学術的評価に依然として影響力を持つインパクトファクター
米国とカナダで研究を中心に活動している機関の約半数は、昇進やテニュアに関する意思決定を行うときに、依然としてジャーナル・インパクトファクターを参考にしているようです。この事実は、PeerJ Preprintsに掲載されたある調査論文で発表されました。研究の質と研究者の信頼性を評価する指標としてのインパクトファクターの適切性についての議論が続く中、今回の報告書は、インパクトファクターの使用に関する実態を明らかにしています。
インパクトファクターは、ジャーナルの過去2年間における被引用数の平均値を示すものです。学術関係者や査読委員会は、論文や著者の質を手軽に判断するためのツールとして、インパクトファクターを重視しています。調査結果では、かねてから論争の対象となっているこの評価指標が、昇進やテニュアの意思決定に依然として強い影響力を持っていることが明らかにされました。
メキシコ国立自治大学(メキシコシティ)の神経生理学者、エリン・マクキアナン(Erin McKiernan)氏らが実施したこの研究では、米国とカナダの129機関で、レビュー・昇進・テニュアプロセスに使われた864件の書類を調査しました。調査では、インパクトファクターに関連する言葉を検出するソフトウェアが使用されました。また、関連箇所を読んで、その機関がインパクトファクターを利用した方法と理由も把握しました。
分析の結果、129機関中23%が、書類の中でインパクトファクターに言及していたことが分かりました。研究を中心に活動する機関ではこの割合がさらに高く、対象となる57機関の40%がインパクトファクターに言及していました。一方、修士課程に力を入れている機関では、インパクトファクターに言及していた割合はわずか18%でした。また、インパクトファクターに言及していたもののうち、この指標を使うことに注意を促していた割合はわずか13%で、学術的評価の指標として使うことを80%以上が奨励していました。
しかし、論文著者らは、この割合はさらに高いものと見ていて、今回の結果は「氷山の一角」にすぎないと警告しており、「top-tier journal(一流誌)」や「high-ranking journal(上位誌)」などの間接的な用語がインパクトファクターの代わりに使われている可能性も指摘しています。
研究者のパフォーマンスの評価指標としてジャーナル・インパクトファクターを使用することは、この指標が研究者の質の測定に不十分であると考える多くの学術関係者から批判されています。インペリアル・カレッジ・ロンドンの構造生物学者、ステフェン・カリー(Stephen Curry)氏は、「研究者は、“どこで出版したか”ではなく、“何をやったか”で評価されるべき」と主張し、研究機関が研究者のパフォーマンスを評価する新たな手法を見つける必要性を説いた上で、「出版物とは別に、それぞれの貢献が評価されなければならない」と述べています。
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