中国、2030年までに世界一のAI大国へ
ビッグデータの登場は科学界にセンセーションを巻き起こしましたが、人工知能(AI)もまた、同様の現象を起こしています。AIとは簡単に言うと、人間の知能を模倣する機械や装置のことです。この技術の出現とその急速な発展によって、研究の進められ方にも革命が起きています。科学界でAIの活用に最初に成功したのは、素粒子物理学の分野です。フェルミ国立加速器研究所(イリノイ州バタビア)のボアス・クリマ(Boaz Klima)氏は、AIを導入した経験について、「この技術が単なる魔法やまやかし、あるいはブラックボックス的なものではないことを人々に理解してもらうのに、数年かかりました」と語っています。現在では、天文学や社会科学の分野にも AIが導入されています。
AIは、科学や研究にどのような影響をもたらすのでしょうか。その最大のメリットの1つは、人間の労力を最小化できるということです。AIは、膨大なデータの分析やその中にあるパターンの特定に長けており、このタスクにおいては人間を凌駕しています。そのため、研究をより楽に進められるようになり、研究者は論文執筆や助成金申請などの業務に多くの時間を割けるようになります。マクロレベルでは、AIは国の経済に多大な影響を与える可能性を秘めています。デジタル化や自動化によって生産性が向上し、イノベーションが生まれれば、国の経済は大きな飛躍を遂げることができるでしょう。その分野が、ヘルスケア、製造、科学研究、あるいは軍事であろうと、AIはさまざまな応用の可能性を秘めているのです。言い換えると、AI技術で主導権を握った国は、他国を圧倒する力を手にするということです。
AIの進化や応用に関する研究は、世界中で盛んに行われており、米中をはじめとする国家間の競争の中心に位置しています。これまでは米国がAI技術とイノベーションをリードしてきましたが、中国はそれを上回る勢いを見せています。
中国の習近平国家主席は、AIが国際競争力に果たす重要性を踏まえ、2030年までにAI技術で世界をリードすることを目標に掲げています。この野心的な目標を、中国が実現する可能性が高いことを示す事実が、いくつかあります。日経とエルゼビアは2017年11月2日、2012~2016年の間に引用されたAI関連の論文の中で、もっとも影響力のある論文についての調査レポートを発表しました。その結果を見ると、グーグルやマイクロソフトなどの企業が名を連ねるトップ10の中に、中国科学院(CAS)と清華大学という中国の大学2校がランクインしていたのです。さらに、AI研究をリードする組織トップ100のうち、15は中国を拠点とする組織であることが分かりました。
このように、実際に成果を挙げている中国ですが、果たしてAI技術で世界をリードすることはできるのでしょうか?中国には、AI研究を進化させ得る優秀なエンジニアや研究者たちがいます。さらに、有能な海外在住研究者を自国に呼び戻す取り組みも行なっています。AI研究で中国が良好なスタートを切った背景には、このような理由があると言えます。また、中国には、研究機関や大学が利用できるデータが豊富にあります。AIの権威で「Sinovation Ventures Artificial Intelligence Institute」の創設者兼CEOの李開復(Kai-Fu Lee)氏は、中国のデータプライバシーについて、「倫理的問題に関するコンセンサスを得るためのハードルが低い」と述べています。このデータ利用に関する規制の緩さが、発展の速度と規模の拡大をさらに加速させそうです。
2017年7月、中国政府は「新世代の人工知能」の開発計画を発表しました。計画では、AI技術の面で3年以内に西洋に追いつくことを目標に掲げています。中国最大のオンライン検索エンジン「バイドゥ」でAI技術の戦略化に携わった著名なAI専門家のアンドリュー・ウ(Andrew Ng)氏は、「中国政府がこのような発表を行うときは、国や経済への著しい変化が期待できます」と述べています。政府とは別に、中国の投資家たちも将来的な成功を見込んで、AIに関するプロジェクトへの投資を始めています。
政府がAIプロジェクトを支援し、国内の機関や組織が急速にこの分野に関わり始めているという事実は、世界一のAI大国になるという中国の確固たる意志を示しています。この目標が実現するかどうかは見守っていく必要がありますが、実現した暁には、科学技術において中国が圧倒的な立場に躍り出ることになるでしょう。
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