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ジャーナル出版の舞台裏:編集者の視点から論文投稿後の流れを語る
ジャーナルでの論文発表は、研究結果やアイデアを広く伝えるための重要な手段です。一流ジャーナルに論文が掲載されれば、著者は評判を高めることができ、読者は査読を経た研究の全容を詳しく知ることができます。しかし、論文を投稿してから決定が下されるまでの過程は不透明です。研究者はジャーナルに論文を投稿した後、たいていの場合は何ヶ月も(時にはもっと長期間)待たないと、査読報告書を受け取ることも、論文の掲載可否も知ることもできません。この間に一体何が起こっているのか、研究者には知る由もないのです。
本記事では、この過程で何が起こっているのかについて、編集者(Associate Editor, AE)の視点から明らかにしたいと思います。この記事では以下のことを目指します。
- 著者が投稿後のプロセスを理解し、知識を持った上で投稿できるようにする
- 投稿後のプロセスにおける役割を編集者が自覚し、投稿論文の掲載可否の判定を適切かつ効率的に下せるようにする
- 編集者が(さらには他の編集者が)このプロセスをより明確に把握し、自分の役割を最大限に活用できるようにする
編集体制における編集者(Associate Editor, AE)の役割
ジャーナルの編集体制は、ジャーナルの規模・受け付ける投稿数などによって、ジャーナルごとに異なります。たいていは、編集長(Editor-in-Chief, EiC)1名と編集者(Associate Editor, AE)数名からなる編集委員会があります。この委員会は、ジャーナルが受理・掲載する投稿論文を決定するという役割を担っています。
編集長のもとに新しい投稿論文が届くと、まずは編集者に論文を割り当て、査読や意思決定プロセスを任せるのが一般的です。編集者の主な仕事は、投稿された論文原稿の決定に関する提案を編集長に伝えることです。
この仕事に関する編集者の業務は、一見すると単純です。その業務とは、割り当てられた投稿論文に査読報告書を取り付け、これらを参考にして論文に対する助言を適時行うというものです。しかし、これにはかなりの努力が必要とされます。さらに言えば、最初の段階では明らかになっていない部分での努力が必要とされます。このことを説明するために、私が新たに論文原稿を受け取ってから編集長に助言をするまでの過程を、順を追って詳しくご紹介しましょう。(編集者によっては、同じ業務でも別の方法で行うこともあります。)
論文原稿を編集者に割り当てる
ジャーナルに論文原稿が投稿されると、編集者に割り当てられる前に、簡単なチェックが行われます。編集長が論文に目を通しますが、これに編集助手(editorial assistant)が加わることもあります。この段階での目的は、論文を次の段階に回すことが適切かどうかを見極めることです。例えば、書式の条件が守られているか、ジャーナルのテーマに合っているか、新規性のある技術的貢献が明らかであるか、ファイルを開けるか、ジャーナルの使用言語で書かれているか、などをチェックします。これらの点に問題がなければ、編集長は編集者を選んで論文を割り当てます。どの編集者を担当とするかは、様々な要素に基づいて決められます。具体的には、各編集者の専門分野、相対的仕事量、著者との利益相反の有無といった要素が考慮されるということです。
ほとんどのジャーナルでは、オンライン上の投稿システム(ScholarCentralやManuscriptOneなど)で論文を処理しています。このため、最近は決まったワークフローに従うことが多くなっています。オンライン上の投稿システム(WBMSS)は、処理すべき仕事があると、関係者にメールで通知を送ります。つまり、私に論文が割り当てられたら、WBMSSが私にメールを送り、仕事があると知らせてくれるのです。
最初に編集者が読んで評価する
新しい投稿論文が割り当てられたという通知を受け取ると、私はまず論文とカバーレターを印刷します。それから論文を読んで内容を理解しようと努め、大筋でどのような技術を用いているのか、そしてその論文に最も関連性の高い文献は何かを考えます。
この段階での目的は、査読者の候補となる研究者で、連絡がとれる人を何人か選ぶことです。このため、私の読み方も、自分が論文を査読する時とは全く異なります。編集者は、論文の細部やアイデアを全て理解する必要はありません。編集者の目的は、論文をつぶさに理解してその研究の意義や新規性についてコメントできる専門家を探すことです。ですから、私自身は、その投稿論文が受理されるべきかどうかについて強い意見を持たないようにします。その判断は査読者に任せるべきものだからです。しかし、こうして最初に論文に目を通す段階で、その論文の水準が大体どの程度であるかは分かるものです。
初期段階で掲載拒否(リジェクト)とするか査読に回すかを決定
投稿論文がジャーナルの基準から明らかに逸脱していることもあります。その場合、編集者は「手続き上の掲載拒否(administrative reject、あるいはdesk reject=デスクリジェクト)」という判断を下すこともあります。これは、この先に受理される可能性がほぼ見込めない場合に下される決定です。私は、今後に役立ててもらいたいとの思いから、掲載拒否の理由やフィードバックを著者に伝えるようにしています。
「手続き上の掲載拒否」となる場合の理由には、以下のようなものがあります。
- 論文の書き方が不適切で、何を言いたいのか全く分からない場合。
- 結果が、過去の研究ですでに発表されているものと明らかに同じである場合。
- 論文のテーマがジャーナルの対象領域からかけ離れている場合。
- 過去に発表された別の論文の文章が含まれており、ジャーナルの剽窃方針に反している場合。
経験上、これらの条件に該当する投稿論文は稀ですが、それは、論文が編集者に割り当てられる前に編集長が気づくからかもしれません。
また、図表や書式など、修正可能な問題が理由で掲載拒否(デスクリジェクト)という判断になることもあります。その場合は、修正版の再投稿を受け付けることを伝えます。同時に、そのような修正を必要とする論文は、当ジャーナルが求める高い水準を満たさないことが懸念されるという見解も伝えます。こうすれば、著者に再投稿の機会を担保しながら、同時にジャーナルの選択を再度考え直したほうがよいかもしれないという所感も伝えることができます。
ジャーナルにとって、ボーダーライン上にあると思われる論文原稿もありますが、それらは、上に挙げた項目のいずれにも当てはまりません。このような場合、私は、たとえ見込み薄であっても、査読者に論文の査読を依頼することにしています。一見出来があまり良くない論文原稿でも、分野の専門家ではない編集者ではなく、専門家である査読者による査読を受けてもらう機会を与えた方が、公平だと思います。この場合の難点は、査読者に、出来の良くない論文査読のために時間を割いてくれるように頼まなければならないことです。しかし、そうすることが妥当だと考えるのには理由があります。それは、我々も自分が論文を投稿したときに査読をしてもらう以上、査読はコミュニティの一員として当然のサービスであり、常に質の高い論文を読めるとは限らないものだからです。それに、もしその論文の質が本当に悪ければ、論文を評価し、欠点を浮き彫りにした簡潔な査読報告書を書くのは、それほど困難な作業ではないはずだからです。
論文原稿を査読に回す決定をしたら、次はその論文の査読を依頼する査読候補者を選びます。これについては、また次回にお話ししましょう。
本記事は、Association for Computing Machinery, Special Interest Group On Management of Dataのウェブサイトに発表された記事、What does an Associate Editor actually do?の修正版です。本記事は著者の許可を得て、修正を加えて再掲載されたシリーズ記事の第1回です。続きもどうぞお楽しみに。
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