世界の大学による生成型AIツール利用のガイドライン

Guidelines for generative AI use from universities worldwide

OpenAI が開発した人工知能(AI)を活用したチャットボットである「ChatGPT」は、2022年11月のローンチと同時に大きな反響を呼びました。リリースからわずか 2か月でユーザー数は1億人に達しましたが、これは消費者向けアプリとしては前例のない成長速度です1。MetaやGoogleといったハイテク企業は、より強力な新しいAIツールの開発を目指し、それぞれのAIツールLlaMAとBardを発表しました2,3

このような生成型AIツールは、アルゴリズムを使用し、ユーザーによって提供されたプロンプトに基づいて、エッセイ、詩、画像、コンピュータコードなどの出力を作成します。AIツールは、ユーザーがプロンプトを入力するとあっという間にこの出力を生成することができるのです。

この能力により、AIツールは、エッセイの執筆やイラストの作成、さらには本の執筆にも使われています。2023年2月の時点で、Amazon ブックストアにある 書籍の中で、200 冊を超える書籍に著者または共著者としてChatGPTが記載されていると報告されました4。 BestCollegesが2023年3月に実施した調査によると、AIツールを使用したことがあると回答した大学生のうち、50%が課題や試験のためにAIツールを使用したと回答しています5

教育におけるAIツールの利点

AIツールは、生徒がスペルや文法の間違いを修正し、読みやすく間違いのない内容にしたり、英語を話さない生徒が文章を翻訳したりするのを助けることができます。また、多くのAIツールは学生に貴重なフィードバックの提供や、弱点を特定し、ライティングスキルを磨く手助けをすることもできます6。このように AIツールを有益に活用することで、英語力が低い生徒のストレスを軽減することが可能です。

AIツール利用における主な懸念事項

とはいえ、学生によるAIツールの利用に懸念がないわけではありません。生成型 AI ツールによって生成された出力の正確性を検証する方法がないことに加えて、学者たちは、AI ツールによって生成されたテキストを使用することは盗作に匹敵するのではないかと懸念しています7。BestCollegesの調査では、調査に参加した学生の51%が、課題や試験のためにAIツールを使用することは不正行為に当たるのではないか、と懸念していると回答しました5。AI ツールは盗作防止ソフトウェアを回避できる可能性があるため、学術界で懸念が生じているのです。教育者はまた、学生が生成型AI ツールに過度に依存すると、文章作成スキルや批判的思考スキルの低下につながる可能性があると指摘しています8。こうした懸念に加え、大学側はAIツールが情報セキュリティ、データプライバシー、著作権に関するリスクをもたらす可能性があると指摘しています9

生成型AIツール利用に対する世界の大学の反応

多くの大学が課題や試験でのAIツールの使用を学術上の不正行為としている一方、盗作ポリシーやAI使用ガイドラインを見直している大学もあります8。BestCollegesの調査では、参加者の31%が、指導者、教材、または学校のオーナーコードにより、AIツールの使用を禁止していると回答しました5

オーストラリアの大学の中には、学生がVPNや他の技術を使うことで制限を回避できるため、AIツールを禁止することは実現不可能ではないかと認識しているところもあります。そのため、彼らは評価方法を見直し、昔ながらのペンと紙による筆記試験にシフトしています10

米国と英国の大学は、AIツールの有用性を広く認識しており、その使用に関するガイドラインを策定しています。学生に対しては、アカデミック・インテグリティの原則に基づいてAIツールを使用するよう指導し、偏った情報や不正確な情報の提供、データプライバシーの漏洩など、AIツールがもたらすリスクについて注意を促しています。ほとんどの大学のガイドラインは、学習支援や新しいトピックの探求のために学生がAIを使用することを認める一方で、生成型AIツールの出力をコピーペーストすることは禁止しています9,11-13

インドの一部の大学では、学生がAIツールに依存することを防ぐための対策を模索する一方で、生産性を高めるために一部の作業については使用を許可しています。しかし、一部の大学ではAIツールの使用を禁止しており、学生は評価のためにオリジナルの課題を提出するよう指示されています。学生がオリジナルの課題を提出したかどうかを監視するため、大学は、学生が課題の中で作業を再現できるかどうかを無作為にチェックするよう教員に指示しています14

一方、ブラジル、チリ、コロンビアの一部の大学生や教師は、日常的に生成型AIツールを使用して、執筆、編集、コーディングを行ない、学習を促進し、作業負荷を軽減しています。これらの大学は、AIツールの使用を禁止したり制限したりするのではなく、学生が責任を持って使用することを奨励しています15

日本の文部科学省は、小・中・高等学校における生成型AIツールの使用を教室でのディスカッションのアイデア開発に限定するガイドラインを発表し、大学に対しては生成型AIツールの利用について独自の方針を策定するよう指示しました。一部の大学では、教員や学生にテクノロジーの有用性と限界を理解するよう促している一方で、著作権侵害や情報漏洩、剽窃などのリスクを理由にAIの利用に制限を設けています。また、策定されたガイドラインでは、学生が学力を測る試験で生成型AIツールを使用することを禁止しています16

今後の方向性

全体として、いくつかの欠点はあるものの、AIツールには教育において無視できない利点があります。そのため、研究者たちは大学や教育機関に対し、ガイドラインを策定する際に潜在的な利点を慎重に評価し、AIのリスクと比較検討するよう求めています6

一般的な意見としては、策定されたガイドラインに従うことで、学生や研究者はAIの利点を活用しながら、安全で責任ある倫理的な利用を確保することができるというものです。この分野は急速に進化しており、ハイテク企業はより新しく優れたバージョンのAIツールを発表しているため、ガイドラインは定期的に更新されていくことでしょう。

参考文献

1. Milmo, D. ChatGPT reaches 100 million users two months after launch. The Guardian (2023).

2. What’s the next word in large language models? Nat. Mach. Intell. 5, 331–332 (2023).

3. Knight, W. Meet Bard, Google’s Answer to ChatGPT. Wired.

4. More than 200 books in Amazon’s bookstore have ChatGPT listed as an author or coauthor | Business Insider India. Business Insider https://www.businessinsider.in/tech/news/more-than-200-books-in-amazons-bookstore-have-chatgpt-listed-as-an-author-or-coauthor/articleshow/98157910.cms.

5. Half of College Students Say Using AI Is Cheating | BestColleges. https://www.bestcolleges.com/research/college-students-ai-tools-survey/.

6. Wang, T. et al. Exploring the Potential Impact of Artificial Intelligence (AI) on International Students in Higher Education: Generative AI, Chatbots, Analytics, and International Student Success. Appl. Sci. 13, 6716 (2023).

7. Milano, S., McGrane, J. A. & Leonelli, S. Large language models challenge the future of higher education. Nat. Mach. Intell. 5, 333–334 (2023).

8. Chan, C. K. Y. A comprehensive AI policy education framework for university teaching and learning. Int. J. Educ. Technol. High. Educ. 20, 38 (2023).

9. Guidelines for Using ChatGPT and other Generative AI tools at Harvard. https://provost.harvard.edu/guidelines-using-chatgpt-and-other-generative-ai-tools-harvard.

10. Cassidy, C. Australian universities to return to ‘pen and paper’ exams after students caught using AI to write essays. The Guardian (2023).

11. Guidelines for the secure and ethical use of Artificial Intelligence | IT Security – The University of Iowa. https://itsecurity.uiowa.edu/guidelines-secure-and-ethical-use-artificial-intelligence.

12. Artificial Intelligence | Research Integrity and Assurance. https://researchintegrity.asu.edu/export-controls-and-security/artificial-intelligence.

13. Guidance on the Use of Artificial Intelligence (AI) | Articles. University of Greenwich https://www.gre.ac.uk/articles/public-relations/guidance-on-the-use-of-artificial-intelligence-ai.

14. Bengaluru colleges ban use of ChatGPT, the AI agent that passes exams, writes assignments. TimesNow https://www.timesnownews.com/bengaluru/bengaluru-colleges-ban-use-of-chatgpt-the-ai-agent-that-passes-exams-writes-assignments-article-97395928 (2023).

15. Latin American universities embrace ChatGPT despite cheating fears. The Economic Times (2023).

16. Author, N. Education ministry guidelines to allow limited use of generative AI in classrooms. The Japan Times https://www.japantimes.co.jp/news/2023/06/22/national/school-ai-use/ (2023).


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