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査読される論文とは?ジャーナル側の判断とは?掲載決定までのあれこれ
ノルウェー北極研究所(Norwegian Polar Institute /NPI)発行の学際的で査読付きの国際学術誌 Polar Researchの編集長である エレ・V・ゴールドマン(Helle V. Goldman)氏は、デンマークで生まれたアメリカ人の人類学者です。
ノルウェー気候・環境省の一部であるNPIに、16年勤めていらっしゃいます。ザンジバルでのフィールドワークにもとづき、ニューヨーク大学より、社会人類学分野のMA (1990) とPhD (1996)を授与されています。休暇にはボツワナを訪れますが、博士のご家族がオカバンゴ・デルタのはずれに原野を数ヘクタール所有しているからです。フィクション作品を編集したり、ノルウェー語の本を英語に翻訳したりされています。翻訳本にはたとえば、Norway in the Antarctic: from conquest to modern science (by J.-G. Winther et al., published by Schibsted in 2008) があります。博士のお住まいはトロムソで、北極圏内に位置しています (Many of her博士の著作 の多くは、申し込みに応じて入手することができます。博士の写真は、NPIのAnn Kristin Balto氏のご厚意によるものです。)
ゴールドマン博士ご自身が、貴誌の論文の受理・掲載拒否の判断に深く関わっているのですか?
1998年からPolar Researchの編集長を務めていますが、私自身がすべての投稿論文に対する最終決定を下し、判定通知のEメールを作り、送信しています。能力の極めて高い専門編集者が担当した原稿については、そのアドバイスに従います。意見の相違が生じるとすれば、それは通常、その論文をもう一度読みたいかどうかとか、著者に再投稿の機会を与えるかどうか、といった内容です。そのような場合は、専門編集者と話し合って結論を出します。このプロセスはとてもスムーズに進みます。
(貴誌の研究領域や目的に合わないという理由は別として)査読を行う価値がない、あるいはタイトルやカバーレターを見ただけで読む価値がないと判断される論文は、どのようなものでしょうか。何かヒントとなることを教えてください。
数年前から、新規の投稿論文はすべてCrossCheckにかけ、本人や他の著者の出版済み論文から引用された部分がないかを必ずチェックするようにしています。研究方法を記述した部分に、自分の過去の論文と重複する部分がある程度含まれるのは仕方ないですが、重複が過剰である場合、その原稿は査読に回しません。剽窃の程度と内容によって、書き直して再投稿する機会を与えるか、あるいは即刻掲載拒否と判断するかのどちらかになります。
査読に進める前に、抄録(アブストラクト)もチェックします。抄録が不十分な場合は、改善の指針を添えて、著者に論文を戻します。
原著論文の体を成しておらず、レビュー論文でもなく、あるいは新たな関連性や発想を示す「見解」を示すわけでもなく、広く受け入れられている科学原理に基づくに過ぎないような論文は、検討の対象にしません。
論文に新奇性や重要性があると判断する基準はどのようなものでしょうか?
以前は、新奇性はPolar Researchでの判断基準ではありませんでした。十分に科学的であれば(つまり手法が合理的で、分析が適切で、解釈と結論の根拠が明確であれば)、そして論文が本誌の対象分野に即したテーマの範囲内における科学的知見に寄与するものであれば、著者と協力して論文(文章、構成、図など)を一定の水準まで高め、出版にこぎ着けるよう努力したものです。我々の方針は、世界一と言えるほど素晴らしい論文でなくても、データや解釈が理に適っていて、他の研究者や環境管理に関わる人々が興味を持ちそうだと思えれば、掲載すべきだと考えていました。今後の研究につなげるためにも、査読済みの整った形で公開する価値があると考えたのです。
投稿率の上昇に伴って、この方針を少し考え直さざるを得なくなりました。新奇性や独創性という点にも重点が置く必要が生じたのです。限られた予算内では、毎年一定の数の論文しか出版できません。投稿数が増えれば、掲載拒否となる論文が増えてきます。
論文の受理・掲載拒否の決定に、査読者の見解はどの程度影響するのでしょうか。
Polar Researchの専門編集者も私も、専門家としての査読者の意見を大いに頼りにしています。しかしながら、原稿の掲載可否の判断については、査読者のアドバイスをそのまま受け入れることは通常はありません。査読者間の意見が対立することもよくあります。ある論文を読んで、一方の査読者は大いに気に入ったけれども、もう一方の査読者は真逆の意見を持ったということも、稀ですがあります。それほど劇的に意見が異なることは少ないですが、それだけに、意見の相違は重要です。例えば、査読者Aはある分析手法を適切だと考えたが、査読者Bは、データと研究課題に照らしてその分析が適切だとはいえず、別の分析手法を用いなければ掲載に値しないと考えているとします。我々としては、どちらの見解を「重視」すべきか決めなければなりません。この段階で、査読者の経歴を見て、専門分野や出版履歴を確認することもあります。査読全体を包括的に見直すのです。一方の査読は、もう一方の査読と比較して検討し尽くされているか?深い思慮に基づいているか?査読者Aは、時間がなかったために、査読者Bが指摘した問題に気づかなかったという可能性はないか?こういった点を考慮することで、編集者は両者の査読への重点の置き方を変えることができます。査読者が異なる意見を持つ部分についての意見を求めるために、高度な専門性を持つ人に、追加の査読を依頼する必要もあります。残念ながら、そうすると査読期間は延びますが、専門編集者と私にその問題を判定する技量がなければ、他に方法はありません。
投稿から受理まで、平均してどれぐらいの時間がかかりますか?
ええと、そうですね、これは投稿を検討する人が必ず気にする点ですね。投稿から初回判定までにかかる期間は、だいたい2、3ヶ月です。初回判定後の修正、再査読、出版に至るまでの期間はかなりまちまちで、著者の修正作業のスピードに大きく左右されます。著者が修正に半年以上かけることもあれば、修正と査読を3回、4回と繰り返すこともあります。査読者には、査読を了承してから4週間の期間が与えられますが、そもそも協力してくれる査読者を探すだけで数週間かかってしまうこともあります。Polar Researchでは、我々編集者にとって、査読者を探すことがもっとも時間のかかる難しい仕事です。2、3人から良い返事をもらうまでには、8~10人に連絡するのが普通です。最近では、2人から了解の返事をもらうまでに、20人に連絡した例があります。また、査読レポートの提出が遅れることしょっちゅうです。
この仕事で一番いやなのは、遅れている査読レポートの督促です。他の編集者もきっとそう思っているはずです。Polar Researchに投稿された原稿を評価することに同意してくれる査読者には、大変感謝しています。何といっても、無報酬なのですから。査読は実績としてほぼ認められませんし、専門家としての他の活動(自分の論文を執筆したり出版したりする作業など)の時間を奪ってしまいますし、余暇の時間に食い込むこともあるでしょう。査読者たちは非常に多忙なので、おそらく仕事量が過剰になっているだけで、人に迷惑をかけるつもりではないことは、よく分かります。そのような人たちに、査読レポートをもらうために、だんだんと苛立ちを募らせていくメールを送るのは、気分の良いものではありません。ときには、結局査読レポートが提出されず、新たな査読者を探さなければならないこともあります。その結果、審査期間はさらに長引き、著者の忍耐力が試されることになります。
著者は、綿密で公正な査読に基づいた判断を2、3ヶ月のうちに受け取ることを期待しています。確かに、研究者が仕事に応募したり、助成金を申請したりする際に、論文が受理されたかどうかは重要な要素となりますから。ですから、論文の査読を依頼されたら、提示された期間内に綿密かつ建設的な批評が確実にできるという場合にだけ、引き受けてほしいと思います。そう願っている編集者は、私だけではないはずです。前もって「自分の研究領域のものなので査読する意思はあるが、期間を二週間(または必要なだけ)延ばしてほしい」と言ってくれる査読者は、ありがたいです。通常、期間の延長は可能ですし、いつ査読を終えられるかを検討した上での見通しなので、期日通りに査読レポートを送ってもらえる可能性が高くなります。その結果、しつこいメールで自分や査読者の時間を無駄にすることもなくなります。
ゴールドマン博士への全3回のインタビューのパート2、なぜ気候変動と極地調査はあなたの暮らしと地球に影響を与えるのか?も、ぜひお読みください。
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