい最近までの科学におけるコミュニケーションは、伝統的な形式としての査読と、支配的に君臨しているインパクトファクターが全てでした。今は既存のシステムに疑問が呈され、より新しい出版モデルやオープンアクセス、データシェア、別の方法による研究評価の方法が出てきています。今後の展開をどのように見ておられますか?
- 理解度の向上:「インパクト(影響度)」が本当に何を意味するのかについて、もっと内容の深い会話がみられるようになる。また、多種多様な影響度がもっと受け入れられるようになる。
- さらなる普及:出版社は、eLifeの LensやPeerJのPaperNowなどの重要な事業を基盤として、研究をオンラインで消費できるものとして提供する新しい方法を引き続き試みていく。
- OA出版の収益改善:出版社、学会、図書館がOAの新しい財政モデルを発案・テストし、学術界に存在するOA出版は「画一的で構わない」という考え方が変わっていく。
- 認識の改善:個人による多様な学術的貢献の形には、データ・キュレーション、プロトコルの設計、学術サービス活動(査読やブログ記事作成など、個々にみれば重要であるが、現在は過小評価されている学術的生産活動)などに関連しているものがあるが、それらの力が、ようやく認められる。これらの活動について、従来から評価されてきた学術活動と比較して、(劣っているのではなく)形式が異なるだけと捉えられるまでに、我々の認識も柔軟になる可能性がある。
エディテージ・インサイトの読者の皆さんがどのような未来を思い描いているかをお聞かせ頂けたら嬉しいです!
コンキールさん、ありがとうございました!
さて、私たちはこの先どこへ向かって行くのでしょうか?オルトメトリクスについて、思うことはありますか?あなたの考えを、是非コメント欄でお聞かせください。
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