エルゼビア、引用文献を操作した疑いのある査読者を調査
エルゼビアは現在、引用文献を意図的に操作した可能性のある査読者について調査を進めています。同社の各種ジャーナルで査読を行なっている約5万5000人の研究者のうち、500人近くが、査読を担当した論文に自分の論文を常習的に引用させていたことが判明したためです。この事実は、エルゼビアの分析官ジェローン・バース( Jeroen Baas)氏とカトリオーナ・フェネル(Catriona Fennel)氏が、社会科学・人文科学のリポジトリ、SSRN(Social Science Research Network)で2019年9月上旬に発表した、引用傾向に関する論文によって明らかになりました。
この研究によると、査読者の約99%については、担当論文で自分の論文が引用されていた割合は10%以下でした。他方、約1%(500人)の査読者については、自分の論文が引用されているケースがきわめて多いことが明らかになりました。エルゼビアは、これらのケースの調査を進め、それが強制引用(査読者が著者に対し、好評価を与えることと引き換えに、自分の論文を引用することを迫る行為)であったかどうかを確認しています。
エルゼビアはこの問題を受け、各ジャーナルの編集者に対して、疑わしい査読者が担当した論文とその引用文献との関連性を確認するよう求めています。強制引用と見なされるケースについては、編集者が査読者に聞き取りを行い、納得できる説明が得られなかった場合は、エルゼビアはその査読者を査読者リストから除名し、以降の査読依頼を永久に停止する処分を下す見込みです。
一方、引用を強制された論文の扱いについては、現在検討中です。論文を撤回すると、落ち度のない著者が不当な罰を受けることになるため、問題のある引用文献の訂正に留まると予想されています。フェネル氏は訂正を公開することを提案しており、「現在も最善の対処法を模索中」と述べています。
引用文献の操作に対処するために、論文の質や科学者の生産性の評価基準として、被引用数という指標に依存することを抑制または廃止することを求めている科学者もいます。オレゴン大学(ユージーン市)の心理学者、サンジェイ・スリヴァスタヴァ(Sanjay Srivastava)氏は、「被引用数を昇進と関連させたり、引用指標を過度に重視したりすると、自己引用を誘発することになってしまう」と述べています。
エルゼビアは、査読者に対し、著者に引用文献の追加を求める場合は、論文との関連性が高い、必要不可欠な文献のみを挙げるよう働きかけています。また、ヴァーヘニンゲン大学(WUR)と連携し、引用操作の疑いがあるものを自動的に特定するための方法も模索しています。
オクラホマ大学医学研究機構の生物情報学者でBioinformatics誌の共同編集者、ジョナサン・レン(Jonathan Wren)氏は、過剰引用を含む論文内の異常なパターンを検出するためのアルゴリズムに関する研究を進めていることを、Nature誌に明かしています。
出版規範委員会(COPE)は、7月に発行したディスカッションペーパーで、この問題に関する指針を示しています。COPEはこの中で、操作的引用と見なされる条件や、この問題への対処法・予防対策を確立することを目指しています。
COPEの指針やエルゼビアの取り組みは、査読の質に関する重要な側面にスポットライトを当てていると言えるでしょう。
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