韓国科学出版界が直面する課題

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韓国科学出版界が直面する課題

スン・ホ博士はKorean Journal of Medical Educationの副編集長、Journal of Educational Evaluation for Health Professionsの編集者、韓国科学編集者協会(Korean Council of Science Editors の計画・運営委員会(Committee on Planning and Administration の委員長(20143月から現在)、教育・トレーニング委員会(Committee on Education and Training の委員長(20119月から20142月まで)を務めてきました。韓国の国家医療関係者免許試験審査会(National Health Personnel Licensing Examination Board)の 医師免許試験委員会(Committee of Medical Licensing Examination)のメンバーで、副委員長でもあります。

韓国医学学術誌編集者協会(Korean Association of Medical Journal Editors)の運営委員を務めていた時期(1996-2011)には、KoreaMed、KoMCI、Synapseなど、韓国医療学術誌の医療データベースの設立に尽力しました。Hallym大学医学部で、医学教育システムの管理・運営にも携わってきました。現在は、同大学の寄生虫学教授を務め、寄生虫のゲノム配列解析の研究に従事しています。医学士(MD)の資格を持ち、ソウル国立大学で寄生虫学の理学修士および博士号(PhD)を取得しています。

インタビュー第1回では、韓国の科学出版界についてお話を伺います。

現在の韓国科学出版界に対する博士の見解を教えてください。

韓国では、学術誌のほとんどが、韓国研究財団(National Research Foundation of Korea, NRF)のKorea Citation Indexに採録されます。学術誌の数は、エンジニアリング621誌、農業・漁業145誌、医学461誌、自然科学356誌となっています。科学・テクノロジー・医学(STM)分野に採録される学術誌は、合計1582誌にのぼります。そのうち918誌が学会誌で、644誌は研究機関から出版されています。韓国では、学術誌が民間出版社から出版されることは稀で、その場合も、学会や研究機関の公式学術誌となっています。韓国では、利益を追求する民間学術誌には価値がないのです。主なSTM学術誌は、学会から出版されます。ETRI Journal (Electronics and Telecommunications Research Institute)とYonsei Medical Journalなどはごくわずかな例外です。

英語の学術誌は245誌で、そのうち医学は86誌、自然科学73誌、エンジニアリング66誌、農業・漁業20誌です(これはKCIデータベースからの数字ですが、まだこのデータベースは完成していません)。医学分野の学術誌は英語のものが多いですが、その理由は、医学編集者の多くは、世界の医学情報マーケットに手っ取り早く自分たちの学術誌を見てもらうには、自分たちの学術誌がPubMed Central/PubMed やGoogle Scholarに採録されることが最善の方法だと信じているからです。

韓国では、STM編集者は2つのグループに分かれます。Korean Association of Medical Journal Editors (KAMJE)と Korean Council of Science Editors (KCSE)です。KAMJEは1996年に発足しました。

KAMJEの目的は、編集・出版について情報交換し、編集方針について議論しながら、韓国における医学系学術誌の質を高めて行くことです。KAMJEに属する学術誌数は236誌で、医学、歯学、看護学、獣医学、栄養学、公共衛生に関する学術誌のほとんどがKAMJEとつながりを持っています。KAMJEの業務は、評価項目に応じて編集の質に関するコンサルタント業務を行うこと、編集者のためのワークショップやセミナーを開催すること、世界で一流のデータベースとして知られているKoreaMed、KoreaMed Synapse、KoMCIなどを管理すること、出版倫理について議論すること、書籍を出版すること、Asia Pacific Medical Journal Editorsを通してアジア地域の医学編集者と協力することなどです。2006年にPubMed Central XMLを採用したことは、KAMJEの輝かしい功績の一つです。その後、韓国の英文医学誌はすべてPubMed Central (PMC)/PubMedに採録されるようになりました。

KCSEは2011年9月に発足しました。その目的は、編集に関する情報交換や議論を通して、韓国の科学系学術誌の書式と文体(スタイルとフォーマット)の水準を高め、科学系学術誌を国際水準にまで高めることです。そうすることによって、科学系学術誌を通して文化の発展を促し、人類の福祉に貢献することができると考えています。

KCSEは、編集や出版倫理に関するワークショップやセミナーを積極的に開催しています。ニュースレターだけでなく、Science Editingという学術誌も発行しています。2014年現在、会員である学術誌の数は213誌です。KCSEの活動と学術誌は、我々のウェブサイトから無料でアクセスできます。

韓国の科学分野の著者が直面する特有の問題とはなんでしょうか?

韓国政府は、科学分野の様々な研究よりも、メガサイエンス、あるいは産業発展に応用できる研究に重点を置くようになりました。そのため、個人研究者同士の研究資金の競争率がかなり高くなりました。政府が重視する大規模な研究グループに参加すれば、長期にわたって資金を気にせずに研究を続けることができます。そうでなければ、資金源を見つけることは困難です。

また、資金提供団体も大学も、インパクトファクターの高いランキング上位の学術誌から論文を出版した研究者を高く評価しますが、これはどこの国でもどこの研究機関でも同じことです。ですから、著者は、自分たちの研究を一流の学術誌から出版しようとします。幸い韓国政府は、最低でも政府予算の5%を研究開発費に充てると約束しています。そのため、研究開発費全体は、毎年5~10%増加してきました。この予算は、割合でいうとOECD加盟34ヶ国中、3番目となっています。また、国全体の研究開発予算額でも、OECDの中で第4位です。民間投資を含めた研究開発予算全体で、韓国より上位にあるのは米国、日本、ドイツだけです。韓国がScience Citation Index Expanded (SCIE)のランキングで上位にあるのはこのためです。論文数だけを考慮すると、韓国の順位はSCIE論文出版ランキングで10位となります。

科学編集者が直面している、韓国特有の課題とはなんでしょう?

先ほども述べたように、韓国の一流研究者は、韓国のSTM学術誌には目もくれませんでした。例えば、私の大学の教員たちの半数以上は、インパクトの高いSCIE学術誌を目指すため、普段は韓国の学術誌に出版することはありません。韓国の学術誌もSCIE学術誌なのですが、インパクトファクターが低いため、投稿しようとしないのです。

韓国のSTM学術誌には二種類あります。SCIE学術誌と非SCIE学術誌です。SCIE学術誌の編集者は、世界から膨大な数の投稿を受け取りますが、非SCIE学術誌は、韓国内からの投稿さえ乏しい状況です。最近、資金援助機関は、SCIE学術誌だけでなく、SCOPUS学術誌に対する評価を高めています。そのため、STM編集者は、自分たちの学術誌をSCIE学術誌のみならず、SCOPUS学術誌にもしようと努めています。

編集者の直面している緊急課題といえば、インパクトファクターを上げることです。生物医学分野でインパクトファクターを高める最善の策は、PubMedなどの国際データベースに採録してもらうことです。次善の策は、学術誌のデータ全てにGooglebotを巡回させるようにすることです。PMCが強力になったので、医学編集者たちは学術誌の言語を英語化し、PMCに採録されるように、PMC XMLファイルを作成するようになったのです。

その他の分野の編集者はどうでしょうか。米国のNSFは、PMCのような、無料またはオープンアクセスの全文データベースを構築するつもりはないようです。そこで2013年9月、韓国科学技術団体総連合会Korean Federation of Science and Technology Societies、KOFST)は、ScienceCentralを開設しました。KOFSTは、オープンアクセスもしくは無料アクセスの方針を持つ学術誌なら、どの学会のものでもJATS XML形式の論文をScienceCentralにアップロードしてもらいたいと考えています。これは世界で2番目のオープンアクセスで、無料のJATS XML全文検索型データベースです。現在は試験段階です。幸い、韓国でのJATS XML作成費用は、CrossRef/XML、CrossMark XML、FundRef XMLを含めて1論文あたり約50ドルです。このため、XMLファイル作成はそれほど難しくありません。また、KOFSTは、全予算が年間500万ドル以下の学術誌の出版を支援してきました。KOFSTの支援を受けている韓国の論文は、1年間でみるとSTM学術誌450誌からの5万本の論文ですので、これらのXMLファイルの作成は、KOFSTの資金援助で賄えます。

ホ博士のインタビュー第2回では、KCSEや、韓国科学界での出版倫理に関するKCSEの貢献について伺います。こちらも併せてお読みください。

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