デジタルの世界では、記録やデータを追跡することは重要です。そこで登場するのが、永続識別子(PID)です。PIDは、デジタルオブジェクトやエンティティの一意で不変のデジタルフィンガープリントであるため、変更や更新の有無にかかわらず、特定のオブジェクトを簡単に追跡し、場所を特定することができます。オブジェクトへの純粋なリンクとは異なり、PIDはオブジェクトを説明するメタデータのセットと関連付けることができます。これにより、多様なプラットフォーム間で情報を交換し、引用を追跡するための経路を作り、再利用を促進することができます。
URL、シリアル番号、個人名のような要素は識別子として機能しますが、進化し続けるインターネットの世界で必要とされる永続性、安定性、一意性を欠いていることがよくあります。PIDは、この絶えず変化するデジタル環境から生じる課題に対処するために特別に開発され、デジタルオブジェクトの信頼性の高い記録を保証します。
学術出版社が PID 戦略に関心を持つべき理由
PIDは、論文、データセット、マルチメディアコンテンツなどの研究成果を識別するための信頼性の高いユニークな方法を提供し、ますますデジタル化され相互接続された世界において計り知れない価値を持っています。デジタルオブジェクト識別子(DOI)は、出版された論文やデータセットなどの研究コンテンツを識別するPIDの一例です。さらに、研究者のためのORCID(Open Researcher and Contributor ID)や研究機関を識別するためのROR(Research Organization Registry)もあります。これらの異なるPIDは、研究環境を強化し、明確さ、アクセシビリティ、コラボレーションを促進するのに役立っています。
PIDの採用における学術出版社の役割も見逃せません。当初、出版物へのDOIの導入は、出版社とCrossrefが先導していました。出版社は、特にCrossrefの一員として、研究者間のPID利用のワークフローを合理化し、論文投稿システムを通じたPIDの収集を合理化することができます。
1. ワークフローとデータ管理の合理化
今日のグローバルな研究エコシステムにおいて、PIDの重要性はかつてないほど高まっています。PIDは研究成果を追跡し、様々な研究分野や利害関係者間のやり取りを効率化すると共に、冗長性を減らすことができます。例えば、PIDは出版物の発見可能性と引用可能性を高めることで、出版社がユーザーを効果的に取り込むのに役立ちます。さらに、データベース全体で費用対効果の高い検索を可能にし、研究へのアクセシビリティを高めます。
メタデータを効率的に利用するためには、体系化されたシステムを持つことが極めて重要です。ここで、メタデータを管理するための構造化されたアプローチとして、PIDが役立ちます。PIDは、著者、所属、その他の関連する詳細などの重要な要素を含む、標準化された情報をすべてのデジタルエンティティに添付することができます。PIDを活用することで、組織はデータの分類と検索のプロセスを合理化し、価値ある情報へのアクセスを確保することができます。
2. 研究公正の強化
研究公正の維持に関しては、テクノロジーは大きな課題と大きな可能性の両方を提供します。PIDとそれに関連するメタデータを活用することは、研究公正の基本的側面である透明性を強化するための重要な一歩となります。PIDの普及と統一化により、出版物、助成金、データセットを含む研究者の研究の様々な要素を相互接続し、認証する具体的な方法を提供します。ただし、この可能性を完全に実現するには、PIDの世界的な普及が重要であり、すべての研究領域にわたってPIDをシームレスに統合するには、すべての関係者の協力が必要です。
例えばDOIは、研究成果と研究者、資金提供者、機関などのエンティティを識別し、結びつけるのに役立ちます。しかし、これを研究システムやプラットフォーム全体に統合するには、複数の関係者の協力が必要です。PIDサービスはまた、科学的オブジェクトの一次ソースに関する貴重な情報を提供するだけでなく、それらに加えられた変更を効果的に記録し、研究の透明性と信頼性に貢献します。
個人や組織の識別子を使用することは、研究成果を研究組織や特定の資金提供者の著者に結びつけるのに不可欠です。これは、研究の透明性と信頼性を高めることにも貢献します。さらに、査読者の識別子の使用はまだ普及してはいないものの、研究不正、特に査読操作に関連する事例が増加していることから、重要性が高まっています。例えばElsevierは、査読プロセスが完了すると、査読メタデータをORCIDと共有できるようにしています。これにより、査読データと査読者のORCIDプロフィールのリンクが可能になり、査読活動の監視と認証が容易になります。
3. 研究の発見可能性とインパクトの向上
PIDの使用は、研究の共有と追跡に変化を起こしました。出版社による DOI システムの広範な導入により、論文やデータセットなどの研究資料の発見と検索が、最初の出版後もずっと簡単になりました。PIDのこの永続性は非常に貴重であり、研究成果が揺るぎない信頼性をもって発見され、引用されることを保証します。PIDはまた、研究の影響力を監視する上で重要な役割を果たし、出版された著作物の影響力と範囲に関する貴重な理解を提供します。
4. FAIRデータ原則のサポート
FAIR(Findable、Accessible、Interoperable、Reusable)ガイドラインは、研究が最大限に可視化され、利用しやすい形でデータが管理・共有されることを保証する上で極めて重要です。また、オープンサイエンスを促進し、透明性を高め、研究コラボレーションを促進する上でも重要な役割を果たします。
FAIRデータ原則に従って研究対象を永続的に識別するためのPIDの重要性は、いくら強調してもしすぎることはありません。PIDがデジタルオブジェクトとは別に関連するメタデータを持つことを考えると、このメタデータは学術システム内での情報の発見可能性、アクセス可能性、リンク、共有を容易にするのに役立ちます。FAIRを遵守することで、出版社はより強固で効率的な研究エコシステムの構築に貢献します。
結論
PIDを導入することで、出版社は出版物を容易に発見し、引用し、リンクできるようにすることができ、ジャーナル全体の可視性と影響力に貢献することができます。PIDはまた、時間の経過とともに移動した場合でも記事の正しいバージョンへの永続的なリンクを提供するため、混乱や誤認を最小限に抑え、出版物の完全性を高めます。さらに、PIDは研究成果の追跡と監視を容易にし、出版社が利用状況や引用などに関する貴重なデータと洞察を収集することを可能にします。
オープンサイエンスとデータの相互運用性が勢いを増す現代において、PIDを採用することで、出版社はグローバルスタンダードに合致し、出版物のアクセシビリティを高めることができるのです。
この記事はEditage Insights 英語版に掲載されていた記事の翻訳です。Editage Insights ではこの他にも学術研究と学術出版に関する膨大な無料リソースを提供していますのでこちらもぜひご覧ください。