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査読の不正操作:著者による査読者の推薦は許されるのか?
The Journal of Enzyme Inhibition and Medicinal Chemistry 及び BioMed Centralで、出版を目的として著者が査読システムの不正操作を行うという事件がありました。これは、「査読の不正操作」という、最近科学出版界が頭を抱えている問題に脚光を浴びせました。査読は、科学出版における品質管理に有効と考えられており、ほとんど全ての著名な学術誌で行われています。しかし、出版しなければならないという重圧から、査読システムを悪用する著者が出てきてしまいました。Natureの記事で紹介されたRetraction Watchチームが指摘するように、この自己査読という不正行為によって、科学出版システムにおける数多くの抜け穴の存在が露呈しました。
過去2年間で、査読の不正操作を原因として撤回を余儀なくされた論文は、複数の学術誌で110本に及びます。その中には、SAGE、Wiley、Taylor & Francisなどから出版されている、評価の高い学術誌も含まれていました。出版社の最大の懸念は、著者が容易に出版システムを悪用できるという点です。The Journal of Enzyme Inhibition and Medicinal Chemistryで行われた査読不正操作で、薬用植物研究者であるムン・ヒュンイン(Moon Hyung-In)氏が行なったことは、単純なものでした。偽のメールアドレスを添えて原稿の査読者候補を提案し、自分や自分の同僚に編集者から要請が来るようにして、自分たちに有利な査読結果が編集者に届くようにしたのです。ムン・ヒュンイン氏の告白により、Informa社の複数のジャーナルから論文28本が撤回され、編集者一人が退職しました。別の大きな査読不正操作事件として、「査読及び引用を悪用する組織」によって、SAGE
社が60本の論文を撤回することになったものがあります。研究者の陳震遠(Peter Chen)氏は、130もの偽メールアドレスを利用して個人情報を捏造し、不正査読を行なっていました。これらのスキャンダルにより、専門家の間では、著者が査読者候補を提案することを認めるべきか否かという重大な問題に関する議論が巻き起こりました。多くの学術誌では、原稿提出時に査読者の推薦を求めています。このような体制が取られている理由の一つとして、編集者は出版プロセスを早めたいものの、原稿の査読を了解し、かつ期限を守ってくれる査読者を探すのが難しいということが挙げられます。もう一つの大きな理由として、専門分野においては、(編集者に比べて)著者の方が、自分たちの研究を分析する能力を持ち、なおかつ利益相反もない査読者を提案しやすいということがあります。著者の推薦する査読者に連絡するかどうかは編集者の判断に任されていますが、ほとんどの編集者はこのような推薦を適切だと考えます。しかし、著者ではなく編集者が論文の査読者を決定するべきだ、と考える編集者もいます。
著者の推薦した査読者と、編集者の推薦した査読者の査読結果に違いがあるのかどうかというのは、興味深い疑問です。The Journal of Pediatricsが同誌の査読システムに関して行なった研究では、興味深い結果が出ています。編集者が推薦した査読者 (editor-suggested reviewers, ESRs) は、著者が推薦した査読者(author-suggested reviewers, ASRs) よりも、受理提案する率が低いという結果でした。
受理あるいは修正を提案する割合は、ESRでは75%、ASRでは86%以上でした。著者が、好意的な査読をしてくれそうな査読者を推薦するのは当然なので、著者が推薦する査読者に加え、自分で選んだ査読者にも査読を依頼する編集者もいます。Springer社が出版するOsteoporosis Internationalの編集長、ロバート・リンゼイ(Robert Lindsay)氏によると、西洋圏の編集者がアジア圏の著者の投稿を扱う際には、このような方法をとることがよくあるということです。アジア圏の著者が推薦してくる査読者になじみがなく、利益相反の可能性がよくわからないためです。逆に、査読の悪用を心配し、著者の推薦する査読者を一切採用しないジャーナル編集者もいます。
ジャーナル編集者が著者の悪意に気づき、査読システムの悪用を防ぐにはどうしたらいいのでしょうか。ジャーナル側が査読の不正操作に対処するためのガイドラインはあるのでしょうか。これらの重要な疑問に対する答えは、この記事の続編Peer review rigging: What can journals do to tackle this problem? でご覧ください。
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