著者として使える強力なツールのひとつに「パラドックス」があります。
パラドックスは、著者が言っていることやある現象の根底にある理由は何なのかを、読者により批判的に考えさせる文学的な手段です。
パラドックスとは?
Merriam-Websterの辞書によると、パラドックスとは 「一見矛盾している、あるいは常識に反しているように見えるが、おそらく真実であるステートメント」のことです。最初にパラドックスを読んだときは、それが矛盾しているように見えますが、さらに考察を深めていくと、より深い真実や隠された現象が明らかになります。
パラドックスの種類と例
パラドックスは数学や哲学を含む多くの分野で見られます。
論理的パラドックス
「この文は偽りである」という文を考えてみましょう。これは論理的パラドックスです。なぜなら、この文が真実であれば偽りでなければならず、偽りであれば真実でなければならないからです。
文学的パラドックス
多くのフィクションやノンフィクションの作家が、パラドックスを効果的に使ってきました。その中には有名な格言になったものもあります。
例:「すべての動物は平等であるが、一部の動物は他の動物よりも平等である」-George Orwell『Animal Farm』
この一文は、全体主義的共産主義体制の欠点を端的に言い表しています。
タイムパラドックス
この種のパラドックスにはタイムトラベルが関係しており、それが論理矛盾を引き起こします。
例えば、
- あなたは過去に戻って誰かを殺すこともできます。
- しかし、もしあなたがその人を殺したなら、その人は存在しないことになります。
- だとすると、あなたはその人を殺す必要はなくなります。
タイムパラドックスのひとつに「ブートストラップ・パラドックス」があります。ある人物や物体が過去に戻され、その結果として生じる一連の出来事のタイムラインが、最終的に同じ人物が再び同じ時点に送り返されるような形で展開されるというものです。これは無限ループで続きます。
数学的パラドックス
数字や数学の演算にまつわるパラドックスです。最も有名なもののひとつに、ジャガイモのパラドックスがあります。
- ジャガイモは99%が水分ですが、98%の水分がなくなるまで乾燥させても、重さは50%しか減りません。
オクシモロン(矛盾語法)とパラドックス
オクシモロン(矛盾語法)とは、2つの正反対の言葉を組み合わせてユニークな表現を作り出す比喩表現です。例えば次のような表現があります。
- 耳をつんざくような静けさ
- ワーキングホリデー
- 整理された混乱
- 友好的な戦い
パラドックスがオクシモロンと違うのは、パラドックスが文であるのに対し、オクシモロンはフレーズであり、多くの場合2~3語のみで構成されることです。
研究におけるパラドックス
パラドックスとは、単に文章を上手に書くために使うだけのものではなく、多くのパラドックスが人気のある研究テーマにもなっています。
- 「immigrant paradox(移民パラドックス)」(Marks et al. 2014)とは、新しい移民の子どもは現地生まれの両親の子どもよりも発達の結果が良いという現象を指します。
- 「privacy paradox(プライバシー・パラドックス)」(Kokolakis, 2017)とは、ユーザーがオンライン閲覧履歴の保存を重視する一方に、個人情報の収集や利用については懸念することを指します。
- 「Hispanic paradox(ヒスパニック・パラドックス)」(Markides & Eschbach, 2005)とは、ヒスパニックの健康状態がアフリカ系アメリカ人よりも非ヒスパニック系白人の状態に近いのに対し、ヒスパニックの社会経済的状態はアフリカ系アメリカ人の状態に近いという米国特有の現象を指します。
これらはすべて、かなりの研究の対象となっています。
この記事はEditage Insights 英語版に掲載されていた記事の翻訳です。Editage Insights ではこの他にも学術研究と学術出版に関する膨大な無料リソースを提供していますのでこちらもぜひご覧ください。