個人のアイデンティティは査読に影響するか?
ピアレビュー・ウィーク2021もいよいよ最終日となりました。今年のテーマ「査読におけるアイデンティティ」にちなみ、5日目の今日は「個人のアイデンティティが査読に与える影響」についてじっくり考えてみたいと思います。
学術界で活動していると、さまざまな疑問が湧いてくると思います。研究者は、キャリア、民族、性別、国籍に関係なく論文を査読する機会を平等に与えられているか?個人のアイデンティティは、論文の評価方法に影響しているか?査読者はどのように客観性を確保しているのか?
そんな中、今回はこちらの問いに注目しました:編集者や査読者が論文を評価する際、著者のアイデンティティは何らかの影響を与えているか?
こちらの質問に対する3名の日本人研究者による貴重な回答を、ぜひご覧ください。
質問:編集者や査読者が論文を評価する際に、著者のアイデンティティ=属性(国籍、キャリア(職階)、民族、性別、所属先など)が何らかの影響を与えていると思いますか?
坂内 博子 氏
早稲田大学 理工学術院 先進理工学部 電気・情報生命工学科 教授
「査読は、新たな視点からコメントをいただき、論文をより完成度高く仕上げる極めて重要な過程です。実験やデータに鋭い視点を持つ研究者からの意見は、データの質を高めてくれます。少し異なる専門性を持つ研究者からのコメントは、考察の幅を広げてくれます。キャリアが進むにつれて査読において重視する点が変化するということを私自身も経験していますが、論文を良くすることに前向きに働く限りはどの視点からのコメントも科学の発展にとって有意義ではないでしょうか?科学論文の評価は、本来ジェンダーや国籍は影響するべきではありません。しかし、人間には「無意識のバイアス」が存在するため、査読を行う際には無意識のバイアスに基づいて判断していないかを常に意識する必要があると思います。」
宇野 毅明 氏
国立情報学研究所 情報学プリンシプル研究系 研究主幹
「少なくとも私の分野(理論計算機科学、アルゴリズム、データマイニングなど)では、自分も周りの人も一切影響がないと思います。また、そのような影響を与える、あるいは受ける意味も全く見出せません。ただし、google やfacebook の研究者の論文は「巨大なデータ使えるんだろうなあ」とか、中国のバイオの研究は、「国策なのかなあ」とか思ったりします。」
川口 慎介 氏
国立研究開発法人海洋研究開発機構
超先鋭研究開発部門 超先鋭研究プログラム 主任研究員
「査読者として、著者個人のアイデンティティというのは気にしたことがないですね。
著者群の名前や所属を眺めて「あの人達の仕事か。面白そうだな」という先入観は持ってしまいますけど。
一度、とんでもなくヒドい原稿だったので、怒りにまかせて査読レポートを書いて送り、ちょっと冷静になってから著者の名前をググったら超大物だったことがあります。
たぶん学生が出してきた原稿をそのまま投稿したんだと思います。
とにかく、それぐらい著者のアイデンティティを(ボクは)気にしませんね。」
興味深いコメントをお寄せ頂き、誠にありがとうございました!
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