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論文撤回率は上がっているか?
ジャーナルに掲載されている論文には、査読という長く徹底的なプロセスを経ているので、深刻な間違いも不注意からのミスもないものです。にもかかわらず、間違いが気づかれないままということも時にはあるかもしれません。
出版倫理委員会(Committee on Publication Ethics ;通称COPE) のガイダンスには、「論文のわずかな箇所が誤解を招きやすい記述(特に悪意のない間違いにより)になっていて、その他の部分は信頼できる」場合は、訂正するよう勧めています。
たいていの論文で見られるのは、連絡先住所が不正確であるといった技術的な間違いだけなので、増刷時に誤植の通知を出すだけですみます。しかし時には、もっと重大な失敗が紛れ込んでいて、その論文をまるごと引き下げなければならないこともあるかもしれません。そのような撤回された学術論文の数が、最近非常に増えています。自然科学のジャーナルと発表論文の数は毎年増えていますが、無効だとして撤回される論文率も増えているのです。こうした傾向は学問分野によらず広く見られます。科学における不正行為 (ねつ造、ねつ造疑い、剽窃を含めた)が、科学系ジャーナルで発表された論文が多数撤回される理由です。
撤回率の動向と、数十年でどれほど増加したかを把握するため、研究が多く行われてきました。PLOS ONEで発表された研究に、学問分野の全範囲にわたり、撤回された論文の分野と特性を把握しようとしたものがあります。撤回された論文を特定するため、主要な学問分野に対する最大の書誌情報データベースのうち42個と、出版社のウェブサイトを調査しました。
著者たちの発見によると、1928年から2011年までの間に、4,449本の論文が撤回されていました。1年あたりの撤回論文数は、2001年から2010年にかけて増加していました。さらに、剽窃や著者主導による二重投稿といった不正行為の疑いによる撤回 (47%)は、研究活動の不正行為やデータ改ざんの疑いによる撤回(20%)や疑わしいデータ/解釈(42%)に、数の上で勝りました。研究によれば、撤回された論文はほとんどにデータの欠陥はなく、たいていの撤回論文の著者は、研究活動の不正行為で告発されていないということです。
米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences;PNAS)に先日掲載された別の研究からは、撤回の2/3は何らかの不正行為によるものということがわかりました。この研究は、PubMedに1973年から2012年3月3日まで掲載された生物医学と生命科学の研究論文のうち、2,047本の撤回について検討しました。不注意による誤りが原因で撤回された論文はわずか21.3%にすぎず、67.4%はねつ造 (43.4%)、二重投稿 (14.2%)、剽窃(9.8%)による撤回でした。
撤回率増加の理由の一つに、2005年以降、出版社が剽窃や二重投稿を発見するソフトを使い始めたことがあります。ですから、以前は見つけにくかった事例が、今では次々と発見されているのです。その上、ジャーナルでの発表は科学者としての能力と成功のもととされており、補助金も論文発表の業績にもとづいて判断されるため、科学者はより多く、より早く発表するのに必死です。このような経緯から、研究者は不正行為に溺れてしまうのかもしれず、自分の研究や論文がすべての面で倫理ガイドラインに則しているか確認する時間を持てないのかもしれません。たいていのジャーナルは、評判が落ちるのを恐れて論文撤回の理由について明確にしません。そのため、撤回についてあまり理解されず、研究もされないのです。この問題に取り組むため、ニューヨークのジャーナリストでブログ“Retraction Watch”の共同設立者のアイバン・オランスキー氏は、ジャーナルに対する「透明性の指標(‘transparency index’ )」を定め、撤回理由の明確さのような基準によりランクづけするという提案をしています。こうした指標は、なぜ撤回される論文があるのかを理解するのに役立つことでしょう。
出版業界では撤回はホットな話題です。サイエンスやネイチャーのような評判の高いジャーナルですら、論文を撤回することがあります。しかし、撤回が増加しているからといって、必ずしもねつ造も増加しているということではありません。ニューヨーク市にあるアルベルト・アインシュタイン医学校の微生物学者であり、mBio誌のエディターでもあるアルトゥーロ・カサデヴォール(Arturo Casadevall)氏は次のように言っています。「数十年で、撤回率がゼロから0.01%まで増加したという事実は、問題に対する認識の高まりを示すものとして、まさに励みになる」”
撤回率の増加についてどう思いますか? 透明性の指標に賛成しますか?
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