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論文を投稿するときに開示すべき倫理関連情報
研究にまつわる倫理関連情報の開示は、ジャーナルへの論文投稿プロセスにおいて欠かせないものです。著者として、投稿前にいくつかの質問やステートメントに対応する必要があります。それらの項目を順番に見ていきましょう。
投稿前に考慮すべきオーサーシップ関連事項
ジャーナルに論文を投稿する前に、オーサーシップに関する以下の重要事項について検討する必要があります:
- 論文の著者全員がオーサーシップに同意し、論文を読んだ上でそれを承認し、投稿および出版に承諾していることを確認する(オーサーシップの基準はICMJEのガイドラインに従うこと)。
- 著者名の順番は、投稿前にすべての著者の合意を得た上で決定する。
- 著者のフルネーム、所属機関、取得学位、メールアドレス(またはORCiD IDおよび、Facebook、Twitter、LinkedInなどのソーシャルメディアアカウント情報)がタイトルページに明示されていることを確認する。
- 論文に関連するコミュニケーションのすべてに責任を負う責任著者(コレスポンディングオーサー)を決め、その人物の所属機関に関する情報(郵便番号、所在地、電話番号、ファックス番号、メールアドレスを含む)が示されていることを確認する。
- ジャーナルによっては保証人を求められる。責任著者が保証人を兼ねる場合と、別の人(研究の進捗を管理する立場の経験豊富な人)が保証人になる場合がある。保証人は、ジャーナルの求めに応じて、論文の公正性(倫理的側面、データ管理、結果の報告、研究の実行など)に責任を負い、論文に関する専門的な問題が発生した際にジャーナルとコミュニケーションを取り、またそれに対する責任を負う。
謝辞(Acknowledgements)に含める人物は、著者全員が同意した上で記載されなければなりません。
論文投稿に関連する開示事項:ジャーナルに論文を投稿する際は、投稿先の方針やガイドラインを順守する必要があります。ほとんどのジャーナルが、以下の項目についての申告/宣言を著者に求めています:
- 論文の一部または全体が、ほかのどこにも投稿または公開されていない。すなわち、論文が二重出版ではないことを保証しなければならない。
- 編集プロセスが完了するまで、論文をほかのどこにも投稿しない。
- 論文の中に出版済みのコンテンツ(図/表)が含まれる場合、著者および出版元が署名したコンテンツの再利用する許可書を提出しなければならない。
- 商用製品に関する内容を投稿する際は、新製品を説明する内容の正確性を検証するために、場合によっては出版前にその箇所のコピーを製造者に渡す必要がある。
- 論文の内容を、学会議事録、ジャーナルへのレター、短報、リポジトリ(arXiv biorXiv, Figshareなど)に登録したプレプリントなどで過去に発表した場合、またはそれらが保留中である場合は、その旨を申告しなければならない。
- 論文のアブストラクトを学会などで発表したことがある場合は、それが著作権保護下になく、エンバーゴ期間外であることを保証しなければならない。アブストラクトが出版社の著作権保護下にある場合は、コンテンツの再利用に関する承認を受ける必要がある。
- (単一言語または多言語で)2誌以上のジャーナルで出版されているシリーズ論文の続報である場合は、その旨を明示する必要がある。さらに、双方のジャーナルの編集者の同意を得た上で、それぞれの規定に従わなければならない。
- 別の論文で使用されたデータセットに基づいた論文である場合、著者は透明性を保持するために、その先行論文を参考文献として示さなければならない。
- 論文に関するデータセットが存在する場合は、論文の結果や分析の根拠となるデータの所在情報を提供しなければならない。具体的には、公開されているデータセットのハイパーリンク、DOI、その他の特定可能情報などが該当する。情報の提示方法は、ジャーナルが指定するテンプレートや書式に従う。新しいソフトウェアやアプリケーションに関する論文の場合は、信頼性の高いオープンソースリポジトリ(http://www.bioinformatics.org/やhttps://sourceforge.net/など)にそのプロジェクトを公開し、プロジェクト名、ウェブサイト、オペレーティングシステム(OS)、プログラム言語、ライセンス、一般使用における制約事項などの情報を論文に示さなければならない。
人/動物が関わる研究における倫理審査の承認に関する開示事項
人や動物が関わる研究や、ケースレポート/ケースシリーズでは、以下の情報を開示する必要があります:
- 承認を得た倫理承認委員会/倫理審査委員会の名称および承認番号/ID。
- 研究が免責対象となっている場合は、その旨を詳細に述べる。また、その理由を述べる。2013年に改訂されたヘルシンキ宣言に準じて研究が行われたことを保証しなければならない。
- 被験者から書面によるインフォームドコンセントを得ていることを示さなければならない(ジャーナルから関連資料の提出を要求されたら、その都度応じる必要がある)。口頭による同意しか得ていない場合は、書面でない理由を述べなければならない。
- 未成年/子供/乳幼児が関わるケースレポート/ケースシリーズの場合は、法定代理人/両親/保護者からの同意書を得ていることを示さなければならない。口頭による同意しか得ていない場合は、書面でない理由を述べなければならない。
- 患者のプライバシー保護の観点から、個人を特定できる情報(写真、氏名、イニシャル、病院番号など)は、科学的意義のある情報でない限り、データ・文章・画像に含めてはならない。これらの情報を写真または電子形態として公開するにあたっては、患者からインフォームドコンセントを書面で得る必要がある。同意書がない場合は、論文や補足資料(図版も含む)の患者の個人情報が含まれる箇所を投稿前にすべて削除しなければならない。
論文タイプ別の開示事項
ここまで、論文投稿時の開示事項や、人や動物が関わる研究に関する開示事項を見てきました。ここからは、論文タイプ別の開示事項について説明します。
1. 臨床試験:(薬、外科手術、装置、行動療法、食事療法、ケアプロセスの変更などによる)治療効果を評価するために、被験者を1つ以上の医療介入にあらかじめ割り当てる臨床試験では、CONSORT ガイドラインを順守しなければなりません。ガイドラインを順守したことの確認書を、プロトコルと一緒に提出しましょう。ランダム化比較試験では、ISRCTN(国際標準ランダム化比較試験番号)、あるいはICMJEまたはWHO ICTRP が認める試験登録簿および試験登録番号を記載します。
臨床試験を登録していない、または登録できなかった場合は、その理由を示さなければなりません。ジャーナルの多くは、さかのぼっての臨床試験登録も認めているので、試験開始前に登録していない場合は、試験中や試験後に登録を済ませるようにしましょう。
論文にはさまざまなタイプがあるので、自分の論文が、EQUATOR Networkによる各論文タイプの規定に沿っていることを確認してください。たとえば、ケースレポートはCAREガイドラインを、観察研究はSTROBEガイドラインを順守する必要があります。また、論文投稿と一緒にそれぞれのチェックリストも提出しなければなりません。
2. レビュー:レビュー論文では倫理審査委員会の承認やインフォームドコンセントは不要です。ただし透明性の観点から、多くのジャーナルが、それらが不要である理由を明示するよう著者に求めています。
助成金、利益相反などのその他の重要開示事項
以上の開示事項とは別に、著者は以下の項目も考慮する必要があります:
1. 新生物分類群/種の定義:新たな生物分類群や生物種に関する論文は、関連書類と固有のデジタル識別子を提出して、藻類、菌類および植物、動物、細菌、ウイルスごとの関連ガイドラインを順守していることを述べる必要があります。また、論文に新生物種の登録番号(例:菌類は MycoBank、動物はZooBank)を明記する必要があります。新ウイルスの名称は、論文出版前に関連する研究グループの承認を得る必要があります。
2. 著者の貢献:研究の実施や論文執筆への各著者の貢献度を示します。具体的には、研究デザインの着想、データ収集、実験、データ分析、論文執筆などの各貢献を誰が行なったのかを述べます。著者の貢献の申告については、各ジャーナルの規定を確認してください。
3. 謝辞(Acknowledgments):技術的支援を行なった人や、全般的なサポートを提供した機関/学部長、論文執筆をサポートしたメディカルライターなど、オーサーシップ基準を満たさない関係者の貢献については、謝辞のセクションで述べましょう。とくに言及すべき人がいなくても、一般的にジャーナルはこのセクションを含めるよう求めるため、その場合は「該当者なし」と書きましょう。
4. 助成金:研究および研究デザイン、データの収集・分析・解釈、論文執筆にかかったコストの資金源は、すべて申告しなければなりません。資金援助を受けた助成団体の名称と助成金番号を示しましょう。助成金を一切受け取っていない場合は、その旨を報告しましょう。
5. 競合利益/利益相反:著者は、金銭的および非金銭的な利益相反について申告しなければなりません。非金銭的な利益相反には、政治的・個人的・宗教的・思想的・学術的・知的な利益相反があります。臨床試験に出資した製薬企業やその他の営利団体に所属する著者は、投稿時にその旨を競合利益として申告しなければなりません。医学出版に関するGPP3(製薬企業のための良好な出版慣行)ガイドラインを順守しましょう。
著者は、コンサルティング企業との関わり、雇用条件、権利擁護団体への参加、株式または株式所有権および助成金・手数料・謝礼金・還付金・登録済みの特許に関する財務情報などに関する個人的利益相反がある場合は、その旨を申告しなければなりません。また、所属機関の利益相反についても申告しなければなりません(例 雇用主が論文の内容についての金銭的利害関係や何らかの利益相反関係を持っている)。とくに申告すべき事項がない場合は、「著者が報告すべき利益相反の可能性は存在しない」という一文を添えましょう。
以上のようにさまざまな項目がありましたが、投稿が不受理とならないように、著者はこれらのすべての情報を開示し申告する義務があります。情報の開示によって、透明性と公正性を備えた倫理的な論文出版が可能になります。多くのジャーナルが情報開示用のテンプレートを用意しており、投稿規定のページでそれらを公開しています。このフォームをダウンロードして、必要事項を記入・署名し、論文投稿時にアップロードしましょう。
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