倫理的なオーサーシップとは:ジャーナル編集者からのアドバイス

倫理的なオーサーシップとは:ジャーナル編集者からのアドバイス

[本記事は、Education & Self Development 誌に掲載されたものを、許可を得てここに再掲載したものです。]


論文タイトルの下には、著者名が記されています。共著者名と自分の名前を書くことに慣れきって、とくに注意を払うこともなく書いてしまうことも多いのではないでしょうか。この記事では、この作業を正確に行うことの重要性を説明します。


出版論文の数や質が評価指標となる世界において、著者として出版論文に名前を載せることは、研究者としての信頼を築く大切な手段です。この信頼は、昇進や研究予算の確保、学会への招待などに関わってきます。しかし、「論文の著者になる」とは具体的にどういうことなのでしょうか?


基本原則として、「著者リストは、各自の貢献を正確に反映してなければならない」(Graf, Wager, Bowman et al, 2007)というものがあります。国際医学編集者会議(ICMJE)はオーサーシップ(著者資格)について、以下の4つの基準をすべて満たす必要があると定義しています:
 

  • 研究の構想やデザイン、あるいは研究データの取得・分析・解釈に相当の貢献をした
  • 重要な知見となる部分を起草した、あるいはそれに対して重要な修正を行なった
  • 出版前の原稿に最終的な承認を与えた
  • 研究のあらゆる側面に責任を負い、論文の正確性や整合性に疑義が生じた際は適切に調査し解決することに同意した

(ICMJE, 2017)


このように、著者として論文に名前が記載されるには、以上の4項目すべてを満たす必要があります。逆に、この4項目すべてを満たす研究者は、著者として名前が記載されなければならないということです。したがって、著者は、自分が果たした貢献と、ほか各共著者が果たした貢献を識別できなければなりません。


データの収集や分析、または原稿へのコメントなどで論文に貢献した人々には、謝辞(Acknowledgements)でその旨を示しましょう。


なお、出版倫理においては医学系ジャーナルがもっとも進んでいるという側面もあり、以上の基準などは医学分野における慣習です。しかしこの基準は、教育学や心理学をはじめとして、すべての分野に適用できるものであると言えるでしょう。


このガイドラインを順守すれば、論文投稿によくある研究不正を防ぐこともできます。


まずは、ICMJEの定める4項目を満たしていない人が著者に含まれていないことを確認しましょう。論文に著しい貢献を果たした研究者(1つ目の項目)には、論文の執筆や修正を行い、出版を承認する機会を与えなければなりません。


数年前、興味深いケースに遭遇したことがあります。ある研究プロジェクトに3名の研究者が関わっており、その結果をまとめた論文が出版されました。その後、そのうちの1人は所属機関を離れて別の地で結婚し、ほかの2人の同僚との交流は途絶えました。数年後、残った2人は研究を発展させて、プロジェクトの続報となる論文を出版しました。問題は、プロジェクトから離れた研究者を著者として加えるかどうかという点でした。別の大学で研究生活を再開していたその研究者は、出版された続報を読んで、なぜ自分の名前が入っていないのかと2人に問いただしました。


このケースは、出版論文に訂正を加えることで友好的に解決しましたが、著しい貢献を果たした人が著者として含まれているかどうかを確認することの重要性を示す好例です。


さて、次に、各著者が4項目すべてに該当しているかどうかを確認しましょう。研究の指導教官を著者に含めることは、(良いこととは言えないものの)慣例となっています。しかし、これが受け入れられるのは、指導教官が著しい貢献を果たし、執筆に関わり、出版に合意した場合です。4つの基準は、1つや2つだけでなく、すべてを満たしている必要があります。指導教官だからといって、自動的に著者資格が与えられるわけではないのです。


投稿論文は、ジャーナル編集者が目を通した後に査読に送られます。編集者は、論文がジャーナルの対象領域にマッチしているか、長さなどの要件を満たしているか、査読者の時間を無駄にしない程度の質を備えているかを確認します。経験豊富な研究者と思っていた著者から、きわめて質の低い論文が送られてくることがあります。(彼らは、何を思ってこのような論文を投稿するのでしょうか?)このようなケースでは、私は編集者として、落胆の意を伝えるようにしています。彼らならより良いものを仕上げられるはずだと知っているからです。そんなときは多くの場合、「指導教官という立場上、名前が加えられただけで、論文には一切寄与していない」という説明が、謝罪とともに返ってきます。


また、ある研究所の所長が、著者が自分の施設を利用したというだけで論文に名前を載せるよう要求したことがありましたが、その論文はリジェクトしました。


ほかには、101名分の著者名が載った論文を受け取ったことがあります。高等教育に関するその論文には、国際共同研究として101人の研究者が各国の状況を記述した内容が含まれていました。筆頭著者は、101人全員が研究に貢献しているため、彼ら全員に著者資格があると主張しました。本文と同程度の長さを持つ、著者と各自の所属先が記載されたリストを作り上げた労力はさておき、101人全員が4000ワード(うち40ワードは参考文献リスト)の論文を共同で執筆し、論文のすべてに責任を負うことやそれを出版することに合意したとは、到底信じられませんでした。その論文もリジェクトしましたが、その後、別のジャーナルで出版されたかどうかは知る由もありません。


一部の国では、出版の可能性を高めることを目的に、著名な研究者を「ゲスト」オーサーとして加える習慣があります。「ゲスト」はたいてい、自分の名前を利用されていることを知りません。これは出版倫理違反であるだけでなく、論文がリジェクトされた場合は「ゲスト」の信頼も損なわれかねないので、名誉毀損につながる可能性もあります。したがって、「ゲスト」オーサーにされた研究者は、無断で名前を使った著者に対して、不服を申し立てる権利があります。


4つ目の基準はきわめて重要です。著者として名前が記載されることに同意することは、自分が担当した部分だけでなく、論文全体の責任を負うことを意味します。すなわち、共著者の1人が分析や解釈を誤ったり、最悪の場合、剽窃に手を染めることで論文に不備が発覚したりした場合は、共著者たちもその責任を問われ、顔に泥を塗られることになるからです。4つのすべての基準を満たしていない限り、著者名の記載に同意することは絶対に避けましょう。


論文を投稿する際は、各著者の貢献内容を示した文書も一緒に提出するとよいでしょう。これにより、少なくとも、編集者からこのような情報を求められた場合に時間を節約できますし、何より、深刻な事態から自分を守ることができるはずです。


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参考資料:

Graf, C., Wager, E., Bowman, A., Fiacks, S., Scott-Lichter, D., and Robinson, A. (2007) Best practice guidelines on publication ethics: a publisher's perspective. International Journal of Clinical practice61 (supp 152), pp1-26. DOI: 10.1111/ijcp.12557 Accessed 11 October 2017, at: http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/ijcp.12557/full.

ICMJE (2017) Defining the role of authors and contributors. International Committee of Medical Journal Editors. Accessed 11 October 2017

 

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