「AIツールは研究キャリアに有利に影響」-2回目となる研究者のAIツール利用実態についての調査結果を発表

~効率化・生産性向上への期待の一方、捏造・剽窃の増加、論文の価値低下などの懸念も~

科学コミュニケーションおよびテクノロジー分野で世界をリードするカクタス・コミュニケーションズ(Cactus Communications、本社:インド、https://cactusglobal.com/jp/)は、自社メールマガジン会員、外部組織に所属する研究者計452名を対象に行った「AIツール利用に関するアンケート」を発表しました。

2023年8月、文部科学省科学技術・学術政策研究所が発表した「科学技術指標2023」によると、日本は注目論文数で世界13位と前回よりも1つ順位を落とす結果となりました。
ChatGPTをはじめとする生成AIが社会で広く利用されるようになったのと同様に、論文執筆における環境は近年変化の最中にあり、カクタスの23年7月発表 第1回調査では、研究者の2人に1人は週に複数回、ないしは毎日の高頻度でAIツールを利用して論文執筆等を行っていることが分かっています。本調査では、アカデミアにおける最新のAIツール利用の実態把握と、キャリア形成や研究活動におけるAIツールの貢献度を明らかにいたしました。

4人に3人が一年前に比べAIツールの利用頻度が増えたと回答

その結果、研究者の75%以上は1年前と比べて論文執筆におけるAIツール活用の頻度が増えた(とても増えた、やや増えた)こと、さらに、「AIツールを使いこなせると、研究キャリアに有利になると思うか」という設問で90%以上が、有利になる(とても有利になる、やや有利になる)と考えていることが明らかになりました。AIツールはアカデミアにとって日常的に活用するツールであり、使いこなせるか否かがキャリアに影響しうる段階にあるようです。

AIツールは研究キャリアに有利に影響

調査結果を以下にまとめましたのでお知らせいたします。

調査結果サマリ

  1. AIツールだけを利用して論文投稿をしたことがある方は8.8%とまだ少ないが、投稿経験者の4人に3人は論文がアクセプトされた経験を持つ
  2. 一年前と比べて、論文執筆におけるAIツール利用度は、75%の人が増えた(とても増えた、やや増えた)と回答し、この一年でも急速にAIツールの利用が浸透した
  3. 92.9%の方がAIツールを効果的に使いこなせると研究キャリアの形成において有利になる(とても有利になる、やや有利になる)と回答
  4. AIツールを利用することで、6割以上の方が「論文の質が良くなる」、「論文本数が増える」、論文執筆の「スピードが上がる」、「心理的ハードルが下がる」、「研究にかかる時間が削減できる」など作業効率・生産性の面でポジティブな影響を感じている。
    一方で、「投稿できるジャーナルのレベルが上がるか」かを問う設問では、「そうは思わない」、「わからない」が7割を超え、研究内容そのものの価値への影響はそれほど大きくはないことが分かった
  5. [ユーザーボイス]AIツール活用においては、複数のAIツールを利用する、盗用・剽窃になっていないかの確認、英文の精度を上げるなどの意図・期待などから利用されている。
  6. [ユーザーボイス]AIツールの利用有無が論文執筆にもたらす影響について、「日本語にない用語を英語で言語化できたので言語のハードルを越える以上の意味がある」、「非英語圏の研究者からの論文投稿がさらに増える」、といったポジティブな声があった。
    また一方で、「AIが書く論文が氾濫して、論文自体の価値が下がりそう」、「論文数が増大しキャッチアップの効率化に追いつけないと二極化がますます進みそう」、といった懸念を抱えるユーザーもいることが分かった

※:論文投稿とは学術雑誌、学会誌、論文集等に自分の研究によって発見した事柄等を掲載してもらうために、執筆した論文の原稿を送ること

調査概要

・調査名:第2回 研究者のAIツール利用に関するアンケート
・集計期間:2024年3月25日(月)~4月8日(月)
・対象:エディテージ(カクタス・コミュニケーションズ株式会社)メルマガ会員、外部組織に所属する研究者452名
・方法:アンケートフォーム自主回答形式

■総括(カクタス・コミュニケーションズ 代表取締役 湯浅 誠)

この1年間で研究者においてもAIツールの活用が進み、AIツールを使いこなすことがキャリア形成に影響するフェーズに移行。今後は世界的に論文投稿数が増え、捏造や剽窃を抑制する仕組みの検討が必要に。

今回の調査から、多くの研究者の英語論文執筆においてAIツールの活用が進み、ユーザーの「執筆スピードが上がる」「研究にかかる時間が削減する」といった作業の効率化と「論文本数が増える」「質が良くなる」といった生産性向上への貢献にポジティブな認識が広まっていることが確認できました。

また、今回の調査で「AIツールを使いこなせると、研究キャリアで有利になる」と考える方が9割を超えていました。アカデミアの領域では、業績発表手段として英文での論文出版がさかんに行われ、その結果として論文数と質が評価基準になっていますので、AIツールのリテラシーの優劣により、歩むキャリアに差が出てくることが推察されます。

一方で、AIツールの浸透の裏にある課題や懸念も無視することはできません。
今後、AIツールによる効率アップ、生産性向上に伴い、世界中で提出される論文本数が増大すると考えられますので、論文を査読する側のリソース確保や、データの捏造や表現の剽窃増大への対応と抑制する仕組みが必要です。

AIツールとプロフェッショナルによるチェック・人的サービスを提供する弊社としては、AIの発展に合わせて、よりシーンに応じた人的サービス開発に力を注いでまいります。

カクタス・コミュニケーションズ 代表取締役 プロフィール

湯浅 誠<Yuasa Makoto>

1978年千葉県生まれ。大学を卒業後に渡英後、カクタス・コミュニケーションズのインド・ムンバイ本社に就業。日本法人の設立に携わり、現在カクタス・コミュニケーションズ株式会社の代表取締役を務める。大学・研究機関、学協会など日本のアカデミアに国際化支援事業に長く携わっており、現在はカクタス・グループ全体において日本・中国・韓国を中心とした戦略的グローバル・マーケティングおよびブランディングを統括。

カクタス・コミュニケーションズ株式会社について

カクタス・コミュニケーションズは、2002年に設立された科学コミュニケーションとテクノロジーの会社です。カクタスは、Editage、Cactus Life Sciences、Researcher.Life、Impact Science、Paperpal、Cactus Labsなどのブランドのもとで開発された革新的な製品とサービスを通じて、研究者、大学、出版社、学術団体、ライフサイエンス組織の問題を解決します。カクタスは、プリンストン、ロンドン、オーフス、シンガポール、北京、上海、ソウル、東京、ムンバイにオフィスを構え、3,000人以上の専門家を擁するグローバル企業であり、190カ国以上の顧客を有しています。カクタスは、職場におけるベストプラクティスのパイオニアとして、ここ数年、常に「働きがいのある会社」にランクされています。

「研究者のAIツール利用に関するアンケート」詳細

  1. AIツールだけを利用して論文投稿をしたことがある方は8.8%とまだ少ないが、投稿経験者の4人に3人は論文がアクセプトされた経験を持つ

これまでにAIツールだけを利用して(人力の英文校正などのプロフェッショナルサービスを利用せずに)論文投稿をしたことがありますか?

何らかの論文集へ掲載してもらう論文を、AIツールだけを利用して執筆、投稿したことがあると答えたのは8.8%でした。

AIツールだけを利用して論文投稿した結果、論文がアクセプトされた経験がありますか?

AIツールだけを利用して執筆、投稿したことがあると答えた方40名のうち、75%に当たる30名は該当の論文がアクセプトされたことがあることが分りました。

  1. 一年前と比べて、論文執筆におけるAIツール利用度は、75%の人が増えた(とても増えた、やや増えた)と回答し、この一年でも急速にAIツールの利用が浸透した

▽一年前と比べて、論文執筆におけるAIツール活用度の変化について教えてください。

一年前と比べた、論文執筆におけるAIツール活用度の変化を問う質問では、「とても増えた」「やや増えた」と答えた方が75%を占めました。

  1. 92.9%の方がAIツールを効果的に使いこなせると研究キャリアの形成において有利になる(とても有利になる、やや有利になる)と回答

▽AIツールを使いこなせると、研究キャリアで有利になると思いますか? 

92.9%の方がAIツールを効果的に使いこなせると研究キャリアの形成において有利になる(とても有利になる、やや有利になる)と回答しました。AIツールを使いこなせない場合、研究キャリアにおいて不利になる可能性が高いことが推察されます。

  1. AIツールを利用することで、6割以上の方が「論文の質が良くなる」、「論文本数が増える」、論文執筆の「スピードが上がる」「心理的ハードルが下がる」、「研究にかかる時間が削減できる」など作業効率・生産性の面でポジティブな影響を感じている。
    一方で、「投稿できるジャーナルのレベルが上がる」かを問う設問では、そうは思わない、わからないが7割を超え、研究内容そのものの価値への影響はそれほど大きくはないことが分かった

▽AIツールを利用することで、英語論文の執筆にはどのような影響がありましたか? 

AIツールがもたらす英語論文執筆作業の効率化や生産性向上の可能性について確認できました。一方で、現在のAIツールが研究そのものに価値を高めるものではなく、「投稿できるジャーナルのレベルが上がる」とは思わない、わからない、という回答が7割を超えました。

  1. 実際のAIツール活用においては、複数のAIツールを利用する、盗用・剽窃になっていないかの確認、英文の精度を上げるなどの意図・期待などから利用されている。

▽AIツールを使用した論文執筆において工夫した用途・方法があれば教えてください。 

[用途]

  • 研究分野特有の言い回しと一般的な言い回しの比較調査。
  • 論文執筆時の語数削減。
  • まずAIツールで翻訳してから、自分で直すことで、時間短縮になっている。
  • AIツールを利用した際に生成された文章の内容について、自分が意図しているものと合致しているのかを確認したり、先行研究の言い回り等の盗用・剽窃になっていないかは注意を払っている。

[入力・確認の工夫]

  • 生成系AIに命令をする際にできるだけ具体的に指示を出す。
  • 英語に翻訳することを前提とした日本語にする(主語や目的語を省かず書くなど)。
  • 自分で作成した英文または日本語を入力した後に逆翻訳をして精度を確かめています。
  • 口語的な文章では正しく認識してくれないことがあるので文語的な表現に書き直して
    使用する。
  • ハルシネーションが含まれていないか十分精査する。
  • 論文を書く際には、まず、最初に英文を自分で書き、日本語訳し、さらにそれを英文に変換した上で、最終的な文章をどうするか考える。

 [行っている工夫・得ている便益]

  • 複数のAIを同時に使うことで、特定のモデルの弱点を軽減する
  • 英語→日本語→英語、と繰り返し翻訳を行うことで、より英文の精度を上げる。
  • 複数のツールで結果を比較して安心感を得る
    日本語の文章を複数用意し、複数の翻訳ツールで英文化する。それらを比べて、最も自分の言いたいことに近いと思うものを採用する。
  • 母国言語による不利益性が下がるため、国際雑誌への投稿や検索など、読み書きへの利用に有益である
  • 論文を仮想的に査読してもらったり,効果的なIntroductionの構成の仕方を考えてもらったりした.そのほか日常的に翻訳に使う。
  1. AIツールの利用有無が論文執筆にもたらす影響について、「日本語にない用語を英語で言語化できたので言語のハードルを越える以上の意味がある」、「非英語圏の研究者からの論文投稿がさらに増える」、と言ったポジティブな声があった。
    また一方で、「AIが書く論文が氾濫して、論文自体の価値が下がりそう」、「論文数が増大しキャッチアップの効率化に追いつけないと二極化がますます進みそう」、といった懸念を抱えるユーザーもいることが分かった

▽今後、AIツールの利用有無が論文執筆にもたらす影響について、上記以外の影響があると思う方は教えてください。

[ポジティブ]

  • 日本語には無い専門用語や概念を対話を通して英文で言語化できたことがあったので、言語のハードルを越える以上の意味がある。
  • 研究背景や先行研究の有無の大まかな調査などには使っているが、詳細な調査や裏付け調査は自身で行っている。それらについてはまだ完全に信頼できないが、今後はその割合が変わる可能性がある。
  • 翻訳精度の向上やプログラムの生成に関してはかなり期待できると思っている
  • よりAIの精度が上がれば、イントロダクションはChatGPTなどで初稿を書いても良い。
  • 英文表現に幅が出て、自分の主張したいことを正確に記述することができるようになると思います。
  • 非英語圏の研究者からの論文投稿がさらに増えると思う。

[懸念]

  • AIの翻訳や文章校正も完ぺきではないので、著者としての基本的な知識は必要であるし、最終確認は著者としての責任があると思う。
  • AIが書く論文が氾濫して、論文自体の価値が下がりそう。
  • 論文数が増大しキャッチアップの効率化に追いつけないと二極化がますます進んでいく可能性を痛感する
  • 英語非ネイティブの論文投稿が盛んになる一方で、同じような英語表現が多発するようになるのではないかと危惧している。
  • 論文執筆のスピードが上がると、投稿される論文数が増加する。その結果、編集部は未査読の論文で溢れかえることになり、査読のスピードが追い付かなくなると思う。
    実際、既にそのようになりつつあり、頻繁に査読依頼が届くようになった。
  • 画像生成のレベルも上がっていくと、データの捏造が心配になる。それに伴いジャーナルやグラント側の規制も厳しくなり、結局まったくAIを使えなくなり、以前の状態に逆戻りということも考えうる。
  • 粗造乱造の似たような論文がすでに多い中、ますますその傾向が増えることを危惧している。
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この記事を書いた人

エディテージはカクタス・コミュニケーションズが運営するサービスブランドです。学術論文校正・校閲、学術翻訳、論文投稿支援、テープ起こし・ナレーションといった全方位的な出版支援ソリューションを提供しています。