論文の初稿を書き上げるには
研究論文を書くことを目標にしているなら、より具体的な言葉で表すと、目標を達成しやすくなります。たとえば、「3500ワード程度のIMRaD形式(イントロダクション、材料と方法、結果、考察)の論文を書く」というように、具体的な目標を設定してみましょう。
IMRaDの各セクションの目標ワード数を設定すれば、作業をさらに具体化することができます1。ワード数の大まかな配分は、たとえばイントロダクション:400ワード、材料および方法:700ワード、結果:1000ワード、考察:1400ワードのように決められます。この配分はあくまで提案なので、必ずしもこの通りでなければならないわけではありません。各セクションは、次の問いへの回答だと考えましょう:「なぜ?」(イントロダクション)、「どうやって?」(材料と方法)、「何が?」(結果)、「だとしたら?」(考察)。この骨組みが完成したら、次は肉付けをしていきます。この記事では、論文の骨組みを作って肉付けをする過程でのヒントを紹介します。
1. 早めに書き始める
計画した研究をすべて終えるまで待つ必要はありません。使用中の機器のメーカーやモデル、個別の化学反応の持続時間、化学溶液の組成など、詳細を鮮明に覚えているうちに、あるいはすぐに調べられる状況にある研究の進行中に、材料と方法のセクションを書いてしまいましょう。結果セクションについても、どのようなデータを集めるかは事前に分かっているので、あらかじめ仮の表を用意しておき、結果が出そろってきたら表を埋めていきましょう。
2. 自分の研究についてほかの人に話す
周囲の人に研究について口頭で説明すると、考えが整理されて言葉の流れがスムーズになり、読者に向けて書く内容がより明確になるので、論文が書きやすくなります。
3. 大筋を作ってから展開する
IMRaD構造は大まかな枠組みなので、必要に応じて各セクションにサブセクションを設け、より具体的なものにしなければなりません。たとえば、材料と方法のセクションなら、(1) 実験環境の説明、(2) 実験のサンプリングおよびデザイン、(3) サンプルの分析方法、(4) 統計分析方法、といったサブセクションを設定します。一般的に、同じ流れの中でなら、同じサブセクションを結果セクションでも使うことができます。心理学博士のポール・シルビア(Paul Silvia)氏は、著書『How to Write a Lot: a practical guide to productive academic writing (できる研究者の論文生産術 どうすれば「たくさん」書けるのか)』の中で、「科学の世界に情報を発信する前に、まずは考えを整理しましょう」とアドバイスしています2。
4. イントロダクションは段階的に組み立てていく
材料と方法のセクションは、「何」を「どのように」行なったかを書けばよいので、比較的書きやすい部分と言えます。一方、イントロダクションは、「なぜ」(なぜそのテーマを選んだのか?なぜその方法を選んだのか?)という問いに答える必要があるため、書き上げるのが難しいセクションです。まずは、階層と文脈を設定するところから始めましょう。リサーチクエスチョンや目的を示し、その重要性を強調しましょう(できれば、関連する統計データを示しましょう)。次に、そのリサーチクエスチョンや課題の解決を試みた先行研究のレビューを簡潔に行い、自分のアプローチがそれらとどのように異なるのかを述べましょう。最後に研究の具体的な目的を述べて、イントロダクションを締めくくります。つまり、イントロダクションは、リサーチギャップを特定し、それをどのように埋めようと考えているかを述べる場だということです。
5. 目標を設定して時間を管理する
骨組み作りやその修正作業は隙間の時間に行なってもよいですが、肉付けのプロセスには、集中して作業ができる一定の時間を確保しましょう。そしてその都度、目標を設定しましょう。ただし、目標は時間ベースではなく、ワード数ベースで設定します。自分に、「どれだけ時間がかかっても、500ワード書き終えるまでは立ち上がらない」と言い聞かせましょう。この段階では、とにかく書き続けることが重要です。言葉選びの正確さやスペリングなどを気にする必要はありません。見直しやブラッシュアップの作業は、次の段階で構いません。
論文執筆は、億劫に感じられることもあるでしょう。そのときは、論文を書き上げることで得られるもの(承認、達成感、自信)を思い浮かべながら作業を進めましょう。Belcher(2019)は、12週間で論文を書き上げる方法を提唱しています3。幸運を祈ります!
参考資料:
1. Araújo C G. 2014. Detailing the writing of scientific manuscripts: 25-30 paragraphs. Arquivos Brasileiros de Cardiologia 102 (2): e21–e23 doi 10.5935/abc.20140019
2. Silvia P J. 2019. How to Write a Lot: a practical guide to productive academic writing, 2nd edn. Washington, DC: American Psychological Association. 145 pp.
3. Belcher W L. 2019. Writing Your Journal Article in Twelve Weeks, 2nd edn. Chicago: The University of Chicago Press. 427 pp.
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