研究プロポーザルにおける課題ステートメントの書き方入門

研究プロポーザルにおける課題ステートメントの書き方入門

研究とは、新たな事実の発見によって現状の知見を広げたり改めたりするための、体系的な調査プロセスであり、おおまかに次の2つのカテゴリーに分類できます。(1) 科学的知見を増やすことを目的とする基礎研究。(2) 基礎研究を用いて問題解決や新たなプロセス・製品・技術の開発を目的とする応用研究。


あらゆる研究の第1段階に位置付けられ、もっとも重要とされるステップは、研究課題を特定し、その輪郭を描くことです。すなわち、解決したい課題や、解消したい疑問を明確にすることです。研究課題とは、関心領域、現状の知見で明らかになっていないこと、あるいはさらなる理解や調査を必要とする、基準や標準からの逸脱と定義できるでしょう。研究課題を解決する方法(つまり差異を埋め、逸脱を正す手段)はさまざまですが、その方法が明確でない場合や、すぐに利用できるわけではない場合に困難が生じます。こうして、実行可能な解決策に到達するための研究が必要となるのです。

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研究活動では、研究で取り組む課題の概要を述べる意見表明として、課題ステートメント(Statement of the problem)が使われます。このステートメントは、「研究で取り組む課題は何か?」という問いを簡潔に説明するものです。


課題ステートメントの目的

課題ステートメントの究極の目標は、一般的課題(気になることや知りたいこと)の焦点を定めた上で、的を絞った研究や慎重な意思決定を通して解決することが可能な、明確な定義を持つ課題に変換することです。


課題ステートメントを書くことで、提案したい研究プロジェクトの目的が明確になるはずです。多くの場合、このステートメントが最終的なプロポーザルの導入部の土台となります。提案したプロジェクトで取り組む課題について読者の興味を素早く引きつけ、提案プロジェクトについて、読み手に簡潔に説明するものにしましょう。

課題ステートメントは、くどい長文にならないよう注意が必要です。優れたステートメントは、1ページもあれば十分でしょう。


課題ステートメントの特徴

優れた課題ステートメントには、以下の特徴があります:

  1. 現在の知見に不足しているものについて検討している
  2. 既存の研究体系に寄与する意義を持つ
  3. さらなる研究に繋がる
  4. 課題そのものが、データ収集を通じた研究に役立つ
  5. 研究者が関心を持っており、本人のスキル、時間、リソースに見合っている
  6. 課題解決のアプローチが倫理的である

 

課題ステートメントのフォーマット

説得力のある課題ステートメントは、通常以下の3パートで構成されています:

A (理想): 目標とするゴールや理想的状況を述べる(物事がどうあるべきかを説明する)。

B (現実): 現段階でAの目標・状態・価値の達成/実現を妨げている条件を述べる(現在の状況が、目標や理想からどの程度かけ離れているかを説明する)。

C (結論): 現状を改善して目標や理想に近付くために提案する方法を明確にする。

 

以下で1つの例を紹介します:
 

1

A: XY大学の綱領によると、同校は学生に安全かつ健全な学習環境を提供しようと努めている。XY大学の学生の55%が寮で生活しており、学習時間の多くが寮の自室で費やされていることから、良い学習環境の提供において、寮の重要度は高いと言える。


しかしながら、


B: A、B、C、D寮には現在空調設備が設置されておらず、夏場には室内温度が26.7°Cを超えることも珍しくない。学生の多くは、このような環境で勉強することに困難を感じている。このほか、温度と湿度による睡眠の問題も報告されている。こうした環境は健全と言えないばかりか、学生の生産性や学術的成果に悪影響を及ぼしている。


C: 本研究では、寮をより快適な環境にするいくつかの方法を検討し、この問題に対応したい。包括的な参加型調査により、(学内予算、学生の援助による)エアコンの購入や最適な空調システムについて検討したい。また、以上の問題の一部またはすべてを、できる限り低予算で緩和できる方法を模索する(学習エリアやパソコンエリアを完備した空調設備付きのラウンジの設置など)。

 

課題ステートメントを書くための4ステップを紹介します:


ステップ1ステートメント1: 現在の状況や現象に対して、目標や望ましい状態を説明する。これにより、(どうあるべきか、何が期待され、求められているかという)理想的な状況を把握できる。


ステップ2ステートメント2: ステップ1で述べた目標、状況、価値の達成/実現を現段階で妨げている状況を説明する。これにより、現実・現状を明確化し、理想と現実のギャップを把握する。


ステップ3 : 「ただ(but)」、「しかし(however)」、「残念ながら(unfortunately)」、「にも関わらず(in spite of)」などの接続詞でステップ1と2を繋げる。


ステップ4(ステートメント3: 具体例を用いて、ステップ2の状況は何らかの対応を取らない限り改善が見込めないことを示す。さらに、可能な解決策を講じた場合の結果を予測することで、研究のメリットを強調する。

 

これらのステップを用いた課題ステートメントの具体例を紹介します:


2

ステップ1(ステートメント1)

ケニア政府は、2030年までに自国を工業化させる目標を掲げている(参考文献)。このため、同政府は、拡大志向の零細・小規模企業(micro and small enterprise、MSE)が、工業化の目標に寄与し得る中・大企業へ移行するよう促している。MSEの成長を奨励・支援するための具体策が盛り込まれた会期報告書などがいくつか発表されている(参考文献/引用)。


ステップ23ステートメント2

このような政府の努力をよそに、零細企業から小企業への成長速度は鈍く、小企業から中企業へのそれはさらに鈍いのが現状である(参考文献/統計の提示)。「空白の中間層」の存在は政府も公式に認めており、国内の小企業と大企業の格差が問題となっている(引用、参考文献)。


ステップ4(ステートメント3

この「空白の中間層」が存在する限り、工業化の目標は達成困難だと思われる。したがって、政府の努力にもかかわらず「空白の中間層」がなくならない要因を調査する必要がある。

 

3

ステートメント1

公立大学は、使命達成のためにモチベーションの高い人材を確保する必要がある。


ステートメント2

しかしながら、公立大学でよくみられる厳格な懲戒処分や常習的欠勤のほか、各種の不安定さが、このような使命の達成を阻害している。また、予備調査では、管理層と非管理層がいずれもモチベーションが低い状態であることが明らかになっている。


ステートメント3

職員への効果的な動機付けを行わない限り、上記の悪習が改善される見込みはなく、大学の使命を達成することは困難だと思われる。


したがって、公立大学の動機付けに関するシステムや取り組みについての調査が必要と考えられることから、本研究ではこれを目的とする。

 

4

ステートメント1

青少年省は、若者と女性を対象とした企業開発基金の配分に取り組んでいる。この基金は、雇用を創出・拡大できるような起業家を支援するためのものである。(関連する統計データや参考文献を提示)


ステートメント2

同省が重視するのは一貫性である。次世代に配分する基金の一貫性を保つには、過去の配分や確立されたノウハウへの予備知識が必要だが、残念ながら、現状の継続的な支払い手法では、過去の支払いに関する適切な分析を行うことができない。


ステートメント 3

現状の支払い手法を続ける限り、一貫性を保つことは困難であり、基金の目標達成を妨げるような政治的判断を下す状況に繋がる。より多くの情報を基にした支払いシステムの開発は、同省が重視する一貫性の向上に役立つと考えられ、同時に、基金の監視と評価のしやすさにも繋がる。


本研究では、一貫性に着目した新たな基金提供システムの手段について検討したい。このために、本研究では、利害関係者の分析を十分に行い、その結果をふまえて、適切な政策介入を提案したい。

 

その他のアプローチ


その他、テンプレートを使用して課題ステートメントを書くという方法もあります。基本のテンプレートを以下に示します:

­­­­­­­­­­­­­­­­­­­______(問題が起こっている組織や状況など)で問題が発生している。 ______(問題を防ぐための取り組み)にも関わらず、______(望ましくない出来事、予期せぬ出来事)が発生している(エビデンスを示す)。この問題は、_____________が原因で、______(問題の犠牲になっているもの)に悪影響をおよぼしている。考えられる要因は______である。______(理論的枠組み/手法)によって______を調査することで、状況を解決できる可能性がある。



このテンプレートを使用して作成されたステートメントの例を、以下に示します:


ケニアで中小企業立ち上げのための基金提供を行うには、まず予算を確保する必要がある。これらの予算の中には、青少年基金や女性基金が含まれており、国内の起業率を高めるのに役立っている。しかし、ベンチャー企業では最初の起業後まもない段階を過ぎると、問題が生じ始める。まずはマネジメントの問題に直面し、それがマーケティングの問題に繋がり、最終的に停滞を招いて早期撤退に追い込まれる。


開発学研究所( Institute of Development Studies)による調査(RoK, 2004)によると、成長を遂げている企業はわずか38%で、58%は雇用を拡大できずにいる。この調査によると、起業後3年以内に撤退を余儀なくされる企業は増加傾向にある。同研究所がこの4年後にケニア中央州で別の調査を行なった結果、57%の中小企業が停滞状態にあり、一定の成長を示しているのはたった33%であった。


本プロジェクトでは、中小企業の持続可能性に影響を与える要因について検討する。ケニアにおける中小企業の成長の成功要因を特定することを目的として、定性的・定量的アプローチで一次・二次データの収集を行う。

具体的には、製品ライフサイクル理論(product life cycle、PLC)を用いて、PLCの各段階における中小企業のニーズを特定する。

 

参考文献:

1. RoK, (2008). Economic Survey. Nairobi, Kenya. Government Printer.

2. Nyaga C.N. (2009). Non-financial constraints hindering growth of SMEs in Kenya: The case of plastic manufacturing companies in industrial area in Nairobi county.  (A masters  research thesis, University of Nairobi).

3. Nyagah C.N. (2013). Non-financial constraints hindering growth of SME’S in Kenya: the case of plastic manufacturing companies in industrial area in Nairobi County (Doctoral dissertation).

 

本記事は、Mukmik consultantsのウェブサイトに発表された記事、 Is it problem statement or statement of the problem?を編集したものです。著者の許可を得た上で編集・再掲載を行なっています。

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