世界へ羽ばたくジャーナル・エディターへのアドバイス

ジン・ドワン（Jing Duan）博士は、Acta Ecologica Sinica (国際ジャーナル) とEcosystem Health and Sustainabilityのマネージング・エディターをされています。オーストラリアのアデレード大学で環境研究の修士号をとった後、中国科学院（Chinese Academy of Sciences）で環境マネジメントの博士号を取得しました。ジャーナルの仕事をする前は、中国科学院のResearch Center for Eco-environmental Sciencesで助手Research Associateと研究員Researcherをやっていました。博士がActa Ecologica Sinica (国際ジャーナル)に加わったのは2009年のことで、その後ジャーナルのマネージング・エディターの地位を得て今に至ります。
2011年からは、中国生態学会とアメリカ生態学会の共同ジャーナル出版プロジェクトの進展において、中国側の代表を務めています。新しいオープンアクセスジャーナルのEcosystem Health and Sustainabilityを2015年初めにも立ち上げる予定です。

Acta Ecologica Sinica (国際ジャーナル)　の目的と扱う領域、そしてManaging Editorとしてのジンさんの役割について簡単に教えてください。

Acta Ecologica Sinica (国際ジャーナル、以下AES)は隔月で刊行され、中国生態学会とエルゼビアが共同出版しています。生態学とその下位領域を専門とする総合的なジャーナルです。生態学における先進的な理論や新しい実験結果に関する論文を掲載しています。

掲載されている論文の領域は、動物生態学、植物生態学、微生物生態学、農業生態学、森林生態学、草原生態学、土壌生態学、海洋・水生生態学、景観生態学、化学生態学、汚染物質生態学、都市・人間生態学です。ジャーナルは、論説、批評、研究論文、短報、書評に分かれています。

中国生態学会とエルゼビアの共同ジャーナルですので、前者が編集の仕事に責任を持ち、後者が製作に責任を持っています。Managing　Editorとしての私の仕事は、北京の編集部の運営、投稿から最終稿の受理にいたる編集プロセス全体の監督、査読の管理、Editor in Chief、編集委員会のメンバー、査読者、著者との連携、そして製作プロセスを監督しているエルゼビアとの連絡です。


2009年、Acta Ecologica Sinica (国際ジャーナル) が英語の学術誌になった2009年は、あなたが参加し、ローカルなジャーナルから国際ジャーナルへの移行を手伝われた年ですね。結果として、ジャーナル・エディターがとるべきアプローチにどんな変化が見られましたか？

Acta Ecologica Sinica（国際ジャーナル）は、2009年に中国語訳のジャーナルから英語だけを使ったジャーナルに移行し、エルゼビアの投稿システムを使って世界中から投稿を受け付けるようになりました。国際ジャーナルになり、本ジャーナルの目的は変わりました。中国の生態学の先進的な研究だけを発表するジャーナルから世界中のすぐれた生態学研究を掲載するジャーナルへと変わったのです。中国の著者の支援から世界中の著者の支援へと、サービスの目標も変わりました。

国際ジャーナルになるために必要不可欠な条件を満たすため、Editor in Chiefと協力し、外国から多くの科学者を招いて新しい編集委員会を立ち上げたり、外国人の研究者を招いて、査読者になってもらったりしました。また、言語表現のわかりやすさを重視するようになりました。英語のネイティヴ話者ではない著者には、ネイティヴ話者の同僚や専門の校閲サービスの助けを借りて言語表現を改善するよう求めています。

著者にはどのようなアプローチの変化を期待していますか？

(1) 国際的なSTM（訳注：科学、技術、医学分野のこと）出版について、規則、手続き、倫理などをよく学んでください。

(2) ジャーナルを理解するのに時間をかけてください。特に、ジャーナルの目的と扱う領域です。合っていないジャーナルに論文を投稿するのは、エディターにとっても著者にとっても時間の無駄になります。

国際ジャーナルへの移行の間、ジャーナルの機能メカニズムを開発・設立を支援し、ジャーナルの運営・製作・出版を監視してこられました。今や確立されている投稿・査読のプロセスと、ジャーナル側で関わっている人の役割について、段階を追って説明していただけますか？

AESでの作業の流れは次の通りです。
①著者が論文を投稿する
②マネージング・エディターが品質統制のチェックをする
③編集長が論文を評価し、査読へ進むかどうか判断する
④マネージング・エディターが専門分野エディターと連絡を取る
⑤専門分野エディターは論文をレビューし査読者の候補と連絡を取る（通常は外部の査読者2名が評価する）
⑥専門分野エディターが査読者のコメントを読み、編集長に勧める
⑦編集長は専門分野エディターのコメントを読み、最終決定（受諾、小さな修正、大幅な修正、却下）を行う
⑧マネージング・エディターが決定を著者に伝える
⑨修正が必要な場合、著者は論文を修正し、修正した論文を再度ジャーナルに戻す
⑩マネージング・エディターが修正論文を専門分野エディターに送る
⑪専門分野エディターは修正を読み、編集長への最終勧告を行うか、あるいは再度査読にかける
⑫編集長が論文の受諾を判断する

AESの編集委員会は現在、中国、アメリカ、オーストラリア、日本、韓国、ドイツ、カナダの7カ国43名の研究者で構成されています。委員会メンバーの50％以上が、中国以外の国の研究者です。メンバーの主な仕事は、査読プロセスの運営、査読者からの報告の吟味、掲載するか否かについて全体的な意見を編集長に対し述べることです。国際顧問委員会から6名の著名な研究者を招き、ジャーナルの発展について相談したり、発展のための人材支援を受けたりしています。

編集、執筆、中国人の著者としての経験をふまえ、英語ネイティヴではない著者からの投稿論文を受け取った国際ジャーナルのエディターに対し、何かアドバイスいただけませんか？

(1) 投稿規程を書くときは明快でわかりやすい英語を使いましょう。英語ネイティヴではない著者がジャーナルの要求を理解する時、そのことが役に立ちます。

(2) 倫理問題のような、ジャーナルの編集方針の細目は明確にしましょう。著者がしなければならないこと、すべきでないことを知る手助けになります。

(3) 内容はすぐれていても英語が分かりにくい場合は、言語表現の校閲サービスを使うように勧めましょう。

あなたの経験をふまえ、ローカルなジャーナルから国際ジャーナルへ移行させたいと思っているジャーナル・エディターに何かアドバイスいただけませんか？

(1) ジャーナルの目的と領域を明確にしましょう。ジャーナルは唯一無二でなければなりません。

(2) 活動的で実務能力の高いEditor in Chief と編集委員会のメンバーは、ジャーナル、特に初期段階でのジャーナルにとっては本当に重要で必要不可欠です。

(3) 迅速な、けれども質の高い査読プロセスを作りましょう。特に、査読のためできるだけ外国から研究者を招きましょう。

(4) 世界中の研究者から投稿してもらうため、国際的プラットフォームでのジャーナル運営を実行しましょう。

ご自身の研究を通じ、持続可能性に関する生態学的ディスコースに参加されていますね。あなたのジャーナルが関心を持っている生態学のトレンディング・トピック（訳注：話題になっているトピック）の上位1（ないし2）について、どのようにお感じになっているか、またそれはなぜかお話してください。

Acta Ecologica Sinca (国際ジャーナル) では、生態学に関するすべての分野の研究の論文を掲載しています。具体的に言いますと、ローカルで地域レベルの、しかし同時に、国際的に見ても重要な、より上質で注目される研究が掲載されることを願っています。例えばアジア、アフリカなどの固有の種、あるいはチベット高原のような独特の景観に関する研究がそれです。生態学的問題は世界中にそれはたくさんあります。持続的な成長を促進するための意思決定において、生態学がもっと重要な役割を果たす必要があると私たちは思っています。けれども、その意思決定に生態学をどのように適用するのでしょうか？これは、生態学者にとってだけでなく、政策決定者にとっても興味深いテーマかもしれません。私たちには新しいアプローチと実践が必要です。また、質の高い研究を報告し、分配するためのプラットフォームも必要です。アメリカ生態学会と中国生態学会は生態学分野の論文を発表するため、共同で質の高い出版、つまりEcosystem Health and Sustainability (EHS)を立ち上げています。EHSでは、マクロ生態学やサステイナビリティ学での進歩、人間活動の変化が生態系の状態にどんな影響を与えるか、持続的な成長を促進するための意思決定に生態学を適用するシステムアプローチ、に関する論文を掲載する予定です。