研究と出版におけるバイアスを避けるための盲検化(ブラインディング)の重要な役割

The crucial role of blinding to avoid bias in research and publication

バイアス(先入観、偏見)は、研究の立ち上げから研究計画、研究プロセスのすべての段階、さらには査読や出版物の発行、引用に至るまで、研究に影響を及ぼします。研究者は、自分の経験や考え、偏見に基づいた早急な判断を下すことで、無意識のうちに研究に色をつけてしまうことがあります。これは無意識のバイアス(または暗黙のバイアス)として知られています。一方、意識的なバイアス(または明示的なバイアス)は意図的なものです。どちらのタイプのバイアスも、研究結果の妥当性や信頼性に影響を与えます。

特に医学においては、偏ったデータやデータの誤った解釈は、医療現場に深刻な影響を及ぼします。バイアスを完全に排除することは困難ですが、研究を計画・実施する際にバイアスを最小限に抑えるための対策はいくつかあります。そのひとつが盲検化(ブラインディング)です。この記事では、バイアスの種類と、一重盲検、二重盲検、三重盲検のアプローチがバイアスの解決にどのように役立つかについて説明します。

バイアスの種類

研究や出版に影響を与えるバイアスの主な種類は以下の通りです。

選択バイアス:調査対象のサンプルが母集団全体を代表していないこと。選択バイアスにより、より広い母集団に一般化できない結果が生じる可能性があります。

確証バイアス:研究者が無意識のうちに、自分の既存の信念や仮説を裏付ける情報を優先し、それに反するデータを無視すること。

出版バイアス:研究者が肯定的または有意な結果のみを選択的に報告すること。その結果、発表された文献に肯定的な結果が過剰に含まれることになります。

引用バイアス:研究者が自分の研究や見解を支持する研究を優先的に引用し、矛盾する証拠を除外すること。

実験者バイアス:研究者のバイアスが意図せずに研究参加者の行動に影響を与えること。

観察者バイアス:観察が先入観に基づいた期待に沿って認識され、記録されること。観察者バイアスは、測定される実際の値の過大評価または過小評価につながります。

研究者としてのバイアスを最小限に抑える

研究者は潜在的なバイアスを意識し、認識しておく必要があります。先入観に気を配り、オープンで公平な考え方を心がけましょう。 研究デザインを決める際には、それが研究内容と研究目的に適していることを確認してください。これには、定量的研究でランダムサンプリングを使用することや、追跡調査で参加者が脱落することを考慮すること、アンケートやインタビューの質問を中立的なトーンで表現すること、観察者のバイアスを減らすために盲検化された調査方法を使用することなどが含まれます。さらに、文献を検索する際には、結果の如何に関わらず、質の高い研究に焦点を当てるようにしましょう。

前述したように、盲検化は研究プロセスにおけるバイアスの影響を最小限に抑える方法のひとつです。詳しくみてみましょう。

盲検化で科学的知見の客観性を確保する

盲検化(ブラインディング)とは、「研究結果に影響を与える可能性のある情報を、研究に関与する1人または複数の関係者から隠すプロセス」を指します。治療を含む研究では、盲検化(「マスキング」とも呼ばれます)によってバイアスを防ぐことができます。この方法では、参加者または研究者、あるいはその両方から、グループの割り当てや治療の割り当てに関する情報を隠します。言い換えると、盲検化により、研究者や参加者は、彼らの行動や意思決定プロセスに影響を与える可能性のある研究の特定の側面を知ることができなくなります。この方法は、観察者のバイアスが人間の観察者による主観的な評価や測定を歪める可能性のある臨床試験でよく使用されます。重要な情報を隠すことで、盲検化は無意識のバイアスが試験の結果に影響を与えるリスクを軽減します。したがって、盲検化の手法を導入することで、研究者は研究結果の客観性と信頼性をより高めることができます。

盲検化の種類

研究者は科学的研究において、研究の性質やバイアスの潜在的な原因に応じて、一重盲検、二重盲検、三重盲検のアプローチを採用することができます。

一重盲検:このアプローチでは、参加者は自分が受けている治療や症状について知らされませんが、研究者は知っています。このタイプの盲検化は、参加者のバイアスを防ぐために臨床試験でよく使用されます。

二重盲検:参加者と治療または介入の管理に関与する研究者の両方が、グループ割り当てについて知らされていません。

三重盲検:参加者と研究者が盲検化されていることに加え、データ分析または結果評価に関与する人々もグループの割り当てについて知らされません。この追加の盲検化により、結果の解釈におけるバイアスの可能性をさらに減らすことができます。

盲検化の実践例

盲検化は、医学研究、心理学、社会科学など、主観的な評価や測定が関与する分野では特に重要です。例えば、新薬をテストする臨床試験では、参加者はどちらを投与されたのか知らされずに、有効な治療薬とプラセボのいずれかを投与されることがあります。これにより、参加者の期待が結果の認識に影響するプラセボ効果を防ぐことができます。さらに、人間の行動を研究する心理学の実験では、参加者は各条件の具体的な詳細を知ることなく、さまざまな条件にランダムに割り当てられることがあります。これにより、参加者の反応が彼らの先入観に影響されないことが保証されます。

盲検化は、研究の実施に限定されるものではありません。一重盲検または二重盲検のアプローチは、バイアスを減らすために科学的研究の他の側面にも適用することができます。ほとんどの科学ジャーナルは、著者、査読者、またはその両方の身元を隠す盲検査読(ブラインドピアレビュー)を実施しています。これにより、所属機関、性別、評判などの要因に基づく潜在的なバイアスを最小限に抑えることができます。さらに、資金提供機関も、申請者の身元や所属に影響されることなく、助成金申請がその科学的価値のみに基づいて評価されるように、盲検査読を採用する場合があります。

結論とヒント

科学研究における盲検化は、バイアスの影響を軽減し、研究結果の客観性と信頼性を確保するのに役立ちます。科学研究における盲検化を効果的に実施するために、研究者は以下のヒントを考慮するとよいでしょう。

  1. 研究における潜在的なバイアスの原因を慎重に評価し、必要な盲検化の適切なレベル(一重盲検、二重盲検、三重盲検)を決定します。
  2. 治療の割り当てを隠すためにコード化されたラベルや密封された封筒を使用するなど、盲検化プロセスの完全性を確保するための強固なプロトコルと手順を開発します。
  3. 研究全体を通じて盲検化を維持し、盲検化解除のリスクを最小限に抑えために、独立したデータアナリストや結果評価者などの第三者を関与させます。
  4. 透明性を高め、他の研究者による再現を容易にするため、出版物や報告書の研究方法のセクションで使用した盲検化手順を明確に記述します。

研究者は、自らの研究の制約と限界を率直に認めると共に、結果に影響を及ぼす可能性のある潜在的なバイアスの原因を説明する倫理的責任を負っています。盲検化は、この責任を果たすためのアプローチのひとつです。これにより、医療専門家や政策立案者、その他の関係者などが、研究結果を実際の診療や政策決定にどのように適用するかを決定する際に、あらゆるバイアスの影響を考慮しながら、研究結果を客観的に評価し精査することができます。盲検化を標準的な慣行として取り入れることで、科学界は研究結果の信頼性と妥当性を高めることができるのです。


この記事はEditage Insights 英語版に掲載されていた記事の翻訳です。Editage Insights ではこの他にも学術研究と学術出版に関する膨大な無料リソースを提供していますのでこちらもぜひご覧ください。

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この記事を書いた人

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