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科学ニュースにおける誇張 ~科学コミュニティーの役割とは~
以前の記事で、 メディアにおける科学研究の誤った報道が、科学に対する一般人の理解を歪めていることを論じました。これは、主として科学をどう伝えるかというメディアの側の問題に見えますが、科学的事実が誇張・歪曲されるのはメディアだけの責任なのでしょうか?
最近の研究 によれば、科学ニュースの誇張・歪曲については科学コミュニティーにもかなりの程度、責任があることがわかっています。問題の根は、学術研究に関するプレスリリースにあるようです。先に述べた研究で著者たちは、イギリスの主要20大学から1年間にわたって発表されたヘルス分野の研究に関するプレスリリース462件を選び、関連のあるニュース記事668本を追跡調査して、プレスリリースとニュース記事の間に食い違いが見られるか、つまり査読済み論文で語られていることを超えた主張がなされているかどうかを調べました。
調査の結果、以下のことが明らかになりました。
- 40%のプレスリリースが、論文で書かれていたことに比べてより直接的で、より意味の明確な表現 を使用していた。
- ニュース記事で元の論文を越えた主張がされている場合、大学のプレスリリースですでにそうした誇張 が見られていた。
- プレスリリースに誇張が含まれる場合、ニュース記事の内容も誇張される傾向が強かった(誇張の割合は58% -86%)
- プレスリリースに誇張が見られない場合、ニュース記事の誇張も非常に小さかった(誇張の割合は10-18%)。
学術界とメディアをつないでいるのは大学や研究機関が発するプレスリリースであり、プレスリリースの情報がニュース記事の元になっています。メディアが何を報道するかについては、学術機関が発表するプレスリリースの責任が大きいと筆者らは結論づけています。誇張された情報については報道機関やジャーナリストが非難されることが多いですが、この調査からは科学コミュニティー(論文の著者や大学、研究機関)にも責任があるという結果が出ています。
科学が世界にどう伝えられるかは一般の人々の認識に大きな影響を与えるので、責任を持って研究結果を伝達することが重要です。研究を推進するためにメディアを利用すれば(特に健康科学の分野では)、新たに開発された技術や治療法への投資が増え、医療政策にも影響を与えますが、誇張された科学情報を宣伝することは、逆に悪影響となる可能性もあります。科学コミュニケーションは複雑で相互に関連しあったプロセスです。そのプロセスの各段階で、正確に研究結果が伝えられなければなりません。
科学コミュニケーションで誇張がなされる要因は様々です。
- ジャーナリスト は、情報の誇張に大きな責任を負っています。彼らがそうした情報を流すのは、ますます競争が激しくなるメディア業界でのプレッシャーが原因です。
- 公的助成金を巡る競争も激しくなっているため、大学 も研究成果の質を実証するというプレッシャーのもとにあります。
- 科学者 自身は、自分の研究が持つ実用的・経済的効果を示さなければならないという極めて大きなプレッシャーにさらされています。そのことが、よりニュースバリューのある研究結果を伝えようという心理につながる恐れがあります。
こうした複合的な要因によって、誇張された報告の連鎖が引き起こされるというわけです。責任を持って研究成果を伝えるため、何ができるでしょうか? 科学コミュニティーは意識的に研究成果に関する情報を誠実に伝えていかなければなりません。
- プレスリリースでの誇張された主張・報告に対して、発表者は責任を負わなければなりません。
- 科学ジャーナリストも、プレスリリースを無批判に報道するのは避けるべきです。正確で、根拠に基づく報道が奨励されなければなりません。
- 政策立案者や助成金支援機関もまた、 研究の価値とその効果の関連づけのあり方を見直す必要があります。
熟慮と責任をもって科学的知見を社会に伝えることが、今、必要とされています。ジャーナリストと研究者が互いに協力し合って 同じ目標を目指していけば、きっと可能になるでしょう。
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