データからも明らかなように(The data have been clear)――ほぼすべての学術分野で、毎年発表される研究の数は顕著に増加しています。このような環境では、自分の研究の新規性と重要性を明確にし、目立たせることがこれまで以上に重要です。研究者がカバーレター、アブストラクト、結論のセクションを作成するたびに、「新しい発見(novel finding)」、「パラダイムシフト(paradigm shift)」、「非常に有望(highly promising)」といったフレーズが頻繁に出てくるため、ライターも編集者もそれらのフレーズの使いすぎを心配しています。この記事では、よく使われる言葉の選択が、研究のインパクトにどのように役立つのか、あるいは妨げになるのか、また、文章の中で決まり文句をどのように扱うのかについて見ていきます。
言葉選びの重要性
どんな学術的なトピックであっても、文章を書く際には正確、明瞭、明確であることが重要です。これは、英語を母国語としない読者を含む幅広い読者にとってわかりやすい文章を書くためだけでなく、情報を効率よく、インパクトを持って伝えるためでもあります。インパクトのある文章は、論文の最終的な読者が研究の主な要点を理解するのに役立ち、投稿が査読者やジャーナル編集者などの”関門”を通過する最良のチャンスを与えます。それだけで決まるわけではありませんが、言葉の選択は、論文出版の見通し、ひいてはキャリアに影響を与える可能性があります。そのため研究者はインパクトを高めようとし、多くの論文で特定のフレーズを再利用する傾向があります。ただし、特定のフレーズの中には悪影響を及ぼすものもあります。
科学論文における決まり文句
決まり文句とは、思考や独創性の欠如をあらわにする、使い古されたフレーズやアイデアのことです。たとえば、「枠にとらわれずに考える(think outside the box)」という言葉がビジネスで過剰に使用されるようになり、皮肉にもその枠にとらわれてしまうようなものです。誰も自分の文章を決まり文句で埋め尽くそうとは思わないはずですが、それでも決まり文句は入り込んできます。さらに重要なことは、決まり文句の多くは文章を退屈なものにし、研究が与えるべきインパクトを奪ってしまう可能性があるということです。決まり文句の例としては、以下のようなものがあります。
「in the current study(現在の研究では)」
この用語は頻繁に登場しますが、研究結果や方法論を明確に示す記述で使われることが多いため、通常はほとんど意味をなしません。
「in recent years(近年では)」
この用語は曖昧で、ほとんどすべての期間に引き伸ばすことができます。正確な年(「2018年以降」など)、あるいは期間(「過去10年以上」など)の方がはるかに明確になります。
「it is well known that…(よく知られているように)」
宣言文に重要な知識を加えるものではないので、このフレーズは事実上いつでも削除できます。さらに言えば、もしそれが本当によく知られているのであれば、論文で紹介する必要が果たしてあるのでしょうか?
新規性の表現
「画期的」、「斬新」、「パラダイムシフト」、「世界初」などなど。研究の新規性を強調したいのは誰しも同じですが、これらの表現を多用すると、著者が必ずしも裏付けを取らずに主張しているように見えてしまう可能性があります。
バランスをとってインパクトを最大化する
便利な常套句と決まり文句の違いは何でしょうか? それはその使い方次第です。そのフレーズが多用されるようになったからといって、使用を完全にやめるべきだというわけではありませんが、使いすぎると論文やその他のコミュニケーションが定型的なものになってしまう可能性があります。自分の発見を「斬新」や「有望」と繰り返し表現するのは、見る人をうんざりさせます。要点を長々と説明するのではなく、一度だけ言及すれば十分です。
「画期的」や「パラダイムシフト」といった強い表現は、あなたの研究成果から生じる将来の変化を確実に予測しているように感じられる可能性があり、研究者が受け入れなければならない一般的な不確実性に反するものです。それよりも、あなたの研究がもたらすと予想される影響の例を示すといいでしょう。
さらに重要なのは、不適切に使用された決まり文句は、それ自体が注目を集めるということです。例えば、研究で何か新しいことが明らかになったときに「sheds light(光を当てた)」と言うのは問題ありませんが、レビューを説明するためにこれ使うと、うんざりするような決まり文句に聞こえます。
常套句は良いこともある
ここまで、よく使われるフレーズを使うことのデメリットについて説明してきましたが、利点もあります。たとえば、よく使われるフレーズをいくつか記憶しておくことで、ライティングが上達します。筆者は教師として、生徒の英作文指導の際に、エッセイの構成に役立つフレーズを教えることで成果を上げてきました。これは、フレーズを考えることによる認知的負荷を軽減し、読者に効率的に情報を伝える簡潔な方法を導入するのに役立ちます。
マンチェスター大学のAcademic Phrasebankでは、アカデミックライティングに役立つフレーズが使用例ごとに多数提供されています。ライティングの流れを改善するだけでなく、代替フレーズも提供しています。
AIを賢く利用する
学術コミュニティでは最近、文章作成におけるAI活用の可能性と落とし穴について話題となっています。AIは、要約、下書き、校正の用途だけでなく、書き手が適切な言葉を見つける手助けをするという用途にも有望です。Microsoftはその一例として、Copilot AIシステムに全力を注いでいるようです。このシステムには、Wordなどのアプリケーションに統合されている様々なオートコンプリートや言い換えツールが含まれています。また、他の多くのAI統合ツールにも、ありきたりな文章やインパクトに欠ける文章の代替案を提供する機能が組み込まれています。
ただし、やみくもに頼ることはできません。AIツールは、実際の情報の大規模なコーパスに基づいてトレーニングされる傾向があるため、実際の文章で有機的に使用される決まり文句の多くに頼る傾向があります。その結果、AIツールは不正確な情報を生成する傾向があるだけでなく、ありきたりで定型的な文章を生成する可能性もあります。言い換えのためにAIツールを使い過ぎると、苦し紛れの言い回しになってしまうこともあり、AIテクノロジーを責任を持って使う必要性がさらに強調されます。
結論
決まり文句は、あなたの文章から完全に消し去るべきものではありません。どんな言語でも、適切なフレーズの数は限られているので、ごく一般的な慣用句や単語を適切に使えば、理解を容易にすることができます。言葉は食材のようなもので、どれも最終的な料理をより魅力的にしてくれますが、良いものが多すぎてもダメですし、組み合わせが合わない食材もあるのです。
この記事はEditage Insights 英語版に掲載されていた記事の翻訳です。Editage Insights ではこの他にも学術研究と学術出版に関する膨大な無料リソースを提供していますのでこちらもぜひご覧ください。