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研究者が撤回について知っておかなければならないこと
撤回とは?
研究論文は掲載に至る前に、査読者によって徹底的な精査を受けます。にもかかわらず、時には掲載後誤りが見つかることがあります。連絡先住所の間違いとか、著者名の訂正のように、誤りが小さいものであれば、訂正通知を出すことが可能です。けれども、論文の妥当性が問題視されるほど重大な誤りである場合は、撤回しなければならないかもしれません。撤回とは、ある研究の信頼性が疑わしいことを読者に警告する手段です。論文の掲載にはつきもので、たとえ一流のジャーナルであっても論文を撤回しなければならないこともあります。撤回の目的は、誤っていた著者を罰することではなく、研究データを修正し、科学の信頼性を守ることです。
なぜ論文が撤回されるのでしょうか?
論文が撤回されるのは、訂正通知や懸案事項に関するレター論文によって直すことができない場合だけです。出版倫理委員会(COPE)によると、ジャーナル・エディターは以下の場合に論文の撤回を考えたほうがいいといいます:
- 不正行為(たとえば、データのねつ造)、か悪意なき誤り(たとえば、計算間違いや実験誤差)の結果、研究結果が信頼できないという明らかな証拠がある場合
- 適切な相互参照、許可、正当な理由なく、研究結果がどこか別のところですでに発表されていた場合
- 盗作が含まれている場合
- 非倫理的な研究である場合
けれども、時には、読者から査読プロセスを疑問視されるかもしれないという理由で、評判を落とすことを恐れ、撤回理由を明らかにしないジャーナルもあります。この問題に対処しようと、ニューヨークのジャーナリストで、ブログ「Retraction Watch」の共同設立者であるイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)氏は、ジャーナルの「透明度指数(transparency index)」を設定し、撤回通知の明確さといった基準でジャーナルをランク付けすることを提案しています。こうした指標があれば、なぜ研究の信頼性を証明できなかった論文があるのか理解するのに役立つでしょう。ただし、著者がはっきりとした理由なく論文を取り下げる場合は問題も残ります。
論文を撤回するのは誰ですか?
論文の撤回について最終判断を下すのはジャーナル・エディターですが、撤回を発表できるのは論文の著者とジャーナル・エディターのいずれかです。時には、両者が共同で発表することもあります。エディターから著者へ、欠陥のある論文を撤回するよう求めるかもしれませんが、著者が断った場合はエディター自身が撤回することができます。
ジャーナルのエディターが撤回を決めたらどうなりますか?
ほとんどの場合、エディターは、そのとき調べている研究論文に誤りがないか注意しています。何らかの不正行為が見つかれ、撤回通知が発表されます。 COPEによると、撤回通知では、その論文が撤回される理由が説明され、論文の出典が完全な形で掲載されます(撤回通知の例はこちらで見ることができます) 。さらに、撤回された論文は公開され、撤回論文であるとはっきり表示されます。COPE は、撤回通知について以下のアドバイスも行っています:
- 可能な限り、撤回された論文にリンクさせる(言い換えると、すべて電子版で、ということ)
- 撤回された論文ははっきりとわかるようにする(たとえば、撤回の見出しにタイトルと著者名をのせる)
- 撤回されたことが、はっきりとわかるようにする(つまり、他の修正やコメントと区別するということ)
- 誤解を招く恐れのある論文からの有害な影響を最小限にするよう、迅速に公表する
- 読者全員が無料で読めるようにする(つまり、(読者が)アクセスするときの障壁をはずし予約購読者にだけ利用可能にしない)
- 論文を撤回したのは誰かを示す
- 撤回理由を示す(不正行為と悪意なき誤りを区別するため)
- 中傷的になる可能性がある発言は避ける
撤回は、出版業界では非常に広く議論されているテーマです。撤回率は増加しています。こうした傾向が見られるのは、論文の掲載をめぐる激しい生存競争ゆえです。科学出版(の世界)において撤回は避けられない一面であるなら、研究者は撤回が持つ意味を意識し、撤回を避けるため必要な策を講じなければなりません。
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