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重複出版と同時投稿の罠
イントロダクション
研究や出版での倫理的行動は、誠実な学術的、科学的研究には不可欠です。今日ではほとんどのジャーナルがこの点を切実に認識しており、彼らはこれらの問題に関する方針1-6を発行し、「出版倫理に基づくベストプラクティスの認識と遵守」5を著者に求めています。この記事では、非倫理的とみなされる、蔓延した2つの関連する出版行為、重複出版と同時投稿について取り上げます。本記事は信頼性の高い国際的な出版倫理のガイドラインを参照にしています7-10。
重複出版
重複(または余剰)出版とは、出版済みの論文と本質的に同類の論文を、情報源を出したりオリジナルの著作権者の許可を取得したりせずに、同じ著者が出版することです7,11,12。オリジナルと2つ目の論文には、タイトルが新しくなっていたりアブストラクトが改変されていたりなど、不必要な変更による違いがあるかもしれませんが、データセットと研究結果は同じです13。
なぜ重複出版は問題なのか?
許可や承認、またはその両方なしで論文を再出版することは、以下の理由から重大な出版倫理違反となります。
- 論文の著作権は、著者ではなくジャーナルに帰属し、著者に論文を再出版する自由はなく、ほとんどの場合で著作権を侵害する11,12。
- そのテーマを研究している研究者らが(結果が2つの異なる論文に表示されているため)同じ結果を誤って2度カウントしてしまうかもしれず、実証を曲解する可能性がある7。実証研究は政策やその他医学的・科学的決断の要素となるため、これは重大な問題である13。
- 特定せずに別の研究から資料を使用する行為が伴うため、「自己剽窃」をすることになる14。
- 編集と査読に伴うリソースの無駄につながる7,13。
- ジャーナルの限られた競合するスペースを不正に取ることで、他の著者から出版の機会を奪う13。
- 学識の乏しさのあらわれ」12であり、「その研究の文献への寄与はわずかである」9ということを示唆する恐れがある。
ケーススタディ ある著者が、所属する大学が発行する地域限定の英語のジャーナルに記事を発表しました。その後、著者はアメリカを拠点とするジャーナルにその論文を投稿します。これは多重出版の事例とみなされるでしょうか?
答え:はい! 著者は大学のジャーナルで既に出版された論文について2番目のジャーナルに知らせなければなりません。
ジャーナルや倫理ガイドラインではこの問題をどう説明しているのか?
倫理委員会や編集委員会7-9, 15,16、そして学術ジャーナル1-3,5,6,17は、他で出版済みの研究についての論文や変更を加えた論文の投稿をしないよう著者へ明白に指示しています。もし研究結果や主題が重複する場合には、関連のある古い論文を投稿論文とともに送ること2,3,12を著者に要求する厳しい方針を持つジャーナルもいくつかあります。これは、ジャーナルによっては非常に具体的で、重複が一定のパーセンテージ以上の場合は実施するよう要求しています2。他には、僅かの同一文章しか許可せず、以前に出版された結果や著者の過去の出版物から大部分の文章を一語一句許可無く利用することは受け入れないというジャーナルもあります17。
とはいえ、特定の記事の種類では再出版が許されます1,7,8。これらは:
- 公表済みの、準備段階の報告書(例:アブストラクト、ポスター、学会プレゼンテーション)に続く、論文の完成版
- 専門の組織や政府機関が準備したガイドラインを掲載し、幅広い様々な読者層への普及が必要な論文
- 異なる読者のために研究成果を本質的に再分析したり、結果を再解釈する論文
- オリジナルの論文の翻訳
- 物理学のように、分野によっては著者が論文を電子文献リポジトリ(特に arXiv.org)に公表することが許可される
こういった例外が認められてはいますが、著者はこのような場合でも以下のガイドライン7,8に忠実に従わなければなりません:
- 著作権者から許可を入手する。
- 最初に論文が出版されたジャーナルと、これから再出版されるジャーナルの編集者から承認を得る。
- その論文が以前に出版された論文を基礎にしている、または全体的な再出版であることを認め、最初の出版分への完全な引用を提供する。
同時投稿を試みた著者の悲惨な結末2,9,17 - ジャーナルは論文を即座にリジェクトする
- ジャーナルはその著者が論文を投稿することを将来的に、または一定期間、禁止するかもしれない
- ジャーナルはその著者の雇用者/学術機関に通告するかもしれない
- ジャーナルは他のジャーナルエディターへその行為について通告し、事実上その著者を特定のジャーナル各誌のブラックリストに載せるかもしれない
著者がやるべき事、やってはいけない事7,15:
- 自分の出版済み論文の内容を複製しないこと。
- 未出版論文の準備段階の報告書をメディア、企業、またはその他の機関にジャーナルの許可無しに提供しないこと。
- 出版済み研究から題材の引用をするときは、過去の研究から数行以上使わないこと。また、文章は引用符で囲み情報源を特記すること。
- ひとつのデータセットを利用して1本以上の論文を執筆するときは、確実
- 各論文が異なる重要な課題を取り上げていること
- 全ての論文原稿が相互に引用されていること
- ジャーナルの編集者にカバーレター内でその旨を通知すること
- もし関連性のある論文を既に出版している場合には、ジャーナルの編集者へ投稿時にそれらの論文の詳細を提供すること。投稿する論文原稿とともにそれらの論文のコピーも提出する。これは、完全な透明性の確保と編集者の妥当な決断に役立つ。
同時投稿
同時投稿とは、その原稿を他のところへ投稿したことをジャーナル編集者へ知らせずに「同じ原稿を2誌以上のジャーナルへ同時に投稿する行為」1を示します。これは多重投稿(multiple submissions)や二重投稿(dual submission)とも呼ばれます。多重出版は他のジャーナルで以前に出版された原稿の投稿を意味しますが、同時投稿とは、他のジャーナルで審査中の原稿の投稿を意味します。
なぜ同時投稿は問題なのか?
この行為は、ジャーナルの長ったらしい出版プロセス18への対応策にしかすぎず、不正ではないと反論する研究者もいますが、ジャーナルは以下の理由により、これを「非倫理的な出版の行為」1とみなします7,9。
- もし2誌以上のジャーナルがその論文の出版を決断した場合、著作権侵害か著作権論争が確実に発生する。
- 2誌(またはそれ以上)のジャーナルが出版に伴う同じ作業を行うために時間と費用を費やすことになる恐れがあり、学術的また科学的なリソースの無駄につながる。
とはいえ、例外的なケースとして、関与する全てのジャーナルの編集者に著者が同時に投稿することを通知をした場合、多重投稿が認められることもあります。以下にこれらの例外を挙げます。
- そうすることが社会全般への最高の利益となるため、その2誌(またはそれ以上)のジャーナル編集者がその論文を同時に、あるいは共同で出版することに同意したとき7,15。
- 学術的または科学的なカンファレンスが著者へ重複する投稿期間に他の会議へ同時に論文を投稿することを明白に許可したとき19。
著者がやるべき事、やってはいけない事3,9,15
- 同じ原稿を2誌以上に投稿しないこと。
- しひとつのジャーナルで審査中の論文を別のジャーナルに投稿したい場合には、
- 共著者から文書で承諾を得る。
- 最初のジャーナル編集者宛に、その旨と論文の取り下げを依頼するよう書いて送る。
- 審査を取り下げてもらった最初のジャーナル編集者から正式な通知書を入手する。
- この通知書を保存し、2番目のジャーナルへの投稿時に提出する。
- もし関連性のある2本の論文を執筆し、それらを異なる2誌のジャーナルへ投稿したい場合には
- 両方のジャーナルに各論文の詳細を明かす。
- 他のジャーナルでレビュー中の類似の論文があることを(これらの論文が異なる言語で執筆されていても)編集者に連絡する。
- 投稿時にこれらの論文を同送する
結論
著者は多重出版と同時投稿をしないように注意を払わなければなりません。これらの行為は著作権法の重大な侵害であるというだけでなく、科学文献の高潔さを損ないかねませんし、さらに「著者の高潔性に反する行為」17とみなされ、著者の誠実さや学術的な能力に傷を付けることにもなりえます。そこで、著者の皆さんへは、倫理的な投稿の実践を理解、遂行できるよう、以下の参考文献リストに挙げた資料と関連のケーススタディー20の一読をお勧めします。
1. Elsevier.Ethical Guidelines for Journal Publication.[Accessed: Aug 10, 2011] Available from: http://www.elsevier.com/wps/find/intro.cws_home/ethical_guidelines.
2. BMJ Publishing Group. Scientific Misconduct. [Accessed: Aug 10, 2011] Available from: http://resources.bmj.com/bmj/authors/editorial-policies/scientific-misconduct.
3. Nature Publishing Group. Guide to Publication Policies of the Nature Journals. [Accessed: Aug 10, 2011] Available from: http://www.nature.com/authors/policies/publication.html.
4. Sage Publications. Ethics and Responsibility. [Accessed: Aug 10, 2011] Available from: http://www.sagepub.com/journalgateway/ethics.htm.
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6. ACS Publications.Ethical Guidelines to Publication of Chemical Research.[Accessed: Aug 10, 2011] Available from: http://pubs.acs.org/userimages/ContentEditor/1218054468605/ethics.pdf.
7. International Committee of Medical Journal Editors. Uniform Requirements for Manuscripts Submitted to Biomedical Journals: Writing and Editing for Biomedical Publications.[Accessed: Aug 10, 2011] Available from: http://www.icmje.org/about-icmje/faqs/icmje-recommendations/
8. The International Society for Medical Publication Professionals.Good Publication Practice for Communicating Company Sponsored Medical Research: The GPP2 Guidelines.[Accessed: Aug 10, 2011] Available from: https://ismpp.memberclicks.net/gpp2.
9. Council of Science Editors.CSE's White Paper on Promoting Integrity in Scientific Journal Publications, 2009 Update.[Accessed: Aug 10, 2011] Available from: www.councilscienceed-itors.org/files/public/entire_whitepaper.pdf.
10. Committee on Publication Ethics.Code of Conduct for Journal Editors. [Accessed: Aug 10, 2011] Available from: http://publicationethics.org/files/Code_of_conduct_for_journal_editors_Mar11.pdf.
11. Morse JM, 2007. Duplicate Publication. Qualitative Health Research, 17(10): 1307–1308.
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