部屋の居心地は“なわばり”の広さで決まる!?〜研究者の思考さくご (14)

部屋の居心地は“なわばり”の広さで決まる!?〜研究者の思考さくご (14)

皆さんは講義室や会議室などを訪れたときに、居心地の良さ/悪さを感じたことはありませんか? 人はどんな部屋に居心地の良さ/悪さを感じるのか。連載「研究者の思考さくご」第14回は、「部屋の居心地は“なわばり”の広さで決まる!?」をテーマに、国立情報学研究所の宇野毅明(うの・たけあき)先生に情報学研究者ならでの視点から、部屋の居心地の良さ/悪さを左右する要因について考察していただきます。

宇野 毅明
国立情報学研究所(NII) 情報学プリンシプル研究系 教授

アルゴリズム理論、特に列挙・データマイニング・最適化の研究が専門。コンピュータ科学の実社会における最適化に関心を持ち、自治体、企業、多分野の研究者との様々なコラボレーションを行っている。東京・神田にあるサテライト研究ラボ、「神田ラボ」を主催。情報学だけでなく文学、哲学、歴史学など人文社会学系を含めた国内外の研究者が集まり、日々、技術と社会の狭間で起きる現象について議論を重ねている。議論における俯瞰力と問題設定力を鍛える道場、「未来研究トーク」共同主催者。

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筆者は、人を自分のラボに招くことが多いのですが、よその大学や企業に行くこともよくあります。いろいろな部屋、会議室やセミナー室を見ますし、滞在中は自分の仕事をするために机を借りることも。また、自分のラボでゲストが仕事をすることもあります。そんな多くの体験を重ねると、部屋によって「居心地」というか「動きやすさ」のようなものがあるなあと感じます。ゲストを招いて、いい議論、いい打合せをしたいと思っている身としては、どのような部屋だと動きにくいのか、とても気になっています。

講義室のようなところが動きにくくて居心地があまり良くないのは、そもそも導線が狭かったり、いつもは大人数がいるところに今日は自分と他数人しかいないなど、状況を考えると納得できます。ところが、まあまあ広々しているオフィスや研究室、ワーキングスペースなどでも、たとえば作業用の机が整然と並んでいるところは、なにか動きにくさを感じます。そこに自分のスペースが与えられていても、なんとなく圧を感じるのです。

部屋の居心地は“なわばり”の広さで決まる!?〜研究者の思考さくご (14)

その理由を自分の気持ちと感覚に問うてみると、動きづらい/居心地が悪いのは、「自分が行ってはいけない」と感じる場所が多いように思います。たとえば、個人の持ち物が置いてある、明らかに誰かの席だとわかる机が並んでいると、そこには近づきがたくなります。つまり、「他人の場所」と認識できるところは行きにくく、そういうところが多いと動きづらくなります。逆に「自分がいていい」と感じられる場所が多いと、自由に動ける感じになるのではないでしょうか。この「自分がいていい」と思える場所を“なわばり”とします。机がならんでいるコワーキングスペースの場合、筆者はその机たちをなんとなく「他の人が使っているかもしれないな」と感じているのだと思います。

部屋は広いけれども人の机がたくさん並んでいるところは、自分のなわばりが狭くて動きづらい。一方で、部屋は狭くても、自分がなわばりと感じられる共用スペースが広くて存在感が大きければ、動きやすいです。これを部屋の居心地に関する「なわばり仮説」と呼ぼうと思います。この仮説がある程度成り立つとしたら、ゲストに「居心地がいい」と感じさせるためには、ゲストが自分のなわばりだと思えるような場所が広くなるようにすればいいでしょう。ゲストが使っていい共用の場所や机があっても、「その机や椅子に触れていいかどうかわからない」と感じさせてはいけません。机の上のものも含めて、さわっていいよ、動かしていいよ、というメッセージが感じられるようにするといいでしょう。「ご自由にお食べください」というお菓子が置いてあったり、触っていいパズルやおもちゃがあったり。それらを実際にいじっていたり、食べていたりする人がいるのも手です。共用の机と椅子も、完璧にきちっとしているよりも、ちょっと誰かが動かした跡が感じられるくらいがいいでしょう。

部屋の居心地は“なわばり”の広さで決まる!?〜研究者の思考さくご (14)

共用スペースの場所も、部屋の端にあるより真ん中にあったほうが、存在感があって良さそうに思います。部屋の主役が個人の作業机か共用スペースかでは大きな違いがあるでしょう。また、その部屋に作業机を持つ人にとっても、共用スペースが自分の机の隣にあれば、共用スペースと自分の机がひとつの大きななわばりのように感じられ、自分のスペースが大きいと感じられると思います。

筆者のラボはフリーアドレスですが、セミナーや打合せのスペースに使う大きな共用机とコタツが真ん中にあり、それを取り囲むように個人が占有できる机があります。共用机とコタツは明らかに「みんなが使うもの」のように見えるよう、お菓子やどうでもいいものが置いてあります。机は真ん中を向いており、椅子が壁側に来るようになっています。こうなると個人が机を使っていてもそのなわばりは壁際すれすれになり、ゲストを含め誰が通ってもいいスペースが共用スペースの周りに広がっていることになります。ゲストを観察していると確かにリラックスしやすく、自分の仕事を気楽にできているように思えます。筆者がこれまでに訪れた大学では、はこだて未来大学が、建物の中で共用スペースがとても存在感が大きく、主役になっていて、個人のスペースはそれらに張り付いているように感じられました。大変居心地が良かったです。

今回のなわばりの話は、筆者の個人の感覚を掘り下げて出てきたものではありますが、きっと共感していただける方はいらっしゃると思います。部屋やスペースの分析やデザインをするときに、今回の考察がお役に立てばと思います。


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この記事を書いた人

2002年に設立された、カクタス・コミュニケーションズの主力ブランドであるエディテージの目指すところは、世界中の研究者が言語的・地理的な障壁を乗り越え、国際的な学術雑誌から研究成果を発信し、研究者としての目標を達成するための支援です。20年以上にわたり、190か国以上の国から寄せられる研究者の変わり続けるニーズに対応し、研究成果を最大限広く伝えられるよう、あらゆるサポートを提供してきました。
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