「科学者として謎を解きたいという想いを持ち続けたい」 笹川皮膚科院長、笹川征雄先生インタビュー

皮膚科専門医として50年以上にわたって皮膚疾患の研究と治療に従事し、日本で初めて「シックハウス症候群(室内空気環境)の診断基準(2011)」を作成した笹川皮膚科院長、笹川征雄先生にお話をうかがいました。

開業医として英語論文を書くきっかけとなった出来事や、アクセプトまでの苦労とアクセプト後の反響、研究者の皆さんへのアドバイスなど、貴重なお話をぜひご覧ください。

笹川征雄先生プロフィール

笹川皮膚科院長。
皮膚科専門医として昭和43年より皮膚疾患の研究と治療に従事しており、特に「アトピー性皮膚炎の研究と治療」に重点的に取り組んで独自の治療を行っている。必要最小限の薬しか使わず、不要な薬に頼らない「患者さんの自然・・治癒力を最大に発揮させる」治療を目指しているのも特徴。日本で初めてシックハウス症候群の診断基準を発表し、多くの研究者に認知されている。
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本皮膚科学会名誉会員、日本皮膚科学会大阪地方会名誉会員、日本臨床皮膚科医会近畿ブロック顧問、大阪皮膚科医会顧問、日本住環境医学会顧問、日本臨床環境医学会評議員

― エディテージが20周年を迎えました。ぜひ一言コメントをいただけますか?

エディテージ創立20周年をお祝い申し上げます。今後も世界の医学者、研究者の学術発展と患者さんのために、質の高い仕事と信頼度の高いパートナーとしてますます繁栄されることを期待し、祈っています。

― 先生が皮膚科となったのはなぜですか?

私は今から50年前の昭和43年に大学を卒業しましたが、当時はインターン闘争の最中。何科を回りたいかがわからなかったのでローテーションをしたかったのですが、大学ではそれが認められませんでした。
そんな状況の中で、大阪市内の病院でローテーション可能で給料もいただけるというところがあり、早速そこへ就職をしました。そこで何科から始めるかを考えたとき、当時あまり体力がなかったこともあり、皮膚科が1番楽ということで(笑)、そこから入って今も皮膚科をしています。
大学を飛び出したので、独学で赤本1冊を師匠にして、臨床畑を今日まで歩んできました。臨床発表や論文も少しは書きましたが、英語論文は頭の中にまったくありませんでした。ただ、人生で一度は英語論文に挑戦してみたい、1輪の花を咲かせたいと、そんなふうには考えていました。

― 笹川先生といえば「シックハウス症候群の診断基準」を日本で初めて出したことで知られていますが、取り組まれている研究内容について教えてください。

20年ほど前、住宅の壁紙や建材などに含まれるホルムアルデヒトが健康障害を起こすということで社会問題になりました。いわゆる「シックハウス症候群」ですが、当時はシックハウス症候群の医学的な裏付けがなく、患者救済がとても困難な状況でした。そこで2001年にシックハウス症候群の定義と診断基準を発表しました。シックハウス症候群は、室内環境による健康障害です。NPOに参加して、患者救済や問題解決に5~6年、力を注ぎました。

このシックハウス症候群から発想を得たのが、水虫(足白癬)における靴内環境です。昔から靴と水虫は関係があるといわれていましたが、それを証明した研究はありませんでした。水虫は夏に悪化して、冬に軽くなるため、季節が関係すると認識されていましたが、考えてみると、靴の外の環境よりも靴の中の環境、これが関係しているのではないか。そう仮説を立てて、研究を開始したわけです。
そこから3年間、靴の中の環境を「靴内環境」や「靴内気候」といいますが、温度や湿度、露点などを計測してデータ取りをしました。その結果、多変量解析で有意な結果が出ましたので、世界初の研究ですし、ついに英語論文を発表するチャンスがやってきたと思ったわけです。

シックハウス症候群における室内環境から、水虫における靴内環境の発想へ。今世間では異業種間のコラボがよくいわれていますが、やはり専門外の知識や経験を生かした発想は非常に役に立つと思います。こうして、英語論文を発表する準備は整ったわけですが、問題となったのは「英語をどうしようか」ということでした。

― エディテージのサービスをご利用いただいたきっかけと、アクセプトまでに印象に残っていることはありますか?

せっかく英語論文を出すチャンスが到来したのですが、大学を飛び出した私の周りには、アドバイスしてくれる人やサポート体制などはまったくありませんでした。私が医学生の昭和40年ぐらいは、日本ではドイツ医学が主流で、英語はまだマイノリティの状態。そして、私の英語は「This is a pen」のレベルで、これではとうてい英語論文は書けないなと思いました。そこでインターネットでいろいろと調べてみたところ、英語の論文投稿支援をしてくれるという「Editage(エディテージ)」が出てきたのです。メニューもとても豊富で、ここにお願いしてみようかなと、それが私とエディテージの出会いです。

右も左も何もわからない状態でスタートしたので、とても苦労しました。まずは日本語論文の校正段階で半分はカット。今度は英訳をして校正段階に入ると、さらに半分以上カットされました。投稿手続きは複雑で僕はまったくわからなかったし、査読対応も未知の領域で、エディテージにすべて依存するという状態でした。
査読のとき、査読者のひとりに非常に厳しいことを言われてカーっとなったのですが、エディテージのサポートもあり、「こういう言い方もあるのか」と大変勉強になったことを覚えています。また、ネイティブである校正者とのやりとりも英語ですし、英語ではなかなか日本的なニュアンスがつたわりにくいことにも苦労しましたが、緻密ややりとりがブラッシュアップにつながり、良かったかなと思います。

途中、スランプ状態もあり、完成するまでには3年かかりました。エディテージからは「賞味期限は2年」というアドバイスもあり、研究にオリジナリティはあるものの、ちょっと焦りましたね。足を引っ張られたのは、開業医の論文を倫理審査してくれるところがなかったこと。これで1年をロスしてしまいました。そこをクリアして、またエディテージと一緒に作業し、発表することができたというわけです。
結論としては「エディテージのサポートなくしてアクセプトなし」というところでしょうか。

- 念願の英語論文。アクセプト後の反響はいかがでしたか?

英語論文のアクセプト後の反響はすごかったです。メーリングリストや雑誌などにもアクセプトされたということを告知しましたが、お祝いの連絡をたくさんいただきました。教授や名誉教授も含めて、皮膚科の先生方から多くの賞賛の言葉をいただきました。結婚式以来の祝辞の嵐でしたね(笑)。
海外からの反響も大きく、英語のメールが急に増えました。その中にオランダのメディカルの団体からのメールがあったのですが、「Plenary Speakerに来てほしい」というリクエストが。オランダまで行くことはできないし、Plenary Speakerとして招待されることがどれほどありがたいことかわかっていなかったので、残念ながら実現はしませんでした。

あとはオンラインですね。オープンアクセスもお金はかかりましたが、非常に価値があったと思っています。オンラインに論文がリリースされて翌日にはもう新着論文として掲載されているのには本当にびっくりしました。
論文が引用されたのは現在6です。1番嬉しかったのは、これは引用には含まれませんが、上海の薬剤師さんが一般の方に水虫のお話をした中で使ってくれたことですね。最近では、中国・北京の大学の工学部の先生が、ネイチャーに掲載された論文のイントロダクションで私の論文を先行研究として載せてくれたことがあります。それなら最初からネイチャーに投稿すればよかったのではないかと思いましたが(笑)。

このように多くの反響をいただきましたが、やはり開業医が英語論文を出したということに皆さん驚かれたのではないでしょうか。アクセプトまでの3年、もうやめようかと思ったこともありましたが、辛抱強く、忍耐強く、やってきて良かったと思います。もう叶わないかもしれないと思っていた夢が叶い、「あんな人でも英語論文が書けるんだ」と驚かれたのは感無量で、非常に鼻が高かったです。それもこれもエディテージのおかげだと思い、感謝しています。

― 英語論文のアクセプトを目指す研究者へ、アドバイスをいただけますでしょうか?

医学はどんな分野でもそうですが、「なぜ?」がたくさんあります。その「なぜ?」を見つけて研究することが大切だと思っています。ただ、開業医のレベルだと、大学と同じ土俵で相撲をとることはできません。大学の研究以外で土俵を作って、開業医ならではの「なぜ?」を見つけて研究をする。それが認められることにつながると思います。
臨床現場ではまだまだ「なぜ?」がいっぱいあります。患者さんの病気を治したいという医者の想いと、医者も科学者ですから、科学者として「なぜ?」の謎を解きたいという想いのこだわりを、私自身もこれからも持っていきたいと思っています。

私は75歳でインパクトファクター4のジャーナルに初の英語論文を書くことができました。78歳の今、その分野ではトップジャーナルですけれども、インパクトファクター4のジャーナルに現在査読中のものもあります。若い先生も、もちろんベテランの先生も、科学者の世界発信に向けての英語論文に取り組んでいただき、エディテージには質の高い丁寧なサポートを引き続き提供してほしいですね。
誰でも英語論文は書けると思います。

―貴重なお話を本当にありがとうございました。

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この記事を書いた人

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