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「あら捜し的査読」:ジャーナルは、アクセプトではなくリジェクトありき?
研究者なら誰でも、キャリア構築の過程でジャーナルからのリジェクト(掲載拒否)を経験します。リジェクトは非常によくあることで、出版プロセスには必ずついてまわるものです。投稿論文がリジェクトされるもっとも一般的な理由には、リサーチクエスチョンがジャーナルの対象領域と合っていない、論文の構成が良くない、独自性に欠ける、研究デザインに欠陥がある、などがあります。研究者がリジェクトを経験しやすいのは、インパクトファクターが高いジャーナルに投稿するときです。これらのジャーナルの多くは、リジェクト率が90%以上です。研究者の多くは、一流ジャーナルは論文をアクセプトせずリジェクトしようとする傾向があると考えています。Journal of Marketing Channels誌の編集長を務める華南理工大学(中国、広州)のニール・ハーンドン(Neil Herndon)氏はある論説でこの現象を、「あら捜し的査読(gotcha reviewing)」と名づけました。
ハーンドン氏の説明によると、ジャーナルは「リジェクトしようとして論文の欠点を見つけることに力を入れる」ため、「あら捜し的査読」が生じるということです。この現象は、選別基準の厳しい、いわゆるインパクトファクターの高いジャーナルで起こりやすいといいます。同氏はその主な原因として、ジャーナル編集者と査読者に過度の負担がかかっていることがあると考えています。このため、修正可能な間違いであっても、それを理由にリジェクトされてしまうケースも多々あるとのことです。さらに、一流ジャーナルには、ジェンダー・地域・年齢・所属に対する偏見(バイアス)が存在することも知られていうことです。その結果、すぐれた研究アイデアが失われ、ベテラン研究者に立ち向かう中でリジェクトを受けやすい新米研究者のやる気がそがれることにつながっているとハーンドン氏は警告しています。
ジャーナルの選別プロセスには別の要素もある、と考える学術関係者も多くいます。ジャーナルは、インパクトファクターを上げる目的で、定期的に大量のリジェクトを出します。これは、アクセプト率を一流ジャーナルに近づけようとするためで、選考基準を厳しくすれば、著者にとってジャーナルの魅力が増すと考えているためです。ジャーナルのインパクトファクターとリジェクト率の間には何の関係もないことが分かっていますが、この傾向は続いています。その結果、研究者の多くの時間とリソースが無駄になっています。さらに研究者は、手を抜いて近道をしてでも新奇性やインパクトがあるように見せなければならない状況にあるので、科学にとって多大な損失となっています。
この問題に解決法はあるのでしょうか。ハーンドン氏は論説の中で、「発展的査読」を提案しています。これは、編集者と査読者がリジェクトについて検討するのではなく、著者に対して論文の改善点を伝えることによって、優れた研究を救済しようというものです。ハーンドン氏は、質の良い研究を支援するという目的を持つジャーナルならば、発展的査読を究極の基準とすべきだと述べ、第一印象で論文をリジェクトせずに以下のように進めることを提案しています。
ジャーナルが行う評価の主な目的は、優れた研究を受理し救済することであるべきだという意見に賛同する人は多いでしょう。しかし、次のような疑問も自然に湧いてきます。大量の投稿論文を扱うジャーナルがメンターの役割を担うのは現実的でしょうか?査読者と編集者は、増加の一途をたどる出版物に対応するため、時間の捻出に苦労しています。編集者には、ジャーナルのインパクトファクターを維持しなければならないというプレッシャーもあります。このような状況では、査読者も編集者も、著者を導く役割を果たそうという気にはならないでしょう。査読をしようという動機付けの不足、学術界における激しい競争、ジャーナルの評価維持へのプレッシャーといった要因が組み合わさって、「あら捜し的」行為につながっています。このため、発展的査読の導入には、さまざまな点で変化が必要です。査読者と編集者だけでこの問題を解決するには限界があるでしょう。
「あら捜し的」な査読を経験したことはありますか?ジャーナルが、投稿論文に対応しつつ発展的査読を取り入れるにはどうしたらよいでしょうか。以下のコメント欄から、あなたのご意見や経験をお聞かせください。
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