動物を使った生物医学的研究の歴史は紀元前380年までさかのぼり、古代ギリシャの医師であり科学者でもあったアリストテレスが生きた動物を使った実験を行っていました。しかし、このやり方は最近になって動物保護団体から批判されています。そのため、アメリカ食品医薬品局(FDA)は2022年に動物実験の義務付けに関する規則を変更しました。FDAは、新薬の承認を得るために動物実験を行う必要はないと宣言しました。
ほとんどの研究者はこの動きを歓迎しましたが、動物を使わない方法では、薬が被験者にもたらす可能性のあるすべての潜在的リスクを特定できないのではないかという意見もありました。彼らは、培養皿の中の細胞や組織では、生体システム内で起こるすべての生物学的プロセス(例えば、異なる細胞タイプ間のコミュニケーションなど)を模倣することはできないと主張しています。生物医学研究において動物を使用することが避けられず、実験に動物を使用する場合、留意すべき点がいくつかあります。
動物を使用する際の人道的な研究のやり方
研究のために実験動物を使用する際に人道的なやり方を確保するために、科学者たちは3R(replace、reduce、refine)の原則を打ち立てました。このフレームワークは、研究に動物を使用する場合、動物を代替物に「置き換え(replace)」、必要な動物の数を「減らし(reduce)」、動物の痛みや苦痛を軽減するために実験を「改良する(refine)」、あらゆる努力を払わなければならないという考えに基づいています。
動物を実験システムに置き換える
薬の動物実験は義務化されていますが、動物で実験された薬の大半は、毒性があったり効果がなかったりするため、人間の臨床試験では失敗しています。このことは、動物モデルでの実験が確実ではないことを示しています。動物実験はお金と時間、そして命を無駄にする可能性があると主張している人も多くいます。
動物実験の問題点を克服するため、研究者たちは薬の試験に使える臓器チップ技術を開発しました。このチップはサムドライブほどの大きさで、脳、肝臓、肺などの臓器から採取した生きた細胞を並べた中空のチャネルがあります。液体がその中を流れ、生体の血管を流れる血液を再現します。この臓器チップ技術を使ったいくつかの研究では、すでに有望な結果が得られています。
研究で動物を使わないようにするには、人間のボランティアから採取した組織や細胞、数学的モデルやコンピュータモデル、確立された細胞株に頼ることができます。動物実験に代わるものとして、人間のボランティアから採取した幹細胞から臓器のような「オルガノイド」システムを構築することもできます。薬物スクリーニングの実施にオルガノイドが有用であることは、研究によって示されています。
実験動物を完全に置き換えることができない場合、3Rの原則では部分的に置き換えることを推奨しています。これは、(現在の知識では)考えることも苦しむこともできない動物を使うことで実現できます。これにはショウジョウバエのようなハエやC. elegans などの線虫が含まれます。研究に哺乳類の細胞が必要な場合は、この目的のためだけに殺され、苦痛を伴うような処置を受けていない動物から得られた初代細胞を使うことができます。
実験で使う動物の数を減らす
この原則は、科学的目的と結果の基準を満たしつつ、各実験研究で使用する動物の数を減らすことを目的としています。研究でこの原則を確実に実践するためには、動物実験を適切に計画し、実験に必要な動物の最適な数を決定することが極めて重要です。さらに、動物から得られたデータは、信頼性が高く再現可能な結果を保証するために慎重に分析する必要があります。
研究グループ間で動物、組織、細胞などのデータや資源を共有することも、実験に必要な動物の数を減らすのに役立ちます。
動物への苦痛を最小限に抑えるように実験を改良する
この原則は、実験動物に与える危害、苦痛、痛みが最小限になるように、実験や技術を改良することに重点を置いています。これは動物の全体的な福祉を保証するもので、動物に実験的処置を行う際に適切な麻酔や鎮痛剤を使用することも含まれます。また、動物が要件に適した方法で飼育されていることを確認する必要もあります。
実験を改良することは、研究者にとっても直接的な利点があります。痛みや苦しみは動物の行動や生理機能を変化させ、実験結果のばらつきにつながる可能性があるからです。
代わりとなる実験方法の研究者トレーニング
研究者の間では、科学的・臨床的研究の実施に動物を使用することに対し、ますます敏感になり、批判的になってきています。新旧を問わず、科学者が実験動物の使用を避けるための指針となるリソースがいくつかあります。
Alternatives to Animal Experimentationは、40年前に創刊されたオープンアクセス・ジャーナルです。このジャーナルでは、科学的目的のために動物を使用することに代わる方法の開発と実施に焦点を当てた研究論文を掲載しています。また、このジャーナルは、この分野における世界的な動向について最新情報を読者に提供しています。
動物を使わない実験や研究方法を用いて倫理的に科学を発展させることに焦点を当てた会議もあります。このような会議では、講演、ワークショップ、ポスター発表、デモンストレーション、ケーススタディを通じて、次世代の科学者を指導しています。
アメリカのAlternatives Congress Trustと呼ばれる団体は、学界、産業界、政府、非営利団体など多方面にわたる関係者を集め、ライフサイエンスにおける動物使用の3Rを推進しています。この団体は、アメリカ、ヨーロッパ、東アジアなど、世界各地で会議を開催しています。
また、生命科学や臨床研究において、動物を使用する代わりになる方法について若い研究者を導くテキストもいくつかあります。
動物実験を避ける-今後の方向性
動物を使った研究実験は、時間も費用もかかり、命を無駄にすることも多くあります。テクノロジーの進歩により、研究の世界では動物実験以外の方法が数多く提供されています。これらの方法には、以下のようなものがありますが、これらに限定されるものではありません。
- 実験室の培養皿に入れた細胞株や初代細胞(試験管内試験)
- 生物学的実験をモデル化またはシミュレートするためのコンピュータ(in silico試験)
- 動物の代わりに反応性を試験するための化学物質(in chemico試験)
これらの方法を組み合わせて生命科学や臨床実験を行うことで、時間、費用、そして命を節約することができます。
この記事はEditage Insights 英語版に掲載されていた記事の翻訳です。Editage Insights ではこの他にも学術研究と学術出版に関する膨大な無料リソースを提供していますのでこちらもぜひご覧ください。