オープンアクセスに関するあらゆる質問に答えます!(3 of 3)― Open Access Week 2021特集
国際オープンアクセス・ウィーク2021に際して、R Discoveryはイベント「Ask Me Anything」を開催しました。学術出版界の専門家をお招きして、研究者の皆様から寄せられたオープンアクセス(OA)に関するさまざまな質問にお答え頂きました。パネリストは、Caroline Sutton博士(Taylor & Francis社オープンリサーチ担当ディレクター)、Vrushali Dandawate氏(AISSMS College of Engineering図書館長/DOAJインド代表)、Andrew Stammer氏(CSIRO Publishingディレクター)の3名です。(パネリストに関する詳細はこちらをご覧ください。)
免責事項:パネリストの回答は個人の意見であり、R Discoveryやエディテージ・インサイト等の組織の見解を必ずしも反映するものではありません。
(前回からの続き)
9. OAの実用的なメリットを研究者に納得してもらうには?
Caroline:この質問は、重要な問題の核心を突いていますね。OAの初期のムーブメントが目指していたのは「何らかの目的を持ったOA」だったのに、「OAのためのOA」になってしまいがちです。目的とは、一例を挙げるなら、OAなしでは不可能なつながりを生み出すことです。
時間が経ってOAコンテンツが増えるにつれて、OAがいかに堅牢で信頼性の高い学術記録であり、迅速な普及と実社会への影響に貢献できるかが明らかになるでしょう。私たちは新型コロナウイルス感染症のパンデミックでその一端を目の当たりにしました。今考えなければならないのは、社会的・世界的な利益のためにOAをどう活用できるか、確かな研究に基づいて意思決定をするためにはどのような落とし穴を避けるべきか、ということです。
短期的には、啓蒙活動が引き続き重要です。効果が実証されつつあるとはいえ、懸念すべき点には引き続き対処していかなければなりません。
まず、OA出版は質が低いと考える研究者がいます。しかし、出版モデルにかかわらず、私たちのジャーナルに掲載されたすべてのコンテンツは、査読をはじめとする厳しい精査を受けているということを明確にしておきたいと思います。同様に、私たちのジャーナルはすべて、倫理と研究の完全性に関する明確な方針を定めています。研究者の方には、投稿する前にジャーナルのウェブサイトをチェックして、査読や倫理に関するポリシーがあるかどうか確認することをお勧めします。
また、論文の精査や検証が行われない、いわゆるハゲタカ出版への懸念も聞かれます。Think.Check.Submitは、研究者が自分の論文を合法的に発表できる場を選んだことを確認できるようにするための優れたリソースです。
OA出版の経験がある同僚に話を聞き、それを参考にして、自分の論文に合った投稿先を慎重に選ぶとよいでしょう。
Vrushali:OAの実用的なメリットはたくさんあります。OA論文には誰でもアクセスすることができ、ダウンロードすることもできます。研究者をはじめとするOA誌のユーザーは、論文を読んだり、データを自分の研究に利用したりするために、購読料や視聴料を支払う必要はありません。OA出版物は、明らかに引用される頻度が高いのです。OAは、知識への手軽かつ自由なアクセスを可能にし、新しいアイデア、研究、イノベーションの創出に役立ち、研究者同士の協力関係を構築することができるのです。
10. OAにおける著作権の問題にはどのように取り組んでいますか?
Caroline:先ほど述べたように、OAがフリーアクセスとは異なるのは、再利用にも対応している点です。理想的なのは、コンテンツをどのように再利用・再構成できるのかについての明確な情報とともに公開されることです。論文をOAで公開する際の基準となっているクリエイティブ・コモンズ・ライセンスは、再利用の仕方を明確に示しています。
よくある誤解に、「著作者が著作権を放棄しなければならない」というものがありますが、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスは「帰属」という概念をもっとも重視しています。つまり、コンテンツを再利用する場合は、著作者のクレジットを表記しなければならないのです。
Vrushali:著者はもともとは自分の論文の著作権を持っていますが、出版に際して多くの場合この権利を出版社に譲渡するよう求められ、出版社がOAを許可する条件を設定します。ほとんどのOA誌は、クリエイティブ・コモンズのCC BY 4.0ライセンスを採用しています。
Andrew:ほとんどの法令では、雇用者が雇用契約の一部として著作権を主張しない限り、論文の著作権は著者にあります。ジャーナルに論文を投稿すると、ジャーナルの所有者(出版社や学会)から、著作権を譲渡するか、著作権の使用許諾を与えるかのいずれかを求められることがあります。譲渡とは、ジャーナル所有者に著作権を与え、その見返りとして、ジャーナル所有者が出版を行い、論文を再利用するための一定の許可を与えることを意味します。著作権の使用許諾を与えるということは、著作物を出版する独占的な許可を所有者に与えるということですが、著作権はあなたが保持します。どちらの場合も、著者が署名するフォームには、出版後に論文をどう扱えばよいかが記載されています。
論文をOAで公開することを選択した場合、出版社は通常、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスを適用します。これは読者に対し、公開された論文でしてよいことと、してはいけないことを示すものです。
最もシンプルなクリエイティブ・コモンズ・ライセンスは、CC-BYと記されています。これは、読者が論文を再利用できることを示していますが、その際は、論文の原著者を明記しなければなりません。論文の再利用とは、読者が著者や出版社の許可を得ることなく、論文をコピー、共有、抜粋、再出版、商業的利用、派生物の作成を行うということです。より制限の多いCCライセンスでは、読者ができることを限定しています。
11. なぜOA誌は著者にAPCの支払いを求めるのですか?著者にとってOA誌で論文を発表するメリットは何ですか?
Caroline:APCは、出版社がジャーナルを継続的に運営し、研究成果の検証、制作、普及、キュレーションのために行なった投資を回収するための資金です。
この中には、ジャーナル編集部や委員会への財政支援、投稿・査読管理、編集作業、倫理的検証と剽窃チェック、コンテンツの充実(校正・校閲、組版、データ処理)、納本、抄録作成、索引作成など、さまざまな費用が含まれています。また、研究者が自分の研究の影響力や普及度を知るための宣伝活動および指標の作成・表示にも費用がかかります。この料金の余剰分は、学術コミュニケーションを支えるインフラや組織(登録サービス、標準化団体、論文の長期保存を保証する団体など)に投資されます。
Taylor & Francisが発行するOA誌で論文を出版すれば、上記のような恩恵をすべて受けられます。私たちは、研究をできるだけ広く普及させ、長期的に利用できるようにしています。
OAの価格設定に関する私たちのアプローチについてご興味のある方は、こちらの方針説明書をご覧ください。
Vrushali:OA誌では、査読管理、校正、論文のサーバーへの保存などのコストを著者に負担してもらいます。研究者にとってのOAのメリットは、より多くの人に読んでもらえること、キャリアアップのために他の研究者とつながる機会が増えること、そして "ステータス "の基準の1つである引用数が増えることです。最近では、ジャーナルのインパクトファクターではなく、論文の内容や社会的影響力で研究成果を評価する機関も増えています。
12. 私たちの小規模ジャーナルは、編集委員会からOA化への決断を迫られています。OAの定義には流動的な部分があると思いますが、決定を下すにはどのような要素を考慮すべきでしょうか?費用はどれくらいかかるのでしょうか?OA化によって、特定の著者グループに不利になることはありませんか?出版する価値のある論文をすべて出版できるようにするにはどうすればよいでしょうか?
Caroline:OAの定義自体は定まっていますが、購読コンテンツをOAコンテンツに移行させることや、購読料を支払っている人にどのようにOAに移行してもらうかということを中心に、さまざまな議論や取り組みが行われています。この移行は大規模出版社にとっても困難ですが、小規模出版社にとってはさらに困難でしょう。簡単な答えはないので、サポートの求め方についてアドバイスをお送りしたいと思います。
まず、学術出版社から出版されているジャーナルなら、出版社に問題提起することをお勧めします。出版社はジャーナルをリードする立場にあるからです。Taylor & Francisでは、関係各社や編集者、編集委員会とともに、OA化の道筋について定期的に検討しています。独立系ジャーナルなら、出版社との提携を考えてみてもよいでしょう。
また、DOAJの代表者に連絡を取ってリソースを紹介してもらったり、独立系ジャーナルを支援している大学図書館に案内やサポートを求めることもできるでしょう。OAをテーマにした出版関係のイベントに参加するのも一つの方法です。これは、情報の入手だけでなくネットワーク作りの機会にもなります。
さらに、OA誌を持つ学会のリストも参考になります。このリストは、OAへの移行を検討している組織が同様のグループを見つけ、連絡を取って経験談を聞くきっかけ作りのツールとして作成されたものです。
Vrushali:OAにはさまざまな種類がありますが、流動的ではないと思いますよ。OA出版のモデルは確立されています。グリーンOAにゴールドOA、そして最近ではダイヤモンドOAがあります。OA化を進めるためには、ジャーナルの編集委員会がコンテンツへのアクセスとライセンスについて検討する必要があるでしょう。
人によっては、真のOAとはブダペスト・オープンアクセス・イニシアチブで示されている定義だと言います。つまり、「公共のインターネット上で無料アクセスでき、すべてのユーザーが論文全文の閲覧、ダウンロード、コピー、配布、印刷、検索、リンク、スクロールによるインデックス作成、ソフトウェアによるデータ化などの合法的目的を許可され、インターネットへのアクセス取得に要する以外の財政的、法的または技術的な障壁がないこと。コピーと配布に対する唯一の制約、およびこの領域における著作権の唯一の役割は、著作物の完全性に対する権限と、適切な謝辞および引用を受ける権利を著者に与えること」ということです。
コンテンツやウェブサイトのライセンス条項の変更や追加には、編集上のコストがかかります。また、ウェブサイト上のコンテンツにアクセスできるようにするための技術的なコストもかかるでしょう。どの程度の費用がかかるかはジャーナルによって異なるので何とも言えません。ジャーナルをOA化にする方法については、以下のような優れたリソースやブログ記事が多数公開されているので、参考にしてみてください:
https://blog.scholasticahq.com/post/how-to-start-flip-open-access-academ...
https://sparcopen.org/our-work/transitioning-your-journal/
OAによって著者が不利益を被るのは、出版社が高額な論文掲載料(APC, article-processing charges)を請求し、払えない人にも免除しないケースでしょう。しかし、APCを請求しないOA誌も多くあります。DOAJに掲載されているジャーナルの69%は、APCを請求していません。免除の制度があれば、APCを支払えないという理由で除外されることはありません。
Andrew:購読型のジャーナルをOAに切り替えるには、ジャーナルのビジネスモデルも切り替える必要があります。つまり、特定の読者向けに作られたコンテンツの販売から、特定の研究者向けに作られた出版サービスの販売に移行するということです。これは簡単な作業ではないでしょう。
また、厳格で倫理的な査読など、変えてはいけないものもあります。
一つの方法として、ビジネスを継続させるために必要な収益を考えてみましょう。そして、年間に何本の論文を発行するかを考えましょう。収入を論文数で割れば、論文ごとに請求すべき金額がわかります。著者がその金額をどのように確保するかを考える必要もありますし、投稿、査読、制作のサービスは競争力のあるものでなければなりません。著者は、支払う金額に見合った価値を期待します。ジャーナルのマーケティングは、投稿を集めるために、著者をターゲットにする必要があるのです。
購読者と著者が同じ機関に所属しているのであれば、購読者との間でRead & Publish契約を検討する余地があるでしょう。この契約方式では、機関は出版社に対し、非OAコンテンツへのアクセスと、機関論文のOA出版の両方に対価を支払います。
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