「オルメトリクスで研究のインパクトを測るのは時期尚早です」

「オルメトリクスで研究のインパクトを測るのは時期尚早です」

現在、多くの人が何らかの目的でTwitter、LinkedIn、ResearchGate、MendeleyなどのSNSを利用しています。ソーシャルメディアを活用することで研究者が受けられるさまざまな恩恵について語られることも増えています。今回のインタビューでは、ソーシャルメディアを用いた研究者同士のオンライン交流についての調査や、研究のインパクトを測るためのオルメトリクス(altmetrics)のポテンシャルの把握に情熱を注ぐ、トゥルク大学教育社会学研究ユニット(RUSE)ポスドク研究員、キム・ホルムバーグ(Kim Holmberg)博士にお話を伺います。同氏はウォルバーハンプトン大学統計サイバーメトリクス研究グループ名誉主任研究員、オーボ・アカデミー大学情報学部准教授も務めており、オルメトリクス、ウェボメトリクス、サイエントメトリクス(科学計量学)、Web 2.0、Library 2.0、教育におけるバーチャル世界について研究しています。また、ウェブ一般や特定のソーシャルメディアで起きるさまざまな現象について定量的手法を用いた研究も行なっています。学術論文、書籍(共著)、学会議事録の執筆経験もあり、専門分野であるソーシャルメディア時代におけるオルメトリクスと情報交換をテーマとした書籍も出版しています。


本インタビューでは、研究者のネットワーク構築や機会の創出に、ソーシャルメディアプラットフォームがどのように役立つかについて伺います。学術コミュニティではオルメトリクスの理解や探求が始まったばかりなので、研究が社会に与えた影響を測る絶対的な指標としてオルメトリクスを用いるのは時期尚早であるというお話は、とくに印象的でした。また、被引用数ベースの指標の主な問題点や、SNSの使用で研究者が犯しがちな初歩的ミスについてもお聞きしました。

とても興味深い研究を行われています。それぞれの研究について、詳しく教えて頂けますか?

私の研究対象はすべて、ウェブと定量的研究方法の2点に繋がっています。基本的には、オンライン上で発生するさまざまな現象について、定量的評価を中心とした研究を行なっています。研究・出版コミュニティがオンラインで生産/シェアしている膨大なデータ量を考えれば、定量的評価を行うのは当然の流れと言えます。具体的に言うと、現在はオルメトリクスに興味を持っています。オルメトリクスとは、オンライン上の学術コミュニケーションを調査するツールで、研究のアウトプット(論文、データ)がどのように議論され、シェアされ、言及されているかを測定し、これらの結果が、学術界の枠を越えた広範な聴衆からどのような注目を集めているかを教えてくれる指標です。

研究者のTwitterの活用方法について、明確な特徴のようなものはありますか?

研究者のTwitter活用法について、明確な特徴というものはないと思います。Twitterは、仕事で使う人もいればプライベートで使う人もいますが、大半は両方の目的で使用しています。この二重性によって、研究者のTwitter活用法だけを取り出すことが難しくなっています。

研究領域によってソーシャルメディアの利用法に違いはありますか?

はい、我々が発表した「Disciplinary differences in Twitter scholarly communication(Twitterを用いた学術コミュニケーションの研究領域による違い)」という論文で、学術コミュニケーションのためにTwitterをより多く利用している研究領域があることを明らかにしました。すべての分野について分析を行なったわけではありませんが、領域によって研究者のTwitter利用に明確な違いがあることが分かったのです。この結果から、Twitterに関するオルメトリクスは、分野の標準化を行う必要があることも提言しました。[Holmberg, K. & Thelwall, M. (2014). Disciplinary differences in Twitter scholarly communication. Scientometrics, vol. 101, no. 2, pp. 1027-1042. DOI:10.1007/s11192-014-1229-3.]

研究者同士のコラボレーションを容易に、また可能にするために、ソーシャルメディアはどのような役割を果たすでしょうか?

研究者同士のコラボレーションを容易かつ可能にするために、ソーシャルメディアは重要な役割を担っています。学術関係者向けのSNSや文献管理ツールを通して、同じ研究分野の研究者を探すことができますし、これらのプラットフォームのアルゴリズムは、ユーザーの論文に似た論文を抽出できるように設計されているので、ほかの研究者と繋がりやすくなります。また、ソーシャルメディアは、プラットフォーム上での自由な議論や、共同執筆などのコラボレーションを可能にします。

ソーシャルメディアの使用経験が浅い研究者が犯しがちなミスには、どのようなものがありますか?

ソーシャルメディアを利用している研究者にまず覚えておいてほしいのは、これらのプラットフォームの多くは、(初期設定では)不特定多数に公開されており、書き込みやシェアしたものは全員が閲覧可能であるということです。非公開グループの作成や、投稿を閲覧できる人を限定できるプラットフォームもありますが、情報を共有している相手を常に把握し続けることは難しいかもしれません。私の場合、Facebookのアカウントは全員に公開しています。このため、非公開のグループに共有するような情報は投稿せず、私が発信する情報を誰もが目にする可能性があることを念頭においています。この意識があれば、発言に気を配りますし、適切なコミュニケーションを取ることができます。また、目的に合わせてそのプラットフォームをより効果的に使えるようになります。

ソーシャルメディアの利用については、研究者のみに焦点が当てられがちです。学術機関、図書館、助成団体、ジャーナル、出版社など、学術出版コミュニティのほかのメンバーがSNSを有効活用するには、どうしたらいいですか?

それらの機関は、すでに画期的な方法でソーシャルメディアを活用していると思います。図書館はその最前線に位置しており、支援者との繋がりや提供するサービスの宣伝のためにソーシャルメディアを利用し、Library 2.0と呼ばれる現象も数年前に話題になりました。この現象は、オルメトリクスが登場する以前のものです。図書館は、ソーシャルメディアを利用して、論文などの学術的成果物の宣伝を行い、学術イベント(学会、講義、講演、セミナーなど)の情報をシェアし、支援者、クライアント、聴衆、出資者と交流を図る術を知っています。

研究のインパクトを測るために現在使われている代替指標(オルメトリクス)には、どのようなものがありますか?その指標の有効性についても教えてください。

オルメトリクスは発展途上であり、現時点で研究のインパクトを測れる指標は存在しないと考えています。研究のインパクト指標としてのオルメトリクスへの我々の理解も不十分です。モントリオール(カナダ)、ライデン(オランダ)、ウォルバーハンプトン(英)、ブルーミントン(米)、トゥルク(フィンランド)の研究機関では、この指標をテーマにした研究が数多く行われていますが、データの品質やインパクト測定の基準について解決すべき問題は山積みです。オルメトリクス・データの標準化についても課題があります。オルメトリクス(Twitter、Reddit、Facebookでの論文に対する言及数など)が何を反映しているのか完全に理解するには、シェアまたはツイートで言及した人物が何を伝えたかったのか、どの文脈でシェアをしたのか、といったことを把握できる信頼性の高いシステム作りが必要です。オルメトリクスは、研究がオンラインでどれだけ注目を集めたかを示す指標としては最適だと思います。加えて、学術界の外でどれだけ注目されたかも分かるので、被引用数のみでは測れない研究のインパクトを知ることができます。また、研究がどのようにシェアされ、誰によって話題にされているのか、といった研究のストーリーを作るためにも利用できます。しかしながら、信頼できる代替指標あるいは研究の評価指標として利用するには、まだまだ研究を積み重ねていく必要があるでしょう。

オルメトリクスの知名度は日に日に増していますが、使用を躊躇している研究者もいるようです。研究のインパクト指標として、研究者がオルメトリクスに抱きがちな誤解はありますか?これはどのように解消できるでしょうか。

問題の1つは、「オルメトリクス」と一口に言っても、その中には、研究に関する言及を追跡するためのプラットフォームやソースが広範囲に含まれているということだと思います。研究の評価を目的とした場合、信頼できるソースもあれば、使用すべきでない情報も含まれている可能性があるのです。異なるプラットフォームやソースを区別する必要があるということへの理解が重要でしょう。また、Twitterは膨大なデータを含むソースではありますが、これが唯一のソースでもなければ、もっとも信頼できるソースでもないことを理解しておいてほしいと思います。

被引用数をベースにした指標の問題点は何でしょうか?また、代替指標(オルメトリクス)の弱点は何だと思いますか?

被引用数ベースの指標には、基本的に3つの問題点があります。1つ目は、研究論文のみに焦点を当てているということです。デジタル時代である現在、研究のアウトプットは、論文以外にもデータセット、プレゼンテーション、コンピューターコードなど、さまざまな形で存在しています。これらすべてのアウトプットを、科学に貢献しているものとして考慮すべきですが、いまだに論文のみが「重要」とみなされています。また、研究領域によっても出版や引用の文化が大きく異なっており、学術誌での論文出版よりも、書籍や学会議事録を出版する頻度が高い領域もあります。


2つ目の問題は、時間軸と関係しています。学術コミュニケーションは、研究計画を練る段階から、他者が引用できる論文を出版するまで、長い時間を要することがあります。被引用数を基に研究のインパクトを測る場合、引用数が十分に蓄積されるまで数年間待つか、論文が掲載されているジャーナルのインパクトファクターを基に判断するかのどちらかです。前者は、当然過去の成果物になってしまっており、後者は、その論文の将来的なポテンシャルを予測したものにすぎません。


3つ目の問題は、被引用数は、研究者だけが影響を及ぼすことができる数値であるということです。すなわち、科学コミュニティ内で論文が引用された回数を測っているだけなのです。これは、研究の科学的インパクトを示してはいますが、経済、保健、文化、教育、環境といったより広い社会に与える影響を示す需要が高まっている中では、不十分と言えるでしょう。


代替指標(オルメトリクス)の現状での弱点は、主にデータ品質に関連するものでしょう。NISO(米国情報標準化機構)などがこの課題に取り組んでいますが、やるべきことはまだたくさん残っています。もう1つの弱点は、オルメトリクスがカウントするそれぞれの発言やシェアの文脈が分からないことです。つまり、それが称賛されているのか、批判されているのかの判断ができないのが現状です。

研究のインパクトを測るための最良のアプローチは何でしょうか。

査読でしょう。査読だけが、研究のインパクトを適切に評価できるものだと思います。しかし、査読は大規模に行えるものではありません。できないことはないのかもしれませんが、莫大なコストが掛かってしまいます!したがって、別の手段が必要なのです。被引用数ベースの指標では、査読を援護することができますし、(現状の)オルメトリクスでは、興味深い研究や、査読者がより注目すべき研究をあぶり出すことができます。

研究者が利用する上でより効果的なオンラインプラットフォームは、Twitterなどの広範なものと、ResearchGateなどの研究者向けのもの、どちらだと思いますか?

これは「効果的」の定義によって異なります。幅広い聴衆と繋がるという意味で効果的と言うなら、Twitterでしょう。ほかの研究者に自分の論文をシェアし、、専門が同じ研究者と繋がるという意味なら、学術関係者向けのSNSや文献管理ツールをお勧めします。すべては、自分が何を達成したいかによります。先述したように、研究者がソーシャルメディアを利用する目的はさまざまなのです。

ソーシャルメディアと研究コミュニティの関係は、今後どのように発展していくとお考えですか?

ソーシャルメディアは現代社会に定着しており、私たちもそれを受け入れています。しかし、不変のものなどありません。あるプラットフォームが衰退し、それに代わるものが出現するかもしれません。近い将来、より多くの研究者がソーシャルメディアのメリットを理解し、それぞれの目的でそれを利用し始めるでしょう。



ホルムバーグ博士、学術コミュニケーション界に出現した新たなテーマについて、数々の興味深い視点を共有頂き、ありがとうございました!

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