エディテージ・グラント2023にて大賞に選ばれた木村圭一さんに、大賞に選ばれた喜びやご自身の研究について、グラントの応募にあたって苦労したことなどを語っていただきました。
木村 圭一さんプロフィール
Keiichi Kimura
東京大学大学院農学生命科学研究科生圏システム学専攻緑地創成学研究室で博士課程に所属。乾燥地での現地調査が多い中、趣味はスキューバダイビング。プラモデル制作もしている。
受賞した研究内容について
藻類やコケ類などの微小な生物が作るシート状の構造、バイオクラストと風の関係を検証しようとする内容でした。このバイオクラストは植物と似た生態系機能を持ち、乾燥等の極度の環境でも生育できるため、土地回復に応用できる可能性があります。他方で人為的に導入する上での課題も残っており、その1つに風の影響が挙げられます。この風の作用には乾燥促進、砂の移動による被覆、バイオクラスト構成生物移動等が含まれることが指摘されるものの、しっかりと分割して検証した研究は少ないです。これらの効果を相互作用も含めて比較することで、より効果的なバイオクラストの利用につながると考えました。
エディテージ・グラント2023大賞を受賞して
このたびは、このような栄えある賞をいただけたことに改めて感謝いたします。自身の研究の価値というか、面白さのようなものが伝わり、かつ共感してもらえたからこその結果だと感じました。環境問題に関連するトピックである以上、自身の研究内容は非専門家を含む多くの人に正しく理解してもらうことが重要であると考えています。今回の受賞はその一歩でもあるかなと感じています。
賞金の100万円は、実験に必要な器具の購入、分析の外注、執筆論文の校正費用に充てようと思っています。実はこれを書いている時点ですでにいくつか器具を購入させていただきました。もちろん研究室に共用の機材もありますが、微生物を扱っているのは自分だけなので、転用かつ代替不可な物品も多いのが現状です。そうした中で自由に使える資金というのは本当にありがたいです。
ご自身の研究について
土地劣化の修復に興味があります。今はバイオクラストの定着を助ける土壌安定剤として別の菌の採用で、土壌表面を硬くした場合にちゃんとバイオクラストの定着を補助するかを研究しています。土地の劣化にも様々な要因があるのですが、降雨と放牧で劣化したエチオピア北部、乾燥と放牧で劣化した中国・モンゴルなどで植物や土壌に関する現地調査をしたこともあります。
この研究分野に興味を持ったのは、元々環境問題に関心があったことと、バイオクラストの存在がマイナーに感じたからです。東大の前期教養学部で受けた授業にて地球温暖化問題を取り扱う回がありました。当時は砂漠に植物をいっぱい植えたら良いのではないかと至極単純に発想し、現在の研究室へ所属しました。しかし勉強していく中で、元々緑があった土地を修復することの意義と難しさ、単に植物を導入するだけで上手くいく事例のほうが少ないこと等を学びました。そのような中で微小な生物たちの作り出すバイオクラストのダイナミックな機能に魅力を感じ、突き詰めてみたい、人が利用できるようにしたいと感じました。
今後はバイオクラストを人々や環境に役立つように利用する研究を行いたいと思っています。
エディテージ・グラントに応募した理由
エディテージ・グラントは、研究室へ投函されたチラシで知りました。たまに研究室では休憩としてお茶会が開かれるのですが、そのときにそのチラシを見つけました。
そのチラシを見て、敷居の低さを感じて、応募してみようと思いました。研究活動経験や助成金プログラムへの応募経験の少ない若手研究者をサポートするというコンセプトを感じ、自身の強みを生かせる条件だと思ったのも理由です。私は東京大学フューチャーファカルティプログラム(東大FFP)というプログラムを修了していました。これは大学教育を行う上でのスキルを実践的に身に着けるものでした。このプログラムで得た「何も知らない学生に自身の専門領域の面白さ・基礎的内容を伝える技術」を活かして、本グラントの応募に臨めるなと感じたのです。
エディテージ・グラントに応募してみて感じたこと
応募の手続きは比較的簡便だったと感じます。若手研究者こそ研究活動に専念して実績作りを求められると思うので、応募時に事務手続きにそこまで時間を取られなかったかなと感じています。
エッセイはほとんど書いたことがなかったので、学術的な資料との書き方の違いを確認しました。また英文で書いた経験もないので、まずは自分で英文を作成->AIで校正->自分で再校正->研究室の英語が堪能な学生数名に英文校閲および読みやすさのチェック…という流れでよく確認しました。他人(+AI)に確認してもらうことにより、自分で作成した文章を自分自身も客観視しやすくなったと思います。