掲載後の査読---まだ講じられていない手段

掲載後の査読---まだ講じられていない手段

科学は急速に進歩していますが、時には、研究の非再現性、不正な発表、悪意のない誤りといった障害のせいで失速することもあります。そういうことをなくすために、掲載された研究は掲載前に査読を受けているのです。にもかかわらず、誤った研究が掲載されてしまうことがあります。欠陥のある研究を掲載後に発見する、主な方法の1つが、掲載後の査読です。先日のSTAP幹細胞研究をめぐる論争は、その1つの例です。例のSTAP幹細胞研究は画期的だと思われていましたが、掲載後間もなく仲間の研究者が、研究の非再現性を考慮したうえで、主張が間違っていることを明らかにしました。ですから、掲載後の研究は、掲載された研究を承認するのにきわめて有効となりえるのです。

掲載前の査読と掲載後の査読の違いは何でしょうか?いくつか重要な側面1があります。

  • 妥当性: 掲載前の査読では、研究を選抜するのは2、3名の研究者です。ですから、研究の信頼性について疑問を抱かせるような個々の細部に気づく可能性は小さいのです。掲載後の査読では、科学コミュニティ全体がその研究を審査することが可能です。
     
  • 透明性: 概して秘密主義で、選ばれた数の査読者だけが関わっている伝統的な査読と異なり、掲載後の査読は、掲載された研究の正しさを実証したいと思っている人すべてに開かれています。さらに、直接的に、仲間の研究者が自由に自分たちの見解を発表することができるだけでなく、間接的に、掲載したジャーナルに手紙を書く、著者へ自分からコンタクトを取る、批評を自由だが匿名で投稿することもできます。
     
  • コミュニケーション: 伝統的な査読は、エディター、査読者、著者の間のやり取りでした。一方、掲載後の査読は、その分野あるいはコミュニティ全体の専門家間のコミュニケーションになります。この場合、専門家の意見は、注意と議論を引きつけるのに十分な説得力がなければなりません。これに対し掲載前の評価は、査読者の判断が強制力を持つにもかかわらず、それに依存しているのです。

オンライン出版の時代の今、掲載された研究についてのレビューを共有することは容易になって来ています。その分野の専門家が論文を引用し、それに関する自分の見解をブログで公開することが可能です。しかし、出版社が掲載した論文とブログの投稿の間になんら関係がないために、自分の研究が議論されていることに著者は気づかないかもしれません。ただし最近は掲載後の査読が第三者によって再設計されています。入手可能なプラットフォームをいくつかご紹介しましょう2

1. PubPeer: DOI(デジタルオブジェクト識別子)を持つほとんどすべての論文に対し、ユーザーがコメントを書けるサイト。ただし、出版社のウェブページとは別のサイトです。 

2. PubMed Commons: コメントを利用するためPubMed の中に作られたプラットフォームです。現在は予備段階で、PubMed Commons PubMedの論文の著者に参加と論文へのコメントを呼び掛けています。批評の投稿は匿名ではありません。

3. Open Review: 本ツールは、学術的なソーシャル・ネットワークResearchGateによってつくられました。ネットワーク上で掲載された論文に対し、自由なフィードバックを発表するよう、著者を促しています。構造化されたフィードバックのメカニズムとコメント機能を結びつけるのが特徴です3

掲載された研究に対し効果的にコメントをする、こうした方法があるにもかかわらず、科学コミュニティのすべての人がそれらを使おうと思っているわけではありません。理由は様々です。研究を批判することで仲間の研究者を混乱させたくないという理由から、自分の批評を示すのに乗り気ではない人もいます。さらに、即興のアイデアや将来の研究への道筋を洩らしたくないという個人的な理由が関わっている可能性もあります。興味深いことに、自分の研究に対し一般の人からのコメントを受け付けていない著者もいます。理由の一つに、専門家からの嫉妬心や偏見の対象になることの恐れがあります。British Medical Journal (BMJ)のエディターで、United Health Groupの慢性疾患イニシアティヴのディレクターである、リチャード・スミス(Richard Smith)氏は、 掲載された研究に対しコメントしようというやる気が研究者にはないと感じています。同様の文脈で、The Scholarly Kitchen でブログを書いているケント・アンダーソン(Kent Anderson)は、掲載された研究知見が正確ではないだろうという信念と、それらを正そうと思う気持ちが、ある人々にとっては動機づけとしてはたらくのかもしれないと述べています。こうした理由から、掲載後の査読はディスコースとしてほとんど未開拓なままなのです。          

科学のもっとも固有な特性は、吟味と疑問に対し開かれた事実にもとづいているということです。ほんのわずかでも信じられないところがあれば、大きな理論を覆してしまうこともできるのです。一方で、研究知見の繰り返しによって、事実と同様に理論も認められることもあります。頑健で常に進歩し続けるという科学の特性は、掲載後の査読に端を発しています。カリフォルニア大学バークレー校の生物学者でハワード・ヒューズ医学研究所の調査官であるマイケル・アイゼン(Michael Eisen)氏は次のように述べています。「こんにちの科学コミュニケーションにおける最大の問題は、科学という仕事の妥当性や重要性を評価する際に、論文がどこで発表されているかに過度の価値を置いていることである(“The biggest problem in science communication today is the disproportionate value we place on where papers are published when assessing the validity and importance of a work of science.”)」。まさに彼が言う通りで、どんな研究であっても、本当の検証とは実際の世界での適用性と普遍的な再現性にあります。結局のところ、科学研究のいかなる一片でも、その信頼性を評価し実証することができるのは、仲間の研究コミュニティなのです。それゆえに、掲載後の査読が広く受け入れられなければならないのです。

掲載後査読の有効性についてどう考えますか?
ぜひ意見を聞かせてください。

1. http://futureofscipub.wordpress.com/open-post-publication-peer-review/ 

2. http://blogs.scientificamerican.com/information-culture/2014/03/26/post-...

3.http://gigaom.com/2014/03/14/academic-social-network-researchgate-aids-d...

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