「デジタルネイティブ」という観念は幻想か?
現代の若者世代の世界には、バズワードやキャッチフレーズ、略語、絵文字が溢れています。テクノロジーに精通している1980年以降に生まれた世代が「デジタルネイティブ」と命名されたときは、誰もが納得したものです。1980年以降生まれの世代がデジタルネイティブなら、1980年よりも前に生まれた世代は「デジタル移民」と呼ばれています。しかし、最近発表された研究は、デジタルネイティブという観念は幻想で、世代によって情報の取り入れ方が異なることを示す証拠は何もないと主張しています。
デジタルネイティブ世代は、新しいサービスや製品を早い段階で導入する「アーリー・アダプター」であり、情報強者とみなされています。社会学者は、彼らの学習方法は上の世代と異なるので、各種マルチメディアを含む教育戦略の改編が必要であると考えてきました。しかしながら、Teaching and Teacher Education誌に発表されたレビュー論文は、スマートフォンやインターネットと共に育った「デジタルネイティブ」世代が、テクノロジーに強く、異なる学習方法を持ち、上の世代よりもマルチタスクが得意であるという定説を裏付ける証拠はどこにもない、と主張しています。
「デジタルネイティブ」という観念は、教育者のマーク・プレンスキー(Marc Prensky)氏によるエッセイが発端とされています。プレンスキー氏は、この新たな世代は、テクノロジーを駆使して複数の情報の流れを処理することに長けていると述べており、彼らに合わせた教育手法やカリキュラムの改編が必要であるという主張を生み出しました。しかし、今回の研究の共著者であるオープン大学(オランダ)教育心理学教授のポール・キルシュナー(Paul Kirschner)氏は、特定のグループを特別扱いすることに警鐘を鳴らしており、新世代がテクノロジーに関する特別なスキルを必ずしも備えているわけではないことを論文の中で示しています。
また、マルチタスクが若者の専売特許ではないことも断言しています。「デジタルネイティブ」という言葉はマーケティング用語として使われているだけでなく、カリキュラム編成や企業の労働環境といった、人生の重要な側面にも影響を及ぼしています。教育機関は、この新たな世代のために共同学習やe-ラーニングなどを導入し、教育制度を一新しています。彼らがさまざまなデジタルテクノロジーに触れていることは事実ですが、その利用方法が上の世代と異なっているわけではありません。
キルシュナー教授は、新しい世代が固有のスキルを持っていると想定することは、メリットよりもデメリットの方が多いと述べています。働くことへの考え方や人生の目標がこれまでの世代と多少異なっているのは事実かもしれませんが、人間としての価値観は、世代によって変化するものではないのです。
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