「質量分析イメージングを通した研究で、持続的な食糧供給に貢献したい」 帝京大学理工学部バイオサイエンス学科、榎元廣文准教授インタビュー

質量分析イメージングという手法を用いて、食品に含まれる成分の測定を行ない、食品の可能性を広げているのが、帝京大学理工学部バイオサイエンス学科、榎元廣文准教授。その手法で世界の食料供給問題にも取り組む榎元先生に、研究職を目指したきっかけや、質量分析イメージングを研究テーマにした理由、今後の研究テーマの予定などについてうかがいました。貴重なお話をぜひご覧ください。

榎元廣文准教授プロフィール

帝京大学 理工学部バイオサイエンス学科、食品科学研究室 准教授(PI)(兼任)先端機器分析センター 准教授

鹿児島県、種子島出身。
錦江湾高校理数科卒業後、鹿児島大学農学部生物資源化学科に進学し、3年後期から食品化学研究室(青木孝良教授)に所属。さらに、同大学院農学研究科(修士課程)修了、および連合農学研究科(博士課程)修了し、2009年3月に博士(農学)を取得。また、博士課程時に日本学術振興会特別研究員(鹿児島大学)に採用される。
その後、浜松医科大学分子イメージング先端研究センター分子解剖学研究部門(瀬藤光利教授)の特任研究員時に質量分析イメージングを学び、2011年より帝京大学理工学部バイオサイエンス学科助教、2013年より同学科講師、2019年より同学科准教授として食品科学分野の教育・研究を担当。また、2018年度より同大学先端機器分析センターにて質量分析イメージングを担当している。
専門は食品化学、質量分析。

― エディテージが20周年を迎えました。ぜひ一言コメントをいただけますか?

創業20周年、おめでとうございます。エディテージは、利用し始めたのが2010年からですから、もう13年も利用しています。大学教員になると論文を書く以外の、研究以外の時間もたくさんあり、なかなか論文を書くのは大変なのですが、エディテージのサポートのおかげで毎年1~2本ペースでずっと安定して出すことができており、すごく助かっています。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

― 先生が研究職を目指したきっかけはなんだったのでしょうか?

思い返してみますと、まず大学4年生の時に研究室に入りましたが、その時はまだ研究職というのは全然考えておらず、とりあえず何か専門性を生かした仕事がしたいというのがあったので、大学院に行こうと思いました。大学院に行ってからは、専門性を生かした仕事がしたいという気持ちがより強くなったのと、指導していただいた先生がとてもしっかりとした方だったのが大きかったと思います。自由もあって、世の中の役にも立って、専門性も生かせるということで、やはり研究職を目指そうと決めたのは、大学院を出た頃ですね。

― 榎元先生と言えば、質量分析イメージングを用いた食品の分析で知られていますが、その研究テーマにたどり着いた経緯はどのようなものだったのでしょうか?

学生の頃に食品の研究をやっていたので、食品に関する知識は元々ありましたが、食品の研究をするには、食品の中にどんなものが入っているかなど、その分析をすることがとても重要なんです。その食品が生体に対して影響を与える場合、その影響を評価するのは遺伝子だったり、タンパク質だったり、そういうものを測って評価しないといけません。ですので、いろいろなものを「測れる」ということは、すごく強力だなとずっと思っていました、

大学院生の頃は、「この成分を測るためにこの分析法を覚える、あの成分を測るためにあの分析法を覚える」といった感じで、いろいろな分析法ができるようになるのがうれしくて、どんどん身につけていこうと取り組んでいました。

その後、博士課程を卒業してポスドクで行くとなった時に、やはり今までやってきたことと違うことをやる必要があると思ったんです。今までと違うことをやることで、今までやってきたこととリンクして、新しい分野ができるのではないかと。そういうオリジナリティのある研究ができるところがないかと、ポスドク先を探していたところ、ちょうど浜松医科大学が「質量分析を使ったイメージングで、かつ農学研究をやってくれる人」という、とても魅力的なテーマで募集していたので、そこに応募しました。

― そこで質量分析イメージングに出会ったのですね。質量分析イメージングには、どのような特徴があるのですか?

質量分析イメージングをやってみてわかったのは、「質量分析」はそもそも分子の質量を測るものなのですが、質量のない分子はありません。つまり、なんでも測ることができるんです。それまで、「これを測るためにこの分析法、あれを測るためにあの分析法」といろいろ覚えていたのが、質量分析イメージングだけでほとんどカバーできるということがわかってしまいました。生物学的な研究、食品もですけれど、その目的のものに「何が入っているのか」、「それがどれくらい入っているのか」、「それがどこにあるのか」、この3つでほぼ全てのテクニカルなアプリケーションを満たせてしまうんですよね。測れる分子に制限がなく、その3つのアプリケーションを満たしているという点で、「質量分析イメージング」でほぼすべてがいけるのではないかと。そうして、食品の研究を質量分析イメージングでやるという今の分野に行きついたというわけです。

― エディテージのサービスを初めにご利用いただいたきっかけと、利用し続けていただいている理由はなんでしょうか。

帝京大学に来る前は、先ほどお話ししたように浜松医科大学の、今はもう名前が変わってしまいましたが、分子イメージング先端研究センターというところでポスドク、博士研究員をやっていました。そこのラボがエディテージを利用しており、そこで初めてエディテージに出会いました。浜松医科大学のこのラボは、その当時、質量分析イメージング(マスイメージング)では世界的なビッグラボのひとつでしたから、そこが採用している英文校正会社であれば質として問題ないだろうと利用させてもらったのが始まりです。そちらを出て、帝京大学に来てからも利用しています。

自分が独立してから利用回数はかなり増えましたが、そこでわかったのは「エディテージの英文校正の質は相当高い」ということ。この学科の研究室は1教員体制となっており、複数の教員がいれば論文をお互いに見合わせて直すこともできると思いますが、1人ですので、なかなか難しい。そうすると、かなり質の高い人に本気で見てもらう必要があります。そこで、本気の人が質の高いレベルで見てくれるところを探していたら、エディテージはまさに最適の選択肢だったというわけです。

僕はネイティブではないので、自分の書く英語の文章は稚拙だと自覚していますが、英文校正に出す時に大事だと思っているのは、「自分が何を言いたいのかが校正者にわかるぐらいには書かないといけない」ということ。そこまで書ければ、あとはエディテージが、それをよりネイティブに伝わるような書き方で、インパクトがあり、読む人がおもしろいと思える書き方に変えてくれます。それらをしっかりと満たしてくれるエディテージのプレミアム英文校正は、やはりいいなと思いますね。

― 質量分析イメージングを用いて研究の幅をどんどん広げている榎元先生ですが、今後はどのような研究テーマに取り組んでいく予定ですか?

皆さんも「SDGs」をよく耳にするようになっていると思いますが、今年(2022年)に地球の人口は80億人を超え、2050年には97億人を超えるといわれています。そのため、地球環境だけでなく、食料の供給についても危惧されている状態です。今後も、昔の「緑の革命」のような技術的な革命が起きない限りは、おそらく食料の供給は難しくなっていくでしょう。

私たちがよく食べている食品の中で、今後の供給が難しくなってくるだろうと考えられているもののひとつに「魚介類」が挙げられます。魚介類はDHAやEPAが豊富で、私たちの健康にとって有用なものであることが知られており、魚介類から抽出される「魚油」という油は、食品や医薬品などに現在利用されています。一方で数年前から、世界的な人口増加と乱獲のために、地球で再生産可能な魚類の量よりも、人が獲る量のほうが増えたといわれています。今後もそれが変わらない限りは、どんどん魚が獲れる量は減ってきますので、結果として魚油は、機能性食品としての利用は厳しくなってくるのではないでしょうか。

その対策として、今からしっかり、より持続性の高い食品で、魚油に代わるような機能性食品を開発しておきたいと思っています。現在は植物、主に豆が中心ですが、「オキシリピン」という、魚油のDHAやEPAの機能性に近いようなものがありそうだということがわかってきました。それも質量分析イメージングを使って発見したのですが、それを魚油に類する、「代わる」というとちょっと言い過ぎかもしれませんので、類するような機能性食品として利用できるよう、研究を進めていきたいと考えています。

― なるほど、これまで食べられてきたものに代わるようなものを探すうえでも、質量分析イメージングが役立つというわけですね。

そうですね。食料の供給の問題でもうひとつ、世界の穀物は今現在で3割程度はカビ毒に汚染されていると試算されています。カビ毒の汚染が発覚した時点で廃棄されますので、その経済的損失は大きいですし、そのぶん食料として利用できる量も減ってしまいます。その一方で、穀物の中でカビ毒がどこにあるかは全くわかっていません。そこで思ったのが、もし穀物の中のどこにカビ毒があるのかがわかれば、そこを除くことで利用できるのではないかと。例えばお米は、玄米を精米して真ん中だけを利用していますよね。ですので、例えばカビ毒が外側にだけあるということがはっきりすれば、そこを除いて利用できるかもしれません。それにより食品ロスを防き、結果として食料の供給量を増やすことができます。さらには、カビ毒による健康被害を防ぐことも。それらを目指して、質量分析イメージングによる穀物のカビ毒の解析というのも進めています。

これらの他にもいろいろと考えていることはあるのですが、全体としては「持続的な食糧供給」に貢献できるような研究を、質量分析イメージングを通して行なっていきたい、そのように考えています。

―本日は貴重なお話をありがとうございました。

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この記事を書いた人

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