撤回された論文は、研究が信用をなくしたにもかかわらず、なぜ引き続き引用されるのか?

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撤回された論文は、研究が信用をなくしたにもかかわらず、なぜ引き続き引用されるのか?

撤回 は、論文の信頼性の疑わしさを研究コミュニティに知らせる一つの方法で、その論文はもはや、研究の妥当な根拠として引用すべきではないとういうことを明確に示しています。しかしながら、撤回した論文は撤回を宣言された後も長いこと「余生」を送ります。John M. Budd氏(コロンビア州にあるミズーリ大学の情報科学・学習技術学部 教授)が行った研究によると、撤回論文は定期的に引用されているということですScholarly KitchenのPhilip Davisが行った研究でも同様の結果が得られました。なぜ撤回論文が引用されるのでしょうか?

大部分の研究者は、撤回論文を引用したくないと思うでしょうが、撤回に関する情報の不足が基本的な障害として彼らの前に立ちはだかります。論文の撤回や撤回告知の公開において、様々な理由から適切な行動をとらないジャーナルは多いです。場合によっては、信頼性の低い研究の申し立てを調査し、結論を下すのに数ヶ月、あるいは数年かかる可能性があります。他に、著者が論文撤回を拒否することもあります。ですから、当該論文が撤回されていることに気づかず、研究者が引用してしまうこともありえるのです。自分たちの評判を守るため、撤回に関する通知の発表を控えるジャーナルが多いことが、この状況をさらに悪化させています。その上、Googleでの論文検索により、読者は撤回告知を飛び越えて、論文のPDF版を直接入手することができます。

撤回告知を発表するときでさえ、ジャーナルは出版倫理委員会 (COPE)の勧告に従っていません。COPEは、撤回通知書は、ジャーナルの電子版でも紙版でも、目立つ形で取り上げるよう推奨し、またインターネットで読むことができる当該論文はすべて(アブストラクト、全文、PDFなど)、「撤回(‘retracted’)」の表示と撤回理由を付けるよう提言しています。しかしながら、ジャーナルの出版社は、インターネットによって研究論文にアクセスする手段が複数存在するようになったため、そうした手続きにいつでも従うことができるわけではない、と主張しており、そのことが撤回告知を伝えるプロセスを非常に複雑にしています。さらに、パソコンにダウンロードされたり機関リポジトリに保存されたりしている論文は、ジャーナル出版社の手から離れ、簡単に広まってしまう恐れがあります。

このような制限要因があるにもかかわらず、引用する研究を選択するとき注意しなければならないのは結局のところ研究者自身であるというのが、ほとんどの専門家の考えです。出版物の量が飛躍的に増加していることから、研究者が自分の専門の論文とその結果についてすべてわかっているということは、ほとんど期待できないといえるでしょう。しかしながら、John M. Budd氏が推察しているように、何年も前に撤回された論文に気づかない研究者もいるようです。このことはつまり、彼らがその論文のオリジナルを出版社のウェブサイトで探しておらず、遠回りし、あまり信用のおけない方法で論文を見つけたということを示唆しています。できるだけ早く論文を発表しようとする競争の中で、研究者は、信頼性の高いよく研究された事実にもとづいて自分の研究結果を示すという道義的責任を省いているのかもしれません。そうすることで自分の評判が損われるだけでなく、科学の進歩も阻害される恐れがあります。

この問題に取り組むため、Phil Davisは出版社に対し、文献レビューと文献引用の各段階において以下のアプローチを取るよう勧めています:

  • 発見段階(
    Discovery):
    文献と引用を通じた検索の段階で、ある論文が撤回されたことを読者に知らせる(撤回公知のついた論文と合わせて)。
     
  • 講読段階(Reading):
    論文の更新状況にCrossMarkのようなサービスをつけて提供する。
     
  • 執筆段階(Writing):
    MendeleyやEndNoteといった文献管理ツールにステータス検索機能を組み込む。
     
  • 出版段階(Publishing):
    論文を査読する段階で、参考文献一覧において、撤回された文献を見つける。 

基本的には、科学コミュニケーションに、透明性を築き、出版者と研究者間のコミュニケーションに入り込んでいく能力がなければなりません。ジャーナルが撤回通告をあらゆるソースへと広めるべきであり、研究者は、論文で引用する研究が信頼のおける、最新のものであるように努めなければなりません。

 

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