プレプリントを研究に活用する方法

How to leverage preprints in your research

アカデミアにおける「Publish or Perish(出版するか、消滅するか)」の文化は、間違いなく容赦のないものです。自分の研究を検証し、生産性を証明することがなければ、キャリアを前進させることはできません。少なくとも、質の高い研究を行うスキルと知識があることを証明する必要があります。査読付き研究論文は、まさにそのことを証明する手段の一つですが、論文を出版するには、リジェクト、修正、再投稿を何度も繰り返し、出版されるまでに数週間から数年かかることもあります。では、その代替案は何でしょうか?それが「プレプリント」です。

プレプリントとは、インターネット上で公開される、査読される前の科学論文の暫定版のことで、誰でも自由にアクセスできます。つまり、ジャーナルに投稿する準備ができた草稿があれば、適切なプレプリント・サーバーにアップロードし、基本的な審査手順を踏むことで、簡単に出版できます。このプロセスは、従来の出版よりもはるかに迅速で、それほど難しくはありません。わずか数日で、同僚だけでなく、資金提供機関や将来の雇用主とも、あなたの研究を共有することができます。

プレプリントのメリット

プレプリントとして論文を発表するプロセスは、とても迅速で簡単です。研究結果が古くなる前に、まだ興奮冷めやらぬうちに、研究結果を世界と共有することができます(オープンアクセス)。プレプリントにはDOI(デジタルコンテンツに付与される識別子)を利用してタイムスタンプされており、誰でもアクセスして確認することができるため、研究結果やアイデアの優先順位を確立するのに役立ちます。それだけでなく、ほかにもプレプリントには多くのメリットがあります。

プレプリントが後に査読付きジャーナルに掲載された場合、プレプリントとして掲載されなかった場合よりも引用される可能性が高くなります。対応するジャーナル論文の引用回数を増やすのです。実際、プレプリントのある論文は、Altimetric Attention Scoresやソーシャルメディアでの注目度が高いことも観察されており、履歴書に見栄えがするだけでなく、知名度が向上し、ネットワーキングが促進されます。仕事のオファーや魅力的な共同研究の提案を受ける可能性もあります。

自分の専門分野のプレプリントをフォローすることで、様々な研究室の最新の研究成果を把握するのに役立ちます。これにより、興味のある研究室を特定できるだけでなく、その分野の最新の研究についても常に情報を得ることができ、面接の際に非常に役立ちます。こうして得た知識(新たに発見された結果、方法論、または新しい化合物に関する洞察など)は、自分の研究計画を立てる際にも大いに役立ちます。

プレプリントは、オープンアクセスのプラットフォームとして、解説や議論も促進します。より幅広い専門家が、あなたが考えもしなかったような新鮮な視点や、あなたの研究に対する懸念を提供してくれる可能性があります。これにより、より権威のあるジャーナルに投稿する前に、論文を改善することができます。また、自分の専門分野の他のプレプリントの解説に参加することで、自分の査読スキルを磨き、他の研究に意見や洞察を提供し、知識のベースを広げることができます。

多くの著名な資金提供機関や研究機関も、研究者が助成金の申請書や報告書にプレプリントを含めることを認め始めています。いくつかのジャーナルも、著者が自分の研究をプレプリントとして出版することを奨励し始めています。

また、ジャーナルに掲載される論文とは異なり、ほとんどのプレプリント・サーバーでは、論文を修正し、再分析、訂正、新しいデータセット、拡張された考察、その他の補足情報を提供することができ、各改訂は前後のバージョンにリンクされています。多くのジャーナルでは推奨されていない否定的な結果や無効な結果も、プレプリントとして出版することができます。

人気のプレプリントサービス

MedRxivは、医学・臨床・健康科学のためのプレプリント・サーバーで、他の多くのサーバーよりも厳しいスクリーニング・メカニズムを採用しています。

bioRxivは、生物科学分野のプレプリント・サーバーで、こちらも厳格なスクリーニング・メカニズムを採用しています。

SSRN(Social Science Research Network)は、現在はElsevierに買収されたプレプリント・サーバーで、主に社会科学を専門としていますが、他の科学分野も含むように多様化しています。

engrXivは、工学に関するあらゆるトピックのプレプリントを受け入れるプレプリント・サーバーです。

ChemRxivは化学とその関連分野のプレプリント・サーバーです。

SocArXivは、社会科学と人文科学分野のプレプリントを受け入れるプレプリント・サーバーです。

Preprints.orgは、あらゆる科学技術分野の科学論文を受け入れるプレプリント・サーバーです。

他にもEarthArXiv、AgriXiv、LawArXiv、PsyArXiv、PaleorXiv、SportRxiv、AfricArxiv、IndiArxiv、INArxiv、Arabixivなど、さまざまな研究分野や地域、言語に特化したものが数多くあります。

若手研究者としてプレプリントを採用する必要があるのはなぜですか?

キャリアのどの段階にいても、プレプリントを利用することで最新の研究を常に把握し、自分の研究を即座に世界と共有し、同僚からフィードバックを得るのに役立ちます。また、同僚の研究をレビューし、それに対するあなたの考えや洞察を共有できるプラットフォームを提供することで、人脈を広げ、プロフェッショナルな関係を築くことができます。プレプリントは、世界中の研究者が何を発見しているかをリアルタイムで垣間見せてくれます。これにより、競争相手の一歩先を行き、専門知識を向上させることができます。

特にあなたが若手研究者の場合、プレプリントの最も優れている点は間違いなくスピードです。あなたには永久雇用という贅沢はありません。次のポジションに進むためには、自分の研究成果を迅速に示す必要があります。プレプリントは、あなたの研究を素早く発表するためのプラットフォームを提供します。たとえ、その研究結果がそれほど目を見張るようなものでなくても、パラダイムを変えるようなものでないとしても、です。料金を支払うことなく、あなたの論文はDOIと共にオープンアクセスで公開されます。

同僚から受け取るフィードバック(プレプリントをソーシャルメディアで共有すると、その可能性は高くなります)は、論文を改善したり、今後の面接の準備に役立ちます。そして、もし時間があれば、当初予定していたよりも充実した論文を、より権威のあるジャーナルに投稿することもできます。なぜなら、あなたの研究はすでにレビューされ、改善されているため、アクセプトされる可能性が高くなるからです。

今後の展望

もちろん、プレプリントにも欠点はあります。それは、論文が発表される前に査読がないことです。欠陥のある研究やコミュニケーションが一般に広まり、誤った情報の拡散を引き起こす可能性があります。とはいえ、このような欠点があるにもかかわらず、プレプリントはますます人気が高まっているため、将来的には科学出版においてさらに重要な役割を果たすようになるかもしれません。今日のジャーナルや学術出版社は、プレプリントを脅威とみなすのではなく、受け入れ、支持をし始めています。

プレプリントは、査読や出版プロセス全般において、その迅速性、公開性、透明性が受け入れられており、説明責任に直接的な影響を及ぼしています。著者も査読者も、すべてが公開され、実名で発表されるため、自分たちの仕事や言葉が可能な限り正確であることを保証する必要があります。これは、従来の出版方法とはまったく異なり、論文と査読の両方の質が向上します。

多くのジャーナルのプロセスは現在、編集または出版プロセスの一部としてプレプリントと統合されています。eLifeは、査読後の採否決定をなくす出版プロセスを発表しました。その代わりに、査読したすべての論文をReviewed Preprintとして出版することを提案しています。Open Journal of Astrophysicsは、arXivに論文が掲載されている著者に、ジャーナルに論文を投稿するよう提案し、ジャーナルは従来の査読を提供します。論文がアクセプトされた場合、その論文はジャーナル内で出版されたものとみなされますが、ジャーナルのサイトでは概要のみが提供され、最終的な論文はarXivにリンクされます。

Cell Pressでは、SSRN(Social Science Research Network)にホストされているプレプリント・サーバーであるCell Press Sneak Peekに、投稿論文を査読中に掲載することができるようになりました。PLOSのジャーナルでは、査読期間中、著者に代わって投稿論文をbioRxivまたはmedRxivにアップロードするオプシを用意しています。Lancet系列のジャーナルは、著者が選択した場合、すべての投稿論文をSSRNのPreprints with The Lancetにアップロードします。

ASAPbioとEMBOは、Review Commonsを立ち上げました。これにより、bioRxivに論文をアップロードした著者は、EMBO編集部に査読を依頼することができ、査読結果はbioRxivに掲載されます。査読後、著者は修正/未修整の論文を17の参加ジャーナルのいずれかに投稿することができ、ジャーナルは元の論文に寄せられた査読に基づいて論文をアクセプトまたはリジェクトすることができます。

結論

プレプリントは、科学研究の普及方法を確実に変えつつあります。まだ試したことがないのであれば、評判が良く、自分の専門分野に対応しているプレプリント・サーバーをいくつか選ぶことから始めてみましょう。これらのサーバーで毎日いくつかの論文を読んでみてください。そして著者にコメントし、質問し、交流しましょう。その経験をもとに、自分の研究においてプレプリントを試してみるかどうかを判断し、研究にプレプリントを活用するかどうか、十分な情報を得たうえで選択してください。


この記事はEditage Insights 英語版に掲載されていた記事の翻訳です。Editage Insights ではこの他にも学術研究と学術出版に関する膨大な無料リソースを提供していますのでこちらもぜひご覧ください。

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この記事を書いた人

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