論文が撤回されるのはなぜ?

論文が撤回されるのはなぜ?

掲載後に撤回された論文の数は劇的に増加し、かつてないほど多くなっています。掲載された論文全体からみればまだ極めて小さな割合ですが、研究者のキャリアと論文そのものの完全性に傷がつくことを考慮すると、撤回の増加の速さには驚くべきものがあります。
 

研究が撤回される理由はさまざま。大まかに分けると、“誠実な誤り”(honest error)、“故意もしくは故意でない不正行為”(misconduct)、その他があります。


第1、第2のカテゴリーは特に興味深いので、後ほど詳しく議論することにしましょう。第3のカテゴリー、その他には通常、撤回公告に撤回の理由がはっきりと書かれていない、あるいは編集者たちにも撤回理由がはっきりしていない論文が入っています。


例えば、いくつかのジャーナルに同時に投稿し、別のジャーナルに受理された論文の場合、著者が撤回することがあるかもしれません。重複投稿をしたことをジャーナル側に告げていれば、これは著者側の不正行為ということになるだろうが、著者が撤回の理由を明らかにしなければ、「その他」のカテゴリーに入れられるでしょう。

下の表は、“誠実な誤り”と、“故意もしくは故意でない不正行為”、それぞれのカテゴリーに特徴的な理由を挙げたものです。一般的な理由のいくつかを挙げているが、すべてを網羅しているわけではありません。これら基本的な理由による撤回の多くは、ジャーナル側によって行われています。

誠実な誤り

故意でない、あるいは故意の不正行為

• サンプルあるいはデータの誤り

• 利益相反を隠すこと

• 統計解析のゆがみ

• 盗用、あるいは自己盗用

• 不正確さ、あるいは証明不可能な情報

• サラミ法 (同じデータを使い複数の研究として掲載しようとすること)

• 再現不可能性

• データのねつ造、あるいはデータ操作

• 掲載の重複 (ある側面がすでに掲載されていることがわかった)

• 倫理審査計画書を守る意思の欠如

• 著者推定をめぐる議論

• 重複投稿 (同時に別々のジャーナルへの)

 

興味深いが驚くべき事実がもう1つあります。撤回の理由がここ30年間で変わってきているということです。2011年、Journal of Medical Ethicsに掲載された論文によると、2000年から2010年の間に撤回された742本の論文のうち、73.5%が誤りによる撤回で、不正行為による撤回は26.6%だけだったようです。


しかしごく最近PNAS(訳注:米国科学アカデミー紀要)に発表され、上で述べた2011年の研究も含めた、大規模なフォローアップ研究 [2]によると、(データ操作と盗用を含めた)不正行為が実は撤回の主な理由であり、1977年以降のすべての撤回論文の67%を占めていることが明らかになりました。下の図は、1977年以降の撤回の主な理由と、それらが1977年以降いかに増えてきているかを示したものです。

 

※グラフの説明【縦軸:数/ 凡例:赤-ねつ造/ねつ造の疑い、青-誤り、黄色-盗用、緑-重複発表】 (出典: Fang et al. PNAS 2012)

 

このように、撤回、特に不正行為による撤回は、驚くべき速さで増加しています。さらに、以前は見られなかった盗用と重複発表が、より当たり前になってきています。ジャーナルが今では盗用検出ソフトのような新しいテクノロジーを利用していること、また、英語を第一言語としない国からの投稿が増えていることが、ひょっとするとその理由かもしれません。
撤回がこのように増えている原因には、論文を発表させようとする強制力と、研究者がいつのまにか入りこんでしまっているラットレースが挙げられます。不正行為がいかにして科学を悩ませているかに焦点をあてた最近の研究によると、ジャーナルの編集者や査読者は、掲載される前に、論文の問題点を見つけ出すことに敏感になっているといいます。

 

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