「査読付きジャーナルでの出版経験がある人は、全員が査読者候補です」

「査読付きジャーナルでの出版経験がある人は、全員が査読者候補です」

今回は、査読に深く関わり、査読者と著者の両方が必要なサポートを得られるようにすることで査読システムを有効に機能させようと尽力している、業界の専門家にインタビューを行いました。お話を伺ったのは、エルゼビアのグローバル出版開発部門レビュアー・エクスペリエンス・リード(Reviewer Experience Lead)バハール・メマニ(Dr. Bahar Mehmani)博士です。博士は、職務の一環として、査読者の存在意義を認め、査読者が科学の進歩に果たしている貢献への感謝を示すための活動に取り組んでいます。また、学術出版界における査読関連の各種ワークショップや会議、パネルディスカッションに携わっているほか、査読に関する執筆経験も豊富です。さらに、ピアレビューウィーク2019運営委員会共同議長や、New Frontiers of Peer ReviewPEERE)の委員、欧州科学編集者協会(EASE)の委員も務めています。エルゼビアで長年に渡ってさまざまな職務を経験してきた博士は、2010年にアムステルダム大学で理論物理学の博士号を取得しており、エルゼビアに入社する前は、マックスプランク研究所でポスドク研究員を務めていました。


メマニ博士は、自身の研究者、著者、出版プロフェッショナルとしての経験から、研究コミュニケーションに情熱を注いでおり、研究コミュニケーションを最大限に効率化するためのシステムやリソースを確立することの必要性を説いています。今回のインタビューでは、レビュアー・エクスペリエンス・リードの職務や、今日の査読者が直面している課題、査読を健全に機能させるために必要な査読者へのサポートについて伺いました。また、査読の質を改善するための方法についても、興味深い視点をシェアして頂きました。


レビュアー・エクスペリエンス・リードとは、どのような役割を担っている職務ですか?

私はレビュアー・エクスペリエンス・リードとして、エルゼビアのジャーナルで研究者が査読を円滑に進められるようサポートしています。具体的には、査読プロセスのパフォーマンスをさまざまなレベル(ジャーナル、分野、業務)で分析して欠陥を見つけ、それらを取り除く方法を考えています。この役割の中で、プロセスを改善すること、科学の進歩における査読者の貢献を認めること、プロセスの透明性・協力度・やりがいを高めることを目的とした、複数のプロジェクトに関わっています。


査読者との交流を通して、今日の査読者が直面している困難はどのようなものだと感じていますか?

このテーマに関するパネルディスカッションで行なったプレゼンテーションの報告書をまとめたものがあるので、一部をご紹介しましょう(詳細はこちら):
 

  • 査読者への理解:学術コミュニティは、ジャーナルだけでなく、大学や研究機関にも、研究者が査読者としての役割を担っていることへの理解を求めています。研究者は、助成団体や評価委員会に対し、従来の評価指標とともに、査読活動も指標の1つとして評価することを望んでいます。
  • 協力:多くの若手研究者が、指導教官の要求に従って査読を行なっています。この件については、Science誌が記事を公開しています。これは理解度の不足とも関連しており、一部はジャーナル編集者の協力によって解消できるものです。
  • バイアス:査読は、学術界のヒエラルキーの中で生きる人間が行なっているものなので、さまざまなバイアスが生じやすいのが現状です。
  • 透明性:査読プロセスは、しばしば「ブラックボックス」と表現されます。研究者はより透明性の高い査読を求めており、透明性が高まれば、信頼性も高まる可能性があります。
  • テクノロジー:多くの手順を踏まなければならない効率の悪い旧式の投稿システムを好む査読者はいないでしょう。


査読者は、著者にどのようなことを求めているとお考えですか?

理屈から言えば、研究論文の質の高さでしょう。現実的には、担当する論文や、査読に割ける時間、査読の状況などによって、求めることは違ってくるはずです。一般的に査読者は、「データをもっと増やして」、「分析をより詳細に」、「異なる方法論で実験を行うように」、「参考文献を増やして」といったコメントの形で著者に要求を伝えます。忘れてしまいがちなのは、著者が査読者になることもあれば、査読者が著者になることもあるということです。この点に留意していれば、査読者は著者の立場になったつもりで査読報告書を書けますし、言葉遣いが適切かどうかや、修正の要求が純粋に研究の質を高めるためのものであるかどうかを確認できるでしょう。


質の高い査読を保証するために、ジャーナル/出版社には何ができるでしょうか?

「査読の質」には十分な定義がなく、残念ながら体系的な捉え方もありません。とは言え、ジャーナルは、編集プロセスを改善することで、各査読者の専門性にマッチした、利益相反を最小限に抑えられる論文を割り当てられるはずです。これは、信頼できる研究者に編集委員を任せ、最適な査読者を見つけられるツールやサービスを用意し、最終的にはジャーナルの査読パフォーマンスを監視することで実現できるでしょう。

また、査読者に、質の高い査読報告書がどのようなものであるかを理解してもらうための適切な指示を提供することも重要です。


査読の質を改善するために著者ができることはありますか?あるとすれば、それはどのような方法でしょうか。

ジャーナルの査読モデルや使用可能なツールにもよりますが、著者は、論文の査読報告書に対するフィードバックを行うことができます。公開査読(open peer review)を採用しているジャーナルであれば、たとえば二十盲査読(double blind peer review)システムを採用しているジャーナルよりも、容易にそれができるはずです。いずれにせよ、著者は受け取った査読報告書の質について、編集者に報告できる権利を持っているのです。


優れた査読報告書を受け取った経験があれば、自分が査読を行うときの良い手本となるでしょう。


近年、さまざまなタイプの査読について議論が起こっています。各種の査読には長所と短所がありますが、博士はどのような査読がベストだとお考えですか?

ご質問に対する普遍的な回答はないように思います。先ほども言ったように、査読は、さまざまなプレッシャーやバイアスの下で、人間が行なっているものであることを忘れてはなりません。どのタイプの査読がベストかは、学術コミュニティで判断すべきことであり、ジャーナルとしては、さまざまなニーズを満たせるツールやサービスを提供しなければなりません。


どのモデルが最適かを判断する前に、各モデルが査読プロセス全体にどのような影響をもたらすかを検討することが重要です。透明性を例に挙げるなら、それがプロセスを劇的に改善するわけではないことが、私たちの最近の研究で明らかになっています。


若手研究者は、査読者になることをどの段階で検討すべきでしょうか。

査読プロセスを経て論文を出版した経験のある人は、全員が査読者候補と言えるでしょう。


ジャーナル編集者は、査読経験のない若手研究者を、査読者としてどの程度活用したいと考えているのでしょうか?

これも状況によって異なります。私の周りのジャーナル編集者の多くは、この考え方を歓迎しています。一部のジャーナルは、共同査読者というプログラムを通じて査読指導を行なっています。また、多くのジャーナルが、学術コミュニティのメンバーに対し、ホームページ上で査読者候補としての登録を求め、査読プロセスへの参加を呼び掛けています。私たちはVolunpeersというプログラムを通して、査読プロセスへの参加に関心を持つ研究者とジャーナルをシステマティックに結び付ける取り組みを行なっています。


ご自身の査読経験の中で、印象に残っているエピソードはありますか?また、著者として最初に査読を受けたときのことを覚えていますか?

もちろん、忘れもしません!初めての査読報告書を受け取ったのは、博士課程の2年目でした。論文は最終的に出版に至ったものの、査読者から要求された追加作業に納得がいきませんでした。いま振り返っても、その作業が必要だったとは思えません!


若手研究者が査読に関わるには、どうすればよいのでしょうか?

まずは自分の手で論文を出版し、一連のプロセスを経験することです。次に、良い査読報告書を書くためのリソースを集めることです。最近では、エルゼビアの「how-to-review」ページや、Researcher Academyコースなど、さまざまなオンラインコースやホームページがあります。


今年のピアレビューウィークのテーマは「査読の質」でした。査読の質こそ、査読プロセスの本質だと思いますが、以下の点について博士のお考えをお聞かせください:

  • 「質の高い査読」とはどのようなものか?
  • 査読を改善するにはどうすべきか?
  • 査読はどこに向かっているのか?


「査読の質」は全体論的な話です。その中には、編集プロセスや査読報告書の質のほか、最終的には、出版された論文そのものの質も含まれます。


査読を改善するには、業界で力を合わせること、プロセスのパフォーマンスを分析すること、ほかのコミュニティから学ぶこと、試行錯誤することが重要でしょう。


査読は、より包括的で、説得力と信頼度が増した、ユーザーフレンドリーな未来へ向かっていると思います。また、それ自体が、学術的な研究の対象になってきていると思います。


メマニ博士、貴重なお話をありがとうございました!

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