エディテージ・グラントのその後を追う③-田中 憲子さん(名古屋大学総合保健体育科学センター/教育発達科学研究科 准教授)

過去にエディテージ助成金に採択された皆さんが現在どのように活躍されているのか、エディテージ助成金の経験が現在にどのようにつながっているのかなど、お話をうかがいました。助成金採択を目指す若手研究者の皆さんへのアドバイスと併せてご覧ください。

田中 憲子(石黒 憲子)さんプロフィール
Noriko Ishiguro-Tanaka


2006年3月:東京大学大学院総合文化研究科 広域科学専攻 生命環境科学系にて博士(学術)を取得
2006~2007年度:私立大学の期限付き助手(妊娠・出産に伴う契約終了)
2008年度:国立の研究機関の技術補助員(アルバイト)(研究中断期間)
2009~2012年度:日本学術振興会特別研究員(RPD)※出産による研究中断期間あり
2013~2014年度:企業研究所の常勤研究員(任期なしだが、実質的な研究中断期間)
2015年度~現在:国立大学の教員(任期なし.子連れ単身赴任)

【今のポジション】 准教授(名古屋大学総合保健体育科学センター/教育発達科学研究科)

2016年度エディテージ研究費基礎研究グラント採択

エディテージ助成金に採択された研究内容

人の体幹(腹部など胴体の部分)における骨格筋(筋肉)の量や質をパノラマ超音波画像法により評価し、磁気共鳴画像(MRI)法による評価値との比較を行いました。
私は、運動生理学のなかでも人の身体組成、特に体幹における骨格筋や脂肪に着目した検討を行ってまいりました。体幹の骨格筋は全身の40%以上を占めています。しかし、体幹の組織分布は、四肢(腕や脚)のそれに比べて格段に複雑です。このため、体幹部における骨格筋や脂肪の量を簡便かつ正確に評価する方法が欠如しており、「サルコペニア(加齢に伴う骨格筋量や筋力などの低下)」の診断も、四肢のみの骨格筋量で行われるのが一般的です。
骨格筋の量は、個人が発揮する筋力を決定する重要な因子です。また、骨格筋内に霜降り状に蓄積する脂肪(筋内脂肪)が増えて骨格筋の質が低下すると、糖尿病等をはじめとする代謝疾患のリスクが向上することが報告されております。そこで私は、パノラマ超音波画像に着目しました。超音波画像は、MRIと同じ「医用画像」の一種です。なかでもパノラマ超音波画像は、MRIと同様に、各骨格筋群の横断面積等を実験室内外で簡便に評価可能です。しかし、当時としては新しい技術でしたので、体幹部を対象とした評価の妥当性については未検討でした。
本研究の成果は、当該分野における数本のレビュー論文でも引用されております。

現在の主な仕事/研究

エディテージの助成金で実施した研究を発展させた研究を行っています。具体的には、超音波画像やMRIを用いて体幹部骨格筋の量や質を評価し、それらと加齢、性別、栄養摂取状況、代謝疾患リスク、体力、アスリートの競技パフォーマンスなどとの関連について検討しています。
近年は、特に、若齢者における代謝疾患リスクと体幹部骨格筋の量や質との関連に着目しています。たとえば、アメリカンフットボールやラグビーなどを実施している体格の大きなアスリートは、運動習慣を有しているにもかかわらず、代謝疾患リスクが高い状態にあります。一方、体格が標準以下(痩身)の女性も、代謝疾患リスクが高い状態にあります。これらはいずれも、体幹部における骨格筋量や筋内脂肪の蓄積度と有意に関連します。
今後は、体幹部骨格筋の量や質を評価することで、若齢者における代謝疾患リスク向上の兆候を早期に捉えるとともに、適切な対処法の提案に貢献していきたいと考えております。

エディテージ助成金の経験が現在にどのようにつながっているか

エディテージ助成金は、MRIの撮影費用や研究にご協力くださる方への謝金として、大切に利用いたしました。ありがとうございました。不安定なポスドク時代を乗り越えた直後にエディテージ様から助成金をいただいたことは、私のキャリア形成において、間違いなく、ステップアップの大きなきっかけとなりました。
研究費獲得による研究基盤の形成という恩恵はもちろんですが、インタビュー記事を掲載していただいたことで、複数の若手・女性研究者から「勇気をもらった」との反響をいただきました。また、現在の所属大学の男女共同参画についても追加取材いただき、アカデミア向け冊子(Blanka)の特集として取り上げていただくことにもつながりました。エディテージ様には心より感謝いたしております。

助成金採択を目指す若手研究者の皆さんへのアドバイス

私自身も発展途上にあるので、大きなことは言えませんが...
(研究を継続したいのであれば)どんな状況にあっても諦めないことが大切かと思います。私自身も、職を失ったり、やむなく研究を中断したりする時期がありました。私の場合は、そのような状況下でも研究を続けたいという思いがあったので、論文執筆・投稿の手だけは止めませんでした。苦境に陥ることは辛いですが、ご自身は何に「幸せ」を感じるのかを見つめ直す機会にもなるのかもしれません。
その一方で、研究は一人だけで実施可能なものではございませんし、ご自身の研究業績を増やすことばかり捕らわれない方がよいのではないか、とも考えています。研究とは関係のない業務や、ご自身の興味の対象外となる事柄においても、学べることが多々あると感じています(私の場合は、ワンオペ家事・育児などから学ぶことが多いです)。若手研究者の場合でしたら、他者と積極的に意見交換なさったり、他の方の論文を添削したりすると、ご自身の文章や研究内容がブラッシュアップされていくかもしれません。
一緒に頑張りましょう。

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この記事を書いた人

エディテージはカクタス・コミュニケーションズが運営するサービスブランドです。学術論文校正・校閲、学術翻訳、論文投稿支援、テープ起こし・ナレーションといった全方位的な出版支援ソリューションを提供しています。

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