プラセボ効果による臨床試験結果の曖昧さを防ぐ方法

Strategies to prevent the placebo effect from obscuring clinical trial results

「赤ちゃんがGERD(胃食道逆流症)になったので、ベビーカーに赤いリボンを結んだら治った!」

「2型糖尿病と診断されたとき、ウコンのペーストを毎晩足の裏にすり込みました。1ヵ月もしないうちに、血糖値が正常になりました!」

「膝が痛くなったら、挽きたての岩塩を入れたボウルを3晩部屋に置いておくといい。痛みは消えるでしょう」

これらの主張は馬鹿げているように聞こえますか? しかし、こうした医学的なアドバイスがどんなに馬鹿げているように聞こえても、実際に効果を感じる人が少なからずいるのです。その理由は、謎のプラセボ効果です。

プラセボ効果とは?

プラセボ効果とは、治療効果のない治療を受けた後に、人が自分の状態が改善したと錯覚することです(つまり、プラセボは物理的にも薬理学的にも不活性です)。もっとわかりやすく言えば、効果のない治療を受けていても、あるいはまったく治療を受けていなくても、人は症状が改善していると感じてしまうのです。

臨床試験におけるプラセボ効果

明らかに、無作為/無意味な治療を受けたにもかかわらず、気分が良くなる人がいるとしたら、厳密で統計的に正しい臨床試験に費やされた何十億ドルもの費用と何年もの苦労に何の意味があるのでしょうか? プラセボ効果は、治療介入に関する研究結果に大きく影響する可能性があります。臨床試験の参加者は、実際にはプラセボを受けている場合でも、有益な治療を受けていると信じているだけで、症状が改善することがあります。これにより、テストされている治療の真の有効性を判断することが難しくなる可能性があるため、試験の設計と分析においてプラセボ効果を考慮することが極めて重要となります。

臨床試験でプラセボ効果をどのように扱うか

まず、プラセボが臨床試験でどのように扱われるのかを正しく理解しましょう。研究者はプラセボ対照試験を実施することがあります。これは、参加者の一方のグループが実薬治療を受け、もう一方のグループがプラセボを受ける試験です。理想的には、研究者は2つのグループ間で他のすべての変数(病気の状態、年齢、併存疾患など)が同じであることを確認し、2つのグループ間の試験結果の違いが実薬治療に起因することができるようにします。

参加者が実薬治療を受けているのかプラセボを受けているのか知らない方が良いのは明らかで、彼らの治療に対する認識が結果に影響しないようにします。そこで、被験者がどちらのグループに属しているのかを知らないようにするために使用するのが、盲検化です。二重盲検を用いればさらに効果的で、研究者も参加者も、試験の最後の最後まで、誰がどのグループに属しているのかわからないようにすることができます。

プラセボ効果による試験結果の曖昧さを防ぐその他の方法

長年にわたり、研究者はプラセボ効果に対抗し、確実で信頼できる結果を得るための様々な方法を開発してきました。研究者たちは、試験デザインに 「run-in period(慣らし期間)」を組み込むことを試みてきました(例:Huiら 2021)。これは、試験開始時に、プラセボであることを伏せて全員にプラセボを投与する期間です。その後、関係する症状の改善を報告した参加者(「プラセボ反応が高い」とみなされます)は、実際の臨床試験から除外されます。ただし、この方法は特に有効ではないことが判明しています(Davisら 1995Laursenら 2019)。

プラセボ効果に対抗するもうひとつの方法として、SPCD(逐次並行群間比較デザイン)があります(例:Mathewら 2017) 第1段階では、参加者はプラセボか実薬治療のいずれかを受けるようにランダムに割り当てられます。プラセボに反応しなかった参加者は第2段階に進み、そこでもう一度、プラセボまたは実薬治療のいずれかを受けるようにランダムに割り当てられます。最終的な分析では、両方の段階からのデータを統合して使用すます。

Evansら(2021)は、プラセボ効果に対抗するための他の様々な方法について包括的なレビューを提供しており、これには実薬治療対プラセボに関するメッセージの修正や、正確な反応に関する被験者への特別なトレーニングなどが含まれます。

もうひとつの非常に重要な側面は検出力です。試験のサンプル数が十分に多く、統計的検出力が適切であれば、結果は確実である可能性が高くなります。対照的に、検出力が低く、サンプル数が非常に少ない場合、プラセボ効果を経験した人が1、2人でもいれば、結果が歪む可能性があります。

結論

プラセボ効果は、研究者にとって“悩みの種”ですが、完全に無視することはできません。プラセボ自体に何の効果がなくても、プラセボ効果によって神経内分泌反応が誘発され、それが自律神経系や免疫系と相互作用する可能性があります(Wager & Atlas, 2015)。プラセボ効果による研究結果の曖昧さを完全に防ぐことはできないかもしれませんが、よく練られた試験設計と十分な統計的検出力があれば、生成するエビデンスの質について、より自信を持つことができます。


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この記事を書いた人

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