「アカデミックハイジャック」:学術界の裏通りで街頭犯罪に遭わないために

「アカデミックハイジャック」:学術界の裏通りで街頭犯罪に遭わないために

先日、ジャーナルに論文を無断で出版されて混乱している著者から相談を受けました:
 

「投稿した論文の状況を問い合わせるメールを送ったのですが、返答がなかったため、最終的に論文を取り下げることにしました。しかし、取り下げの意思表示に対する返答もなく、著作権に関する私の同意を得ないまま、無断で出版されていました。どのように対応すべきでしょうか?出版された論文を撤回する方法はありますか?」


このようなケースは、決して珍しいものではありません。論文を出版したいと思うあまり、著者は盲目的にハゲタカジャーナルの罠に引っかかってしまうのです。騙されたことに気付いた頃には、論文は人質となり、多額の金銭を要求されることになります。いずれにせよ、著者の長年の苦労や、積み上げてきた信頼は、危機に晒されます。このような状況から脱するにはどうすればいいのでしょうか?ハゲタカジャーナルから身を守る術はあるのでしょうか?論文を強奪されないためには何をすべきでしょうか?これらの問いに的確に答えられるのは、ジャーナル編集者です。本記事ではこの問題について、経験豊富なジャーナル編集者のケイヴン・マクローリン(Caven Mcloughlin)教授に意見を伺いました。教授は、著者が自分の信頼や公正性を守るには、疑わしいジャーナルから距離を保つことが大切だと主張しています。


著者のあなたへ


今回の被害はひったくりのようなものです。あなたは「研究」をひったくられたのです。この先は、あなたの力の及ぶ範囲ではありません。しかし、それと同時に、偽ジャーナルにファイルを差し出したのは、あなた自身です。これは、犯人に自ら財布を差し出すようなものです。


今回のようなケースは何度も耳にしているので、詳細を聞かずともだいたいの状況は推察できます。状況をまとめてみましょう。


論文の最終版を仕上げたあなたは、投稿先のジャーナルを探し始めました。一流誌や評判の良いジャーナル、インデックスされたジャーナルに投稿した場合、判定が出るまでに時間を要する(60日程度)ことを知っていたあなたは、選択肢を天秤にかけ、簡単な方のルートを選びました。ハゲタカジャーナルのウェブサイトには、審査が短期間で終わること、出版できる可能性がきわめて高いことを暗に示す文言が並んでいます。あなたはその誘惑に負けてしまいました。あとは「出版料」の支払いに同意するだけです。このときに具体的な金額を提示されたかどうかは分かりません。あるいはその点についての認識がなかったかもしれません。


いずれにせよ、どのような代償を払うことになるかを理解しないまま、都合の良い条件に惑わされ、その「ジャーナル」に論文を投稿してしまいました。心のどこかでは、このジャーナルは研究を披露する場として相応しくないと分かっていたはずです。あなたは結局、自責の念に駆られて論文の取り下げを求めました。しかし、返答はありません。このジャーナルとの関係を断とうとあらゆる手を尽くしますが、ほどなくして論文が出版されたことを知ります。このジャーナルで論文を出版することの「代償」が、金銭面だけでなく、研究者としての信頼にも関わる問題であることをこの期に及んで認識したあなたは、対応に追われます。


ここから先は、あなたにとって耳の痛い話になりますが、単刀直入に言わせてください。まず、あなたが抱えている問題は、まだ何も解決していません。あなたは自分の論文を管理する権限を完全に失ってしまいました。信頼できる別のジャーナルに再投稿したとしても、即座に拒否され、自己剽窃者のレッテルを貼られるでしょう。そして、この恐ろしいレッテルは、編集者の間で知れ渡ることになります。


所属大学は、偽ジャーナルで論文を出版した職員の昇進を禁ずるなど、何らかの罰則規定を必ず設けています。したがって、あなたの努力は評価につながらなくなります。それどころか、最悪の場合、600ドル、1100ドル、あるいはさらに法外な料金が記載された請求書と、その支払いを要求するメールを受け取ることになります。メールの文面は次第に敵対的となり、脅迫めいたことが書かれるようになります。最初のうちは、苛立つ程度かもしれません。しかし、3通目、4通目が届くにつれ、メッセージを開くのも恐くなり、未読のまま削除してしまうようになるでしょう。


しかし、先述したように、この「学術界のひったくり」は、この程度では収束しません。


続いて、大学のウェブサイトでメールアドレスが公開されているすべての大学役員に、あなたの契約不履行と、大学が支払いを肩代わりすべきであるとほのめかす脅迫的なメールが届くようになります。そして、苛立った役員たちは、なぜこのような事態に陥っているのかとあなたを問い詰めます。今、あなたが置かれている事態の深刻さを、理解できたでしょうか。貴重な成果物を管理する権利を失うだけでなく、「約束」を守らない人物として、信頼が地に墜ちることになってしまうのです。


打開策はあるでしょうか?残念ながら、リセットボタンでもない限り、この教訓から学ぶこと以外にできることは多くありません。


学術界の犯罪者とは関わらないこと


怪しい人と付き合っていると、自分もその一員とみなされます。「うまい話には裏がある」という昔からの警句を心に留めておきましょう。信頼のおけるジャーナルは、厳格な査読プロセスを無視して、たった数日から12週間で論文の出版を約束するようなことは絶対にしません。学術の世界は、そんなに甘くはないのです。


論文が制御不能になってしまった今、あなたが考えるべきことは、どのように「ダメージコントロール」をするかです。偽ジャーナルが出版の段階まで事を進めなかったのは、その論文のあなたにとっての価値を利用しようとしたからでしょう。彼らは、論文を利用してあなたから金銭を引き出すことを目的としているのです。「出版されたくなければ金を払え」と要求してくるか、さもなくば、雇用主にあなたの契約不履行を告げ口し、顔に泥を塗ろうとしてきます。彼らは、論文を取り下げるチャンスを与えてくれるでしょう。ただし、元の出版費用に加え、取り下げ手数料を加算した額を支払うよう要求してくるでしょう。何もしなければ、事態は悪化するだけです。信頼できるジャーナルへの再投稿を望むなら、この費用を支払う以外に、論文を管理する権限を取り戻す術はありません。


論文に費やした努力を無に帰したことを認識しましょう。


偽ジャーナルですでに出版されている論文を、信頼できる成果物として、原著論文として再投稿したとしても、遅かれ早かれ罪を問われることになります。先述したように、疑わしい人間と付き合っていると、自分もその一員とみなされるのです。


逃げ道はあるか?


このゴタゴタから脱する唯一の確かな道は、支払いの肩代わりを求める「請求書」が大学の管理者や上司に送られる前に、自分が騙されたことを認識し、彼らに自分の未熟さを白状して身の潔白を訴えることです。大学の管理者は、このような話を耳にするのは初めてではないはずです。学術界の弱者をハゲタカのように食い物にする、ハゲタカジャーナルの存在を認識しているはずです。


これを人生の教訓としましょう。付き合う相手は慎重に見極めなければなりません。学術界にも、楽して「儲ける」方法はありません。学術の高みに到達するための近道は存在しないのです。悪い人間と関わるのはやめましょう。


 

私は、今回のケースをひったくりに例えました。弱さにつけ込まれ、犯罪者の餌食になってしまった場合、あなたはどうしますか?立ち上がり、被害届を出し、前に進むしかないのです。二度とそのようなリスクにあえて自分を晒すことのないよう、細心の注意を払いましょう


くれぐれも気を付けてください!

ケイヴン・マクローリン


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