NASAには、宇宙から地球を観測する衛星が何十機もあります。これらの衛星は、気候変動から天気予報、災害管理、資源探査など、幅広い分野のデータを監視し、中継しています。これらの衛星のうち 2 基に搭載されている観測機器、中分解能画像分光放射計(MODIS)の機能を見てみましょう。MODISは膨大な量のデータを取得します。地球上で反射した光(各バンド内)の強度を測定することで、電磁スペクトル(電磁波の連続的な連なり)にまたがる36のスペクトルバンド(周波数帯域)にわたるデータを取得することができるのです。この場合のデータは、つまるところビッグデータです。
大規模で複雑なデータセットを扱うには、大量のデータスクラビング(データの修正・削除)とデータ解析が必要となります。データを理解し、パターンや傾向を特定し、洞察を得るためには、アルゴリズムやカスタムソフトウェアを使用する必要があります。そのような場合でも、視覚的な表現は、数字の配列よりもはるかに多くの視点を提供することができるのではないでしょうか。
考えてみましょう。気候変動が海洋に与える影響を研究しようとします。あなたはまず、地球の海域全体の植物プランクトン被度を数年にわたって分析することから始めます。これにはNASAのMODISが役立ちます。しかし、(地球の海洋のさまざまな地点に対応する)異なる座標、異なるタイムスタンプ、数年間の青緑色領域の光強度に相関する数十億行の数字を扱うことを想像してください。これを、時間の経過に伴う植物プランクトンの被覆率の変動を示すアニメーションマップと比較したらどうでしょうか?
2002年7月から2017年3月までの海の色– NASA Aqua satellite
さらに良いのは、たとえば海面温度などの二次データセットを別の配色で直接このアニメーションに重ね合わせることができると想像してみてください。もちろん、行や列やグラフのデータは多くのことを教えてくれます。しかし、ビジュアルはどうでしょう? ビジュアルは、データを分析するために見るべき方向を教えてくれます。また、それを見なければ気づかなかったような傾向やつながりを明らかにしてくれます。これこそがサイエンスビジュアリゼーションの力です。
サイエンスビジュアリゼーションの応用
もちろん、ビッグデータの分析はサイエンスビジュアリゼーションの非常に強力な応用であることは間違いありませんが、その価値はそれだけにとどまりません。この多面的なアプローチは、複雑な科学的概念をさまざまな対象者のために簡素化し、より深い理解と関与を促すユニークな能力を持っています。その影響は、以下のような様々な重要な分野に及んでいます。
研究の推進
サイエンスビジュアリゼーションは、必ずしも複雑なアルゴリズムやコードの羅列によって生成される必要はありません。シンプルな手描きの棒グラフ、散布図、ヒートマップなども、データ分析や解釈のツールとして役立ちます。例えば、この酵母の有糸分裂紡錘体のイラストは、科学者とアーティストの2年にわたる素晴らしいコラボレーションの末に考案されたもので、これもサイエンスビジュアリゼーションといえます。また、こちらのインフォグラフィックは、120年以上にわたるミツバチと植物の相互作用に関する研究の膨大なデータから苦労して掘り起こして作られたものです。未熟なキュウリの皮にあるトリコームの顕微鏡写真も同様です。
視覚化にはいろいろな種類や形式がありますが、必要なのは、そうでなければ見逃してしまうような画像を目の前に表示し、それによって新しいアイデアや仮説を生み出すためのツールとして役立つことです。理解、解釈、探求を可能にし、斬新で偶然的な研究の方向性を導くことさえあります。
視覚化は、専門外の研究から得られた興味深いデータや情報を理解するのにも役立ちます。このような事例は、非常に実りある学際的な共同研究にもつながるでしょう。また、ビッグデータに関する限り、ゲノム、素粒子物理学、天文学、神経科学などの研究において、視覚化は非常に貴重です。サイエンスビジュアリゼーションがさまざまな分野の研究者にどのように利用されているか、いくつかの例を見てみましょう。
・分子生物学:サイエンスビジュアリゼーションは分子の3Dモデルを作成するために使われます。たとえば、スクリプス研究所の研究チームは、ある特定のHIV株が、他の株には有効なHIVプロテアーゼ薬に耐性を示す理由を解明しようとしました。変異したHIVプロテアーゼの顕微鏡画像から有効な手がかりが得られなかったため、研究チームは分子のコンピューター・シミュレーションを作成することにしました。この視覚化によって、なぜ薬が結合しないのかを解明することができただけでなく、変異タンパク質に結合できる可能性のある新しい化合物を特定し、新しいクラスのエイズ治療薬の基礎を築くことができました。
・材料科学:電子顕微鏡データとコンピューター・モデリング・シミュレーションを組み合わせると、特定の特性を持つ新材料を設計するための強力なツールとなり得ます。スタンフォード大学の研究者たちは最近、半導体ポリマーの研究でこの可能性を実証しました。彼らの研究では、このポリマー内の特定の構造変化が電気伝導性を向上させる可能性があることが示されました。このような場合、視覚化インターフェースはバーチャルな実験室となります。
・天文学:天文学におけるサイエンスビジュアリゼーションは、宇宙に関する興味深い発見を解き明かしつつあります。たとえば、最近の研究では、Gaia(天文観測ミッション)のデータを高度な視覚化ツールと組み合わせることで、科学者たちは銀河系の近隣の進化の歴史についてより深い理解を得ています。このアプローチによって、「Local Bubble」として知られる広大なバブル(一連の超新星爆発によって引き起こされた星間ガスの外向きの動きによって形成される広大な空間領域)の形成と影響が明らかになりました。
・その他の分野:気象パターンの複雑なダイナミクスの理解から、製造プロセスの最適化、マルチモーダルな医療データの分析、伝染病の蔓延の追跡まで、サイエンスビジュアリゼーションは科学的プロセスに革命をもたらし、発見を加速させています。
教育の補足
学習を支援するインタラクティブで没入型のテクノロジーの多くは、サイエンスビジュアリゼーションの進歩から生まれています。解剖学の3Dアトラス、ChemTube3D、インタラクティブ地質学プロジェクトなどがその例です。筆者は大学時代、教師が初めて『The Inner Life of the Cell』というアニメーションビデオを見せてくれたときのことを鮮明に覚えています。このビデオは、「肉眼では見ることのできない」概念を説明する、映画のようなサイエンスビジュアリゼーションの一例であることを、今では理解できます。これまでは想像することしかできなかった3Dの概念を目の当たりにし、このような活動が私たちの細胞の中で常に繰り広げられていることを認識したことは、私にとって忘れられない教育の思い出となりました。概念についてより深く理解することができたことで学習意欲が向上しましたし、さらに重要なことは、この科目と科学全般に対する関心が高まりました。これこそが、教育におけるビジュアライゼーションの変革力といえます。
大衆の啓蒙、政策立案者への提言
視覚化は、一般大衆の関心を引くためにコミュニケーターが採用する、科学を広めるための一般的な手段です。インフォグラフィック、写真、ビデオ、アニメーションなど、これらの視覚メディアはすべてストーリーテリングに役立ちます。専門家でない人々(専門家も含む)の興味をかき立て、周囲の世界への関心と好奇心を喚起します。これらの視覚化はまた、科学者と一般の人々との間のコミュニケーションギャップを埋め、世論を啓発し、政策決定に影響を与えるという貴重な役割も果たします。
例えば、COVID-19パンデミックの際、インドのケララ州は「感染曲線を平坦化」するために非常に効果的にビジュアライゼーションを使用しました。他の戦略の中でも、地元政府は初期患者が訪れた場所を示すルートマップを公開し、その後、接触者の追跡を行ないました。これらのグラフィカルなフローチャートは、ニュースチャンネルやソーシャルメディアネットワークで自由に共有され、州は接触者を迅速に特定し、隔離することができました。視覚化アプローチにより、政府はこのグラフィックをより多くの人々に広めることができたのです。感染者の一次および二次接触者を効率的に特定し、無症状の人を隔離し、症状のある患者を検査することで、さらなる感染拡大の可能性を大幅に減らすことに成功しました。
結論
サイエンスビジュアリゼーションは、従来のテキスト形式と比較して、情報処理を大幅に向上させます。複雑なデータセットの全体を1つの2Dフレームで把握することができるため、大量のテキストや数字を頭の中で解読して分析する必要がなくなります。
あなたの研究を視覚的に説得力のある形で表現することで、周囲に差をつけ、読者を魅了しましょう! エディテージのグラフィカルアブストラクトサービスに、研究ストーリーを伝える2Dや3Dのグラフィカルアブストラクトをお任せください。
この記事はEditage Insights 英語版に掲載されていた記事の翻訳です。Editage Insights ではこの他にも学術研究と学術出版に関する膨大な無料リソースを提供していますのでこちらもぜひご覧ください。
エディテージのグラフィカルアブストラクト制作サービスは、あなたの論文とターゲットジャーナルをお知らせいただくだけで、投稿ガイドラインに合わせたグラフィカルアブストラクトを制作しますので、イメージの制作が不慣れな方やお時間のない方、また研究発表後により多くの方の目に触れるようにしたい、と考えている方は、ぜひこの機会にサービスをご検討ください。
グラフィカルアブストラクト制作サービスはこちらから