AI時代における査読と研究の誠実さ

Peer review and research integrity in the age of artificial intelligence

AI(人工知能)技術の進歩は、研究コミュニティを含む多くの人々の生活をより快適なものにしています。研究者は、実験の計画から学術論文の執筆に至るまで、研究のさまざまな側面でAIの力にますます頼るようになっています。AIはまた、査読に適した専門家の選定からデータの統計的検出力の確認まで、査読のさまざまな段階でも役立ちます。AIが徐々に普及していくにつれて、出版社やジャーナルは、学術出版のさまざまなワークフローやプロセスにおけるAIの使用に関するガイドラインやポリシーを洗練させています。このトピックについてはさまざまな考え方がありますが、AIの利用は出版エコシステム内で支持されており、査読におけるAIの潜在的な役割ついての議論が注目を集めています。

出版ワークフローと査読への負担の増大

近年、出版される論文の数は飛躍的に増加しています。ある調査によると、2016年には約192万本の論文が出版されていましたが、2022年にはこの数は282万本に達しました。科学論文がこれほど多いと、論文の選別と評価を任されている査読者だけでなく、ジャーナル編集スタッフを含むシステムにも負担がかかります。このことは、一度リジェクトされて別のジャーナルに再投稿された論文を査読するために、査読者が毎年1,500万時間以上を費やしていると推定したレポートからも明らかです。

査読の効率を高め、査読者の負担を軽減するために、一部のジャーナルでは自動化ツールを使い始めています。このような方法は、ジャーナル編集者が論文の質やジャーナルへの適合性に基づいて論文を識別するのに役立ち、査読者の負担を減らすことができます。

論文の査読プロセスにおけるAIの可能性を探る

1. 初期スクリーニング

いくつかのジャーナルでは、論文の最初の審査に自動化ツールを採用しています。例えば、剽窃の検出、フォーマットのガイドラインへの準拠、文法や言語関連のエラーのチェック、さらには最適な査読者とのマッチングなどです。査読前の段階でAI支援プロセスを導入することで、ジャーナルの要件を満たさない可能性のある論文を早期に発見し、結果として査読システムの負荷を軽減することができます。

IOP Publishingでは、論文投稿時に著者にPaperpal Preflightへのアクセスを提供します。Paperpal Preflightは、一般的な論文のエラーをチェックするのに役立ち、著者は投稿前にこれらの問題を特定して修正することができます。

2. 論文の質の評価

専門家は、AIベースのツールは低品質な研究にフラグを立てることができ、部分的に自動化できる査読の可能性を生み出すことができると考えています。

例えば、StatcheckStatReviewer は、論文で使用されている統計を評価できるソフトウェアです。これらのツールを使用しているジャーナルには、Psychological ScienceCanadian Journal of Human SexualityPsychOpenなどがあります。

3. 査読におけるバイアスへの取り組み

査読もまた、学術界に内在するバイアスを明らかにするために精査の対象となっています。査読者のバイアスは、暗黙的であれ明示的であれ、著者の国籍、言語、所属、先行研究など様々な要因から生じる可能性があります。バイアスはまた、地理的要因の影響を受け、論文の言語の質の認識に影響を与える可能性もあり、これらはすべて論文の客観的評価を妨げる可能性があります。

中国の研究助成機関は、査読者のバイアスを減らすため、自動化されたツールを使って助成金の審査を行っていると報じられています。

4. イメージのフラグ建て

イメージ・インテグリティ・アナリストのJana Christopher 氏は、学術出版における図表などのイメージの誠実さについて、興味深い見解を示しています。彼は、複数のジャーナルで出版前にアクセプトされた論文のスクリーニングを広範に行った結果、イメージ関連の問題でフラグが立てられた論文の割合が、20~35%の間で変動していることを発見しました。さらに、驚くべきことに、これらの論文のアクセプトが最終的に取り消される割合は8%にも達する可能性があることも発見しました。これらの数字は、学術論文に用いられるイメージ作成における誠実さと正確性に関する継続的な懸念を浮き彫りにしています。

ジャーナルが扱う膨大な量の投稿論文と、各論文に含まれる多数の図の複雑さを考えると、各図表を綿密に検証し、すべてのエラーを特定することは困難な作業となります。専門的な画像整合性ツールを責任を持って使用することで、査読プロセスを強化し、画像の整合性を維持することができます。Science系列のジャーナルは、出版物内の操作された画像を識別するためのAlテクノロジーの導入を正式に発表しました。

研究の誠実さを高めるための査読におけるAIの役割

倫理原則を遵守し、責任ある基準を維持することは、科学研究において譲れないことです。科学者は、研究を実施・報告する際、正直で正確かつ客観的であることが求められます。研究の誠実さを維持することで、科学的発見の再現性と信頼性が確保され、社会に貢献することができます。

査読を受けた研究論文を出版することが、昇進、助成金の獲得、キャリアアップの基礎となる時代において、研究者が自分の研究論文を出版するために非倫理的な行為に訴える例が見受けられます。これには、剽窃、データの捏造や改ざん、査読者の個人的・金銭的利害など、査読者の判断にバイアスをかける可能性のある未公開の利益相反などが含まれます。このような不正行為は、報告された結果に基づく将来の研究を誤解させるだけでなく、科学と科学的プロセスに対する一般の信頼を低下させます。

多くの場合、査読者は膨大な査読対象論文の量に圧倒され、査読に費やした時間に対して報酬が支払われることはほとんどありません。このような状況を踏まえ、研究者たちは、AIベースのツールを使用することで、科学的誠実性を高めることができる可能性を示唆しています。機械学習アルゴリズムの中には、査読者やジャーナル編集者がデータの矛盾を特定したり、画像操作や統計の異常を検出したりするのに役立つものもあります。

共同出版システムは、透明性を高め、研究の誠実さを維持することができます。査読プロセスにおけるAIの使用に関するポリシーはまだ発展途上ですが、様々なジャーナルや資金提供機関が、査読にAIを組み込むためのガイドラインを設けています。米国国立衛生研究所(National Institutes of Health)やオーストラリア研究評議会(Australian Research Council)などの資金提供機関は、査読プロセスにおけるAIの使用を禁止しています。出版社のSageは、編集者が適切な査読者を特定するためにAIを使用することを認めていますが、それ以外の査読プロセスでのAIの使用は推奨されていません。

査読にAIを使用する際の倫理的配慮

査読プロセスにおけるAIベースのツールの使用は支持されているものの、この問題に関する学術コミュニティのスタンスは依然として分かれています。主な懸念は、このプロセスにAIを導入することで、独特の倫理的課題が生じることです。例えば、AIシステムが人間のバイアスをどの程度回避できるかは、まだ不明です。注目すべき例として、申請書を管理するオンラインシステムによって承認された助成金では、女性研究者の待遇がよくありませんでした。その結果、助成金審査機関はこのシステムの利用を中止し、対面式の助成金承認会議に戻すべきだという声が上がっています。

専門家は、論文評価に使用されるAIベースのツールの信頼性についても疑問視しています。ジャーナルのガイドラインでは、論文の処理にAI技術を使用すると、論文がAIツールにアップロードされる際に守秘義務に違反する可能性があることを認めています。さらに、ICJMEのガイドラインでは、査読者が査読にAIを使用する場合は、編集者の許可を得る必要があることも明記されています。

査読におけるAIの未来

新たなAI技術は、査読のあり方を一変させる可能性を秘めています。しかし、査読にAIベースのツールを使用する機会が増えていることは、イノベーションと責任のバランスを取る必要性も浮き彫りにしています。これには倫理的な監督が必要です。今のところ、AIだけで査読が十分であることを示唆するデータはありませんが、システムが進化し続けるにつれて状況が変わるかもしれないという見方もあります。

専門家の中には、今後、査読におけるAIベースのツールは、人間の判断に代わるものではなく、補足として使用されるべきだという人もいます。研究者や査読者がAIを効果的かつ倫理的に使用できるようにするために、継続的なトレーニングプログラムを受けるよう求める声もあります。さらに、科学出版と査読において責任を持ってAIを使用するために、明確な倫理的枠組みを整備する必要もあります。全体として、学術出版コミュニティがAIの能力を倫理的に活用し、人間の査読者が提供する専門知識と組み合わせることで、厳密で信頼性の高い科学出版プロセスを生み出す可能性を秘めています。


この記事はEditage Insights 英語版に掲載されていた記事の翻訳です。Editage Insights ではこの他にも学術研究と学術出版に関する膨大な無料リソースを提供していますのでこちらもぜひご覧ください。

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この記事を書いた人

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