ハゲタカ出版社疑惑のOMICSがカナダの著名出版社を買収

ハゲタカ出版社疑惑のOMICSがカナダの著名出版社を買収

論理的根拠に乏しいいわゆる「ジャンクサイエンス」(疑似科学/ニセ科学)を流布しているとの非難を浴び、ハゲタカ出版社の疑惑がかけられている学術出版社、OMICS International(インド)が、カナダの定評ある著名出版社、Andrew John PublishingPulsus Groupを買収しました。この2社が出版するジャーナルには、Plastic SurgeryCanadian Journal of PathologyCanadian Journal of OptometryCanadian Journal of General Internal Medicineなどがあります。この買収について、カナダのマスコミ大手CTV Newsとトロント・スター紙は共同調査を行いました。調査報告によると、買収が発覚した経緯も物議を醸すものであるらしいことが分かりました。トロント・スター紙の報告によると、Andrew John Publishingの社員やその提携医学機関は、買収について知らされていませんでした。Andrew John Publishingの医学ジャーナル4誌でかつて編集長を務めていたローズ・シンプソン(Rose Simpson)氏が不審な点を感じてグーグル検索したところ、買収が発覚したといいます。シンプソン氏は、カナダの研究界に警鐘を鳴らすためにこのことを大々的に公表する決意をしました。 


Canadian Society of Internal Medicine (CSIM)

などのジャーナル数誌は、出版元がOMICSに買収されたことを最近知り、出版契約を解除しようとしています。トロント・スター紙の報告では、CSIM会長のステファン・ホワン(Stephen Hwang)博士の以下の言葉が引用されています。「かつては信頼性の高かったジャーナルが、買収によってゾンビジャーナルに変わってしまっていることがあるので注意が必要です。すでに科学的な整合性が失われた状態で、まだ辺りをうろついて論文を出版し続けているかもしれませんが、もはやかつてのジャーナルではない可能性があるのです」。この件についてコロラド大学の司書で准教授のジェフリー・ビオール(Jeffrey Beall)氏はブログ記事で、「OMICSがAndrew Johnの買収をカナダでの『足がかり』として利用し、学会ジャーナルを中心とするほかのジャーナルも買収しようとしていることが明るみになりつつある」と述べています。


OMICSに対する申し立て:オープンアクセス出版モデルを掲げるOMICSは現在、米国の連邦取引委員会(FTC)から、「出版の性質」と出版プロセスについて事実を歪曲したとする訴訟を起こされています。訴えの内容は、編集委員や査読プロセスに関する虚偽の主張を行なったというものです。FTCによると、OMICSのウェブサイトには著名な学術関係者や経験豊富な編集者、査読者の協力を受けていると書かれています。しかし、名前を掲載されている編集者の中には、協力に同意していない人も含まれているようです。例えば、ブリティッシュコロンビア大学の准教授であるウィリアム・ジア(William Jia)氏は、OMICSの外科ジャーナルから編集の依頼を受けたものの、まだ何の仕事もしていないと述べています。また、(OMICSのジャーナルから)論文を出版しようとしている著者は、数百ドルから数千ドルにのぼる出版費用について知らされないままになっているということです。ほかにも、架空の国際学会の宣伝を行い、信じ切っている参加希望者に学会費を払わせようとしているという疑惑があります。さらに、訴訟に関するFTCの最新発表によると、OMICSのジャーナルの「影響度の数値は、OMICSが独自に算出したものであり、消費者に明確な事実が公表されていない」ため、信用できないと言われています。


OMICSの反論:OMICSグループのCEO兼専務取締役であるスリヌバブ・ゲデラ(Srinubabu Gedela)氏はFTCの訴えを否定し、「我が社に対する告発は、すべて欧米諸国の(中略)一部の出版社やその代理人からのものに過ぎない」と強調しています。 ゲデラ氏は、OMICSが年間5万本以上の論文を掲載する700誌以上のオープンアクセス誌をどのように運営しているのかについて説明するとともに、同社が5万人にのぼる強力な国際編集委員会から支持されていると主張しています。彼はまた、OMICSの査読プロセスに対するFTCの告発についても否定しています。OMICSがジャーナルの内容を左右しているという懸念に対してゲデラ氏は、「Pulsus Groupのジャーナルの内容や編集に対して制約は設けていない」と述べています。


OMICSによる買収というニュースにより、非倫理的な出版行為や「ハゲタカ出版」、「ジャンクサイエンス」に関する新たな議論が巻き起こりました。責任ある出版リソース連合(CRPR)創設者の1人であるスザンヌ・ケトリー(Suzanne Kettley)氏は、ジャンクサイエンスに誘発される可能性のある弊害について次のように述べています。「オンライン上にジャンクサイエンスがはびこれば、例えば予防接種に関する情報を探している人が、偽ジャーナルに掲載された、実際の研究に基づかない反ワクチン派の論文を見つけるかもしれず、危険です」。今回の出来事で研究者や編集者は、OMICSが「カナダのジャーナルの名前や評判をハイジャックする」のではないかと恐れています。OMICSに対するFTCの訴えは重大なものであり、FTCが勝訴すれば、OMICSは複数の違法行為に対する罪状を受け、何千本という出版済み論文をジャンクサイエンスとしたことに対する責任を負うことになります。


参考記事:

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