2023年の学術界の変化を振り返る

Looking back at shifts in 2023’s academic landscape

およそ3年にわたるコロナ禍が世界的に落ち着きを見せた2023年は、景気回復、海外旅行の再開、重要なイノベーションの機会をもたらす有望な年になると思われました。結果、さまざまな障害もありましたが、2023年は世界の研究・学術コミュニティにとって魅力的で生産的な年になるという期待に応えました。

AI革命が主流に

人工知能(AI)がバズワードになって久しいですが、2023年はAIツールが普及し、身近になった年として記憶されるかもしれません。

マイクロソフトはChatGPTのOpenAIに多額の投資を行い、EdgeブラウザやWindows自体も含め、自社製品に益々多くのAIベースのサービスを組み込んでいます。OpenAIはまた、汎用人工知能(AGI)、つまり人間と同じように知識を理解し、学習し、応用することができるコンピューターシステムに関する同社の研究プロジェクトであるQ*に関する憶測を鎮めています。Q*がAGIである可能性は低いものの、「真の」AGIの実現は科学の進歩にとって「シンギュラリティ(特異点)」の瞬間となる可能性があります。

学術論文の執筆や出版において、AI技術は、データ処理、文章編集、さらには編集上の決定を含む多くのタスクを支援しています。ただしAIが広く受け入れられている一方で、落とし穴も残っています。AIツールが剽窃やデータの捏造を助長しないようにするにはどうすればよいのか、依然として議論が続いています。

強さを増す中国の研究

米国は長い間、多くの指標において科学研究の世界をリードしており、依然として世界の優秀な研究者の多くが訪れている国であることに変わりはありません。しかし、中国の存在感はますます顕著になっており、今や多くの出版や引用の指標においてトップに立っています。さらに、中国の基礎研究の進歩は、応用にもつながっているようです。2023年、中国の旅客機C919が商業運航を開始し、半導体メーカーのSMICは米国の制裁にも関わらず7nmプロセスで製造したチップを販売しています。とはいえ、対米外交政策の曖昧さが増し、両国関係の緊迫化、さまざまな社会経済的苦境が、中国の長期的成長に水を差す可能性があります。2024年は、グローバル・チャレンジャーとしての中国の地位にとって、もうひとつの重要な岐路となるでしょう。

進歩するのは中国だけではない

中国の台頭はよく知られていますが、グローバル・サウスには他にも心強い進歩の兆しがあります。

インドの研究支出は中国に遅れをとっているかもしれませんが、研究成果や技術的専門知識の点では目覚ましい成長を遂げると共に、「世界の薬局」としての地位も確固たるものにしています。同様に、インドネシアのようなグローバル・サウスの他の人口の多い国も、先進国と比較して研究成果の目覚ましい成長を遂げており、より公平な研究を生み出す努力が成果を上げている可能性があることを示しています。

一方で先進国では、日本は科学技術における世界的リーダーであり続けていますが、通貨価値の下落や労働人口の減少により、日本の卓越性の継続が脅かされる可能性があります。

抵抗に直面する超伝導の主張

2023年の7月から8月にかけて、インターネットは室温超伝導を主張する結晶性物質LK-99の話題で持ちきりでした。韓国の研究チームが発表したプレプリントには、室温で抵抗ゼロである銅ドープ合成鉱物が記載されていました。もしそれが真実であることが証明されれば、この物質は人類の科学的偉業となる可能性があります。

この主張は、期待と懐疑が入り混じった形で受け止められました。最近の検証の試みでは、主張された特性を示すことができず、韓国のある団体は主張があり得ないと結論づけています。

オープンアクセスがさらに広がる

オープンアクセス(OA)は今後も益々広がっていくでしょう。より多くの大学やUK Research and Innovationのような政府助成機関がOA義務化を発表したり、拡大したりしており、JSTORのような大手ポータルサイトも、OAへの取り組みを発表しています。「研究者負担」モデルが定着しつつある今、OAにおける公平性の確保についての議論が増えています。

これまで以上に完全で個人的なヒトゲノムプロジェクト

真に完全なヒトゲノムを確立するために使用できるソフトウェアパイプラインであるVerkkoは、2022年にリリースされ、2023年に41の追加遺伝子の発見を含む完全なY染色体ゲノムのドラフトを公開するために使用されました。さらに、ヒトパンゲノムのドラフトが公開され、すべてのヒトゲノムで予想される遺伝子変異の99%以上がカバーされました。さらに、UK Biobankのデータセットが公開され、50万人以上の参加者の全ゲノム配列と臨床情報が示されました。トランスクリプトミクスとエピゲノミクスに関するさらに多くの研究とともに、2023年は個別化医療の発展にとって素晴らしい年となりました。

複雑な脳のコンピュータ・モデリングが現実になりつつある

ケンブリッジ大学とジョンズ・ホプキンス大学の研究者が、ショウジョウバエの幼虫の脳の完全なシナプスレベルのマップを作成しました。シナプス結合のいくつかの特徴は、最先端の機械学習アルゴリズムに似ています。一方、研究者たちは、哺乳類の脳のトランスクリプトームやエピゲノムのメカニズムについて、単一細胞レベルまで理解を深めてきました。複雑な脳マップを完成させることは、人工知能を向上させ、人間の脳のシナプスレベルのマップを実現する可能性さえあり、無数の応用が期待できます。

研究の誠実さが脚光を浴びる

研究は信頼に依存しています。世間の監視の目が厳しくなる中、研究者が正確で信頼できる研究結果を報告することは、これまで以上に重要になっています。残念なことに、研究の世界は最近、研究者と出版社の双方による不正行為で揺れています。

2023年には、神経科学者のMarc Tessier-Lavigneが、決定的な調査結果がなかったにもかかわらず、注目を集めた捏造スキャンダルを受けて、スタンフォード大学の学長を辞任しました。画像操作の検出により、研究者が隠れた不正行為を発見するための多くの手がかりを得られるケースが増えています。

同様に、非倫理的な出版は、依然として研究政策における最もホットなトピックのひとつであり、最近では主要な出版物でも取り上げられています。よりポジティブな点としては、不正論文詐欺であるPaper millsやハゲタカジャーナルに対抗する取り組みが、より注目されるようになっていることです。

2024年以降の展望

誰も未来を見ることはできませんが、AIとその応用はおそらくホットな話題であり続けるでしょう。同様に、研究が減速する兆しもありません。しかし、パンデミックやウクライナやガザで現在進行中の危機のように、大きな混乱はいつでも起こりうるものであり、研究に影響を与える可能性があります。研究と学術界の健全性を確保するには、将来の地政学、気候、経済危機にどのように対応するかが極めて重要です。


この記事はEditage Insights 英語版に掲載されていた記事の翻訳です。Editage Insights ではこの他にも学術研究と学術出版に関する膨大な無料リソースを提供していますのでこちらもぜひご覧ください。

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この記事を書いた人

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