健康と気候変動に関するランセットレポート2022ハイライト

健康と気候変動に関するランセットレポート2022ハイライト

10月23日、「化石燃料に翻弄される健康」をテーマとしたレポート「ランセット・カウントダウン2022」が発行されました。レポートでは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックによる影響と、化石燃料への過度な依存による気候変動の拡大で、「人類の健康とウェルビーイングの土台への影響が強まり、それに伴って発生する健康への脅威に対する人々の脆弱性が高まっている」と結論づけられています1

 

ランセット・カウントダウンは2015年から毎年発行されており、分野を超えた国際的な協力を通じて、気候変動がグローバルヘルス(世界の人々の健康)に及ぼす影響を独自に評価しています。具体的には、5つの主な領域(気候変動による影響・暴露・脆弱性;健康への適応・計画・柔軟性; 緩和行動と健康上のコベネフィット; 経済と金融; パブリックエンゲージメントと政治的関与)における 43の指標を追跡しています2

 

このレポートは、51の研究機関と、世界保健機関(WHO)、世界気象機関(WMO)、欧州疾病予防管理センター(ECDC)をはじめとする国連機関の99人の専門家が協力して作成したものです。査読済みのランセット・カウントダウンに加えて、カウントダウン指標に基づく国別の分析に関する論文も年間を通じて発行されています。

 

ランセット・カウントダウン2022の主な結果1

 

  • 2021年から2022年にかけて、すべての大陸で異常気象が発生し、すでにCOVID-19パンデミックの影響を受けている医療システムにさらなる負荷がかかった。
  • 気候変動による食料供給への影響が高まっており、2020年に中程度から深刻なレベルの食料不安を経験している人々は、1981~2010年の平均よりも9,800万人多いと推定される。気候変動の影響は、COVID-19パンデミックやその他の危機によって高まっている。
  • COVID-19パンデミックの影響によって、世界の保健システムは弱体化し、気候変動に対応するための資金が減少している。
  • 依然としてエネルギーを化石燃料に大きく依存する中で、エネルギー需要が59%増加し、2021年の総排出量は記録的水準に達した。ウクライナでの戦争をきっかけに、各国はロシアの化石燃料に代わるものを求めるようになっているため、総排出量はさらに増加すると予想され、一部の国は石炭の使用を再開している。
  • 再生可能エネルギーの利用は遅々として進んでいない。現状、再生可能エネルギーは世界のエネルギー供給の2.2%にとどまっている。
  • 信頼できるクリーンなエネルギー源にアクセスできない状態にある多くの世帯が、伝統的バイオマス(動植物由来の資源)を家庭用エネルギー源として使用している。これは世界で消費される家庭用エネルギーの最大31%を賄っており、人間開発指数(HDI)が低い国では96%に達する。分析した62か国では、一般家庭における空気中の微小粒子状物質がWHOの安全基準の30倍だった。
  • 「石油会社とガス会社が記録的な利益を上げている一方で、その生産戦略は人々の生活とウェルビーイングを犠牲にし続けている」。大手の石油会社とガス会社は依然として排出ガイドラインの基準を超えており、一部の政府は化石燃料の使用に補助金さえ出している。
  • 裕福な国は、発展途上国の気候変動対策を支援するための資金提供を行う責務を果たせていない。また、COVID-19パンデミックによる景気後退と世界的な社会不安の影響が、資金提供の意欲をさらに減退させている。
  • 世界は今、気候変動、COVID-19パンデミック、経済の低迷、世界的な社会不安など、複数の危機に直面しており、このうちの1つに対応することで、別の危機の悪化につながるリスクがある。「この重要局面では、現在のさまざまな危機に対して健康を中心とした対応を取ることが、未来のしなやかな低炭素社会を作ることにつながる。さらには、気候変動の加速による健康被害を回避し、気候変動対策によるコベネフィットを通じた健康とウェルビーイングの向上をもたらす」1
  • これらの悲観的な状況にもかかわらず、明るい兆しも見られる。気候変動による健康面に関心を持つ個人が増えており、気候変動と健康との関連性に注目する国も増えている。地域レベルでは、気候変動が住民の健康に及ぼすリスクを見きわめようとする自治体が増加している。
  • 各国は、再生可能エネルギー源の研究開発に注力することで、ロシア産石油への依存度を下げようとしている。

 

ランセット・カウントダウンと気候正義

 

レポート全体を貫くテーマとなっているのが、気候変動が健康に及ぼす影響の不均衡さです。オープンアクセスウィーク2022のテーマとしても取り上げられた気候正義の欠如は、ランセット・カウントダウンでも至るところで触れられています。例を挙げてみましょう。

 

  • 気温の上昇とそれに伴う熱波の増加は、脆弱な人々(1歳未満の子どもと65歳以上の成人)に対して、ほかの人々に対してよりもはるかに大きな影響を与える。65歳以上の成人の熱波に関連した死亡率は、2000~04年から2017~21年の間に約68%増加した。
  • 食料供給は世界中で懸念を引き起こしているが、「低学歴で低所得の世帯は食料不安を経験する可能性が高い。また、その社会的役割の性質と、土地を所有していないケースが多いことが理由となって、女性および女性が主な働き手となっている世帯では、栄養失調の傾向が高い」1
  • 人間開発指数(HDI)の高い国は、生産および消費ベースの排出量にもっとも関与していた。ただし、人間開発指数(HDI)の低い国では、大気保全の品質管理が不十分で、汚染度の高い燃料が使われているため、微粒子の排出量が最も多かった。

 

次のステップ

 

ランセット・カウントダウンには、健康的な未来に向かって進むためにさらに拡大し続ける必要のあるポジティブな行動が示されていました。再生可能エネルギー発電と電気自動車の使用は記録的な伸びを示し、クリーンエネルギー産業への雇用と投資は徐々に増えています。さらに、メディア、科学界、企業、政治指導者による健康と気候変動への関与も増えています。

 

世界は、地球規模の気候変動とそれに伴う健康影響を緩和する試みを圧迫するような、さまざまな危機に同時に直面しています。すべての人にとってより安全で健康的な未来を確保するためには、人間の健康を中心に据えてこれらの危機に取り組む必要があるでしょう。

 

参考資料

 

1. Romanello, M. et al. The 2022 report of the Lancet Countdown on health and climate change: health at the mercy of fossil fuels. 2022. DOI:https://doi.org/10.1016/S0140-6736(22)01540-9

 

2. Lancet. The Lancet Countdown on health and climate change. https://www.thelancet.com/countdown-health-climate/about

 

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