少々のユーモアとたっぷりの連帯を:辛口な査読コメントに対処するためのヒント
「査読は研究のゴールドスタンダード」と言う人もいれば、「査読は崩壊している」と嘆く人もいます。それでも、科学は査読なしに進歩できないという認識は共通しています。査読者によるコメントはおおむね建設的で有益なものですが、「辛辣なコメント」に遭遇している人も多くいます。研究の隙を指摘する批判自体は歓迎すべきものです。それこそが査読者に期待されていることだからです。しかし、過度に批判的で不躾な、辛口すぎるコメントがあるのも事実です。
批判の度が過ぎる軽蔑的なコメントは、著者の自尊心とやる気に深刻な打撃を与える可能性があります。明確な根拠のない厳しい言葉や拒絶は、研究者の自信と将来に悪影響を与えかねません。否定的な査読コメントに対する著者の経験に関する研究では、怒り、抑うつ、自尊心の喪失、恥などの感情が報告されています1。著者は、建設的な批判の重要性は認めていますが、理不尽さと紙一重の批判からは、「アンフェア」だという感覚しか生まれないでしょう。
辛口すぎる査読コメントに対処する方法
1. 恐怖心を乗り越える
査読レポートが届いたときの緊張感は自然なものです。覚悟を決め、勇気をもって中身を読みましょう。不安な気持ちがあるとコメントに対する認識を歪めてしまう可能性があるので、心を落ち着かせるためのルーティンなどがあれば、読む前に行いましょう。批判をどのように受け止めるかは、隙の無い原稿を書こうとするときの姿勢と同じくらい重要です。
2. 時間をおいて読み直す
査読レポートを読んで直ちに次のステップに進むことはおすすめしません。レポートの内容がネガティブかポジティブかに関係なく、まずはざっと目を通して全体の印象をつかみましょう。そして、少なくとも1日は放置しましょう。コメントを読み直す前に、一旦別のことに気持ちを向けましょう。空白の時間を取ることで、落ち着いた気持ちで読み直し、フラットな気持ちで受け止めることができます。
3. コメントを改めて吟味する
もう一度、冷静な気持ちで客観的にコメントを読んでみます。査読者がコメントを「どのように」組み立てたのかと思う気持ちは脇に置き、強調されている改善点は「何」なのかに焦点を合わせましょう。査読コメントから得るべきものは、原稿の改善が可能かどうか、どのように改善できるのかについてのヒントです。コメントを個人的に受け取めないことで、必要なヒントだけを収集し、原稿の改善につなげることができます。
また、コメントを読むときは共感の気持ちを持つようにしましょう(たとえ査読者からの共感は感じられなくても)。コミュニケーションのスタイルは、査読者によって大きく異なります。中には、手厳しいコメントを書く意図はなかったり、辛口な印象を与えるとは思っていなかった可能性もあります。できるだけ寛大な気持ちで、査読者は査読者なりに分野の研究水準を守ることに真剣に取り組んでいること、多忙な中で査読に時間とエネルギーを費やしてくれたことを思い出しましょう。
4. 冷静な気持ちでシステマティックに回答を作成する
まずは、納得できるものコメントと納得できないコメントに分けましょう。次に、各コメントへの回答をシステマティックに整理しましょう。ややこしいコメントにも、礼儀正しく(たとえ査読者がそうでなくても)、そつなく回答しましょう。回答書は、査読者への感謝で始め、感謝で締めくくりましょう。
よくあるシチュエーション
「もうやってるのに!」
見当違いなコメントを受け取ったことはありませんか?説明文を補足するための図がすでにあるにもかかわらず、「図があれば、この点をより良く説明できるでしょう」との指摘があるような場合です。
査読者も間違うことがあります。ただし、早合点は禁物です。図が適切な文脈で使用されているか、ラベルが正しく付けられているかどうかを注意深く見直しましょう。問題なければ、図は作成済みであることを、関連するページと行番号を示しながら、自信を持って丁寧に答えましょう。
「ライバルの私を蹴落としたいのだ」
競合関係にある研究者の査読を受けることも珍しくありません。不当な要求、特定の方法論への過剰な注目、具体的理由のない批判などに違和感を持った場合、その査読者は、あなたの原稿の出版を遅らせて自分の論文を先に出版しようとしている…そんな可能性も否定できません。そう信じるに足る理由がある場合は、編集者に相談しましょう。
「批判よりも皮肉が好きらしい」
仕事の場で皮肉が役立つことはめったにありませんが、これは査読にも当てはまります。「この原稿は分野の進歩に貢献することはなさそうですが、かといって分野を葬り去ることもないでしょう」という表現は、査読者自身は気の利いたコメントと思っているかもしれませんが、著者には大きな落胆を感じさせているかもしれません。
このようなコメント(とくに対応は求めていないはずです)を受け取ったら、鵜吞みにせずに受け流しましょう。このようなコメントは、精神的な不安定や歪んだ喜びから生まれている可能性があります。皮肉で返したいという誘惑に抗い、その他のコメントに基づいて原稿をどのように改善したかを説明しましょう。
「細部にばかりこだわっている」
査読者が、論文の内容ではなく表現や文法にばかり固執してうんざりしたという経験はありませんか?
これは、著者が若手研究者や特定の地域の出身者であることを踏まえた対応かもしれません。修正が必要な箇所が具体的に示されている場合は、修正し、その旨を回答しましょう。「もっと原稿をブラッシュアップする必要がある」というような曖昧な表現の場合は、第三者に意見を求めてみた方がいいかもしれません。
「失礼だ!」
節度のないコメントは、査読レポートに記載されるべきではありません。(ジャーナル編集者が編集することもあります。)査読コメントに人格攻撃があった場合は、無視して批判にのみ答えましょう。こうした状況は、編集者に報告することができます。コメントが過度に辛辣で、著者や所属機関などへの偏見が示されている場合は、編集者に報告しましょう。
心の健康を保つために
笑い飛ばす
イライラをため込んだ著者の中には、曖昧で無益で棘のあるコメントへの不満を、ブログやつぶやきサイトで吐き出す人もいます。Reviewer 2では、学術界にまつわる例え話が延々とつぶやかれています。レビュアー2には多くの批判がありますが、ある研究によると、本当の悪役はReviewer 3かもしれません。
あるユーモラスなTwitterアカウントで公開された、不適切な査読コメントに関する研究2によると、「査読コメントの文脈をずらして嘲笑や軽蔑の対象とする」と、研究者はユーモアと安心感を得るといいます。その感覚は、否定的なコメントに対処しているのは自分だけではないという認識によって強化されるようです。気分を明るくするためにそのようなブログ投稿を見るのも、悪くないかもしれません。ただし、書き込みを行う際は、健全な形で行いましょう。また、査読者、ジャーナル、ジャーナル編集者を特定できる内容は書かないようにしましょう。
仲間とつながる
否定的な査読による心への影響は、研究成果にも影響を与える可能性があります。辛口なレビューで落ち込んだときは、連帯感が助けになります。研究者に情報と支援を提供するプラットフォームResearcher.Lifeには、同じ壁に直面して克服した仲間たちと出会えるグローバルコミュニティがあります。このコミュニティは、経験や対処法を共有し合ってつながることのできるサポートシステムとして機能しています。
研究人生においては、批判に直面することもあるでしょう。その中には公正なものもあれば、不公正なものもあるでしょう。査読者の仕事は、「あなたの論文を褒めること」ではないことを忘れないようにしましょう。時には褒めてくれる人もいるかもしれませんが、そんなときは感謝の気持ちを持つようにしましょう。ただし、これは例外です。査読者の仕事は、改善が必要な箇所を見つけることだからです。
査読コメントの数を減らすための鍵は、論文の完成度を高めることです。論文出版を支援するエディテージのサービスでは、言語と専門分野に精通したプロフェッショナルが、英語の品質と読みやすさを向上させ、論理構造を改善し、対象ジャーナルに合わせたフォーマット整理を行うだけでなく、査読コメントへの対応もサポートしています。
参考資料
1. Majumder, K. How do authors feel when they receive negative peer reviewer comments? An experience from Chinese biomedical researchers. European Science Editing 5.
2. Marta Dynel. Laughter through tears: Unprofessional review comments as humor on the ShitMyReviewersSay Twitter account. Intercultural Pragmatics 17, 513–544 (2020).
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