Springer Nature、日本の研究者が論文発表後に研究成果を共有するためのサポートの必要性を強調

Springer Nature highlights need to support Japanese researchers in sharing findings after publication

研究出版大手のSpringer Natureが最近実施した調査によると、日本の研究者の約3分の1が、学術的な場以外での研究成果の発信の重要性を理解しているにもかかわらず、学術論文や学会発表以外の方法で研究成果を共有する方法が分からないと回答しています。科学者を政策決定に参加させ、社会的利益を最大化するためには、研究内容をインフォグラフィクスや動画にまとめSNSなどを用いて幅広い層に情報を発信する、いわゆる「リサーチコミュニケーション」が不可欠ですが、アカデミアに属する関係者はどのようにすれば世界における日本の研究コミュニティの影響力をさらに高めることができるのでしょうか。

日本におけるリサーチコミュニケーションへの研究者の関与に関する調査からの主な考察

調査は2023年1月から2月にかけて、日本のあらゆる研究機関に所属する研究者を対象に実施され、1,063件の有効回答を得ました。回答者は幅広い年齢層から集まり、主要な層としては55歳以上の研究者が回答全体の46%を占めています。また、過半数(53%)は大学教員であり、大多数(92%)はSTEMまたは医学分野の研究者でした。アンケートは英語と日本語で実施され、ほとんどの回答者が日本語で回答しました。

日本の研究者はコミュニケーションのメリットを理解しているが、ほとんど実施していない

94%の研究者はリサーチコミュニケーションを重要視していると回答し、87%は研究内容を共有することに強い関心を持っていると回答しています。にもかかわらず、21%は過去3年間では実施しておらず、12%はこれまでのキャリアで一度もリサーチコミュニケーションを実施していません。リサーチコミュニケーションを実施したことがある人のうち37%は、3年間で1~3回だけだと答えています。全体的に見ると実施回数は少なく、調査期間中、毎年1回以上実施したのはわずか30%でした。この「必要性は感じているがほとんど実施していない」と言う食い違いは、日本の研究者が、研究発表をする意志がないというよりも、研究発表を困難にしている構造的な問題に直面している可能性を示唆しています。

研究者は積極的に出版物の影響力を評価している

回答者 710 名のうち、81%が何らかの方法で自身が出版した研究の影響力を評価しており、被引用数やダウンロード数の追跡が一般的でした。注目すべきは、日本語のみでリサーチコミュニケーションを実施している研究者は、影響力を評価している割合が低く、論文のリーチとインパクトを評価するために使用した指標も少なかったことです。

一般市民を対象とし、政策立案者や資金提供者はあまり対象としていない

リサーチコミュニケーションの対象を一般市民に向けている回答者は約73%、研究コミュニティを対象としている回答者は61%でした。一方、対象を政策立案者や資金提供者とした回答は、それぞれ15%と12%にとどまりました。さらに、64%が社会にとって関心のある研究を優先しています。日本の研究者たちが、一般市民を「輪の中に入れる」ことを望んでいるのは喜ばしいことですが、一方でこの調査結果は、権威ある立場の人々を巻き込まないことで、社会的インパクトを最大化し、追加資金を獲得する機会を逃している可能性を示しています。

ただし、ここには大きな注意点があります。約半数の研究者が、研究機関や資金提供者から研究の成果が認められれば、リサーチコミュニケーションを行う可能性が高まると回答しています。つまり、インセンティブを受け取っている研究者は、関係者に研究内容を伝える努力を怠らない可能性が高いということです。

実施へのハードル

約66%が、わかりやすい言葉で書くことが大きな課題であると感じています。これは、効果的なリサーチコミュニケーションを実施するためにより多くのサポートが必要という回答者の77%も同様に感じています。その他に多かった不満は、「適切な媒体がわからない」、「魅力的なビジュアルやストーリーを作成するのが難しい」などです。回答者の半数は、所属機関のコミュニケーション/広報チームからサポートを受けていると回答していますが、平易な言葉で要約を書く支援やコミュニケーションスキルのトレーニングなど、所属機関が提供している他のリソースを知っている回答者は20%未満でした。

日本語以外の言語でのリサーチコミュニケーションの難しさについては調査していませんが、研究上のコミュニケーションにおいて、日本語を全面的または主立って使用している人が96%であったのに対し、英語を多少なりとも使用している人は52%と少数派でした。これは、国内の読者を強く意識しているか、英語でのコミュニケーションが困難であることを示している可能性があります。日本は英語でのコミュニケーションに欠ける点があることはよく知られており、それが国際的な読者との関わりを制限していることは確かです。

インサイト

ガラパゴスの外に目を向ける

日本のコメンテーターはしばしば、日本の「ガラパゴス状態」について言及します。ガラパゴス状態とは、日本国内では成功するものの、海外では普及しないユニークな製品や慣習、サービスを開発することです。これは、チャールズ・ダーウィンが自然淘汰による進化論への洞察を得るきっかけとなった、ユニークな環境特性を持つ孤立した環境であるガラパゴス諸島に例えたものです。消費経済におけるガラパゴス状態は、日本独自の顧客層とビジネス文化によるところもあります。同様に、日本は、民間機関で働く研究者の割合が高いなど、研究文化におけるユニークな特徴があります。

研究がますます国際的な取り組みとなりつつある今、海外の関係者は、日本の研究者が声を上げるのを手助けする絶好の機会を得ています。国際的な出版社や共同研究者は、日本の研究コミュニティに合わせて戦略を立てる価値があるかもしれません。これらのデータに基づき、ステークホルダーが実施できるアイデアには以下のようなものがあります。

  • メディアの選定やリソースの準備に関する情報やガイドなど、研究コミュニケーションに関する支援を提供する。
  • 一般市民など、日本の研究者が大切にしているオーディエンスにリーチする機会を増やす。
  • 政策立案者や資金提供者を巻き込むことの価値について、日本の研究者を教育する。
  • より多くの英語によるサポートを提供する。

課題

今回の調査では、日本の研究者のリサーチコミュニケーションに対する理解について、心強い示唆が得られたと同時に、研究機関内のサポートやスキルトレーニングなど、改善すべき点も浮き彫りになりました。とはいえ、他の研究生産国との比較における日本の状況はわかりません。他の国のサンプルで再現した場合、これらの回答はどの程度異なるのでしょうか? 中国や韓国といった他の東アジア諸国と比較することで、日本が直面している課題において本当に独特な国なのかどうかについての洞察が得られるかもしれません。

▶Springer Natureによる調査の詳細はこちら
Researchers in Japan need more support to share their research findings after publication

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この記事を書いた人

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