エディテージ・グラント 選考委員インタビュー③-原山 優子先生

エディテージ・グラントは、自身の研究によって社会にインパクトを与えたいと願う若手研究者に、経済的支援、メンターシップ、キャリアガイドを提供することを目的とした、エディテージの若手研究者支援プログラム。その選考委員である原山 優子先生に、若手研究者における研究助成の重要性やエディテージ・グラントへの想いなどをうかがいました。

原山 優子
東北大学大学院工学研究科名誉教授、日本科学振興協会(JAAS)代表理事、ISCフェロー

Subject area
経済学 / 教育学 / 工学 / 科学技術政策 / 産学連携 / 高等教育

Researchmap link
https://council.science/ja/profile/yuko-harayama/

1996 年にジュネーブにて教育学博士号取得。1997 年に同大学経済学博士号取得。ジュネーブ大学経済学部助教授、経済産業研究所研究員を経て、2002 年より東北大学大学院工学研究科教授に就任。総合科学技術会議非常勤議員、科学技術振興機構特任フェロー、経済協力開発機構(OECD)の科学技術産業局次長を務め、2013年~2018 年総合科学技術・イノベーション会議常勤議員。理化学研究所の元理事で、国際関係、若手研究者育成、ダイバーシティを担当。東北大学名誉教授。2014年にニューシャテル大学から名誉博士号を授与。2011 年フランス政府レジオン・ドヌール勲章シュヴァリエ受賞。

目次

効率の良さだけを追い求めるのではなく、
自分で自分のスペースを作るということを体験してほしい

チャレンジしようとしている若手研究者が一歩踏み出すための後押しをしたい

研究に対してのファンディングというのはここ最近増えつつありますが、目的志向のものが多く、何か発想を持っている人が試してみたいというときに、直接それに合うようなものがないことのほうが多いのではないでしょうか。さまざまなアイディアを持ちながら、それを温めるという機会がないのはなんとも残念なことです。はじめから仕切ってしまうと発想が堅苦しくなってしまいがちで、実はものすごく可能性があるアイディアがあるのに、それを育てることができず、芽をつぶしているのが現状ではないかという問題意識を以前から持っていました。 何か別のやり方でしかけることができないかと考えていたところ、エディテージ・グラントの審査員のお話をいただきました。プライベートセクターによるファンディングとして、ビジネスに直結するわけでなくても、チャレンジしようとしている若手研究者が一歩踏み出すための後押しを目的とするという点にすごく共感して、お手伝いをさせていただこうと思った次第です。

若いうちに通常の研究プラスアルファのチャレンジをすることが大切

研究者として大学や研究機関に所属するために、まずは一人前になるために大学や大学院に入るわけですが、効率よく数年で学位をとるということが目的化してしまって、なるべく無駄な作業せずに数年後に成果が出る可能性が高い研究にチャレンジする傾向があるようです。それはそれですごく合理的なのですが、そういうトレーニングだけをしてしまうと、自分で何かテーマを提案できる立場になったときに、提案できるかということに疑問があります。ショートタームでやっていくことばかりに慣れてしまうと、チャレンジングなところになかなか行きにくいのかなと。人はエクササイズしていないとなかなか一発で新しいことはできないので、そういうトレーニングの機会がやはり若いときにあったほうがいいなと思っています。大学で敷かれたレールに乗って淡々と研究していると、中身についても調整型になってしまいがち。それが必ずしも悪いわけではないのですが、それしかやっていないと、飛躍する可能性ができたときにそのチャンスをつかみきれないのではないかという問題意識です。

ただ、なにかやりたいと思っても「そもそも時間がない」と若い研究者はよく言います。それと同時に、やはり新しいことをやるのにもお金はどうしてもかかりますが、そのお金を自分から探しに行くというのはすごく大変な世の中だし、そっちに時間をかけてしまっていると自分の本業が疎かになってしまう。そんなプレッシャーを自らにかけているため、なかなかチャレンジすることができないようです。通常の研究というのは自分の所属する組織ですでに研究資金も持ってやっているのでしょうけれども、そのプラスアルファの部分というのはなかなか機会がないんですよね。そういう意味でエディテージ・グラントは、そんなに巨額ではないけれども、プラスアルファで試してみたいというのには、ちょうどいいくらいの仕掛けなのかなと思っています。

研究を楽しみながら、自分で自分のスペースを作る

若手研究者の皆さんは、どうしてもプレッシャーがあると、効率のよさを求めがちですが、そうすると自分の頭で考えて作り込むということがなくなってしまいがいです。でも、人にはそういう時間が必要だと思うんですね。そういう機会があると、また何かのときにそれをうまく活用できるのですが、それがないと毎日が目の前のことだけで終わってしまいます。サイエンスとか研究者という仕事にフォーカスしたときに、やはり新しい発想というのが必要だと思うのですが、そのときに自分のカードを持っていないというのはすごくもったいない。いろんなポテンシャルを持っている方たちが、そういうカードがなかったがゆえに伸び悩んでしまったり、言われたことは淡々と研究できるけれども、次のこれだというものが自分から出せないというのはすごく残念ですし、そういう芽をつぶしてきたところが過去にあるんじゃないかなと思っています。指導教官などで「自分の研究だけに専念すればいい」と言う人もまだいっぱいいますが(笑)、その言うことを聞くだけではなくて、自分で何か行動する、自分で自分のスペースを作るということをぜひ体験してほしいですね。

やはり研究は、楽しまないといけないと思っています。研究するということは、もちろん大変なことではありますが、成果が出たときのうれしさとか、達成感などはすごくあります。ただ、人に言われたことばかりやっていると、見てくださいだけで終わってしまって、そのうれしさや達成感などを味わえていない人がけっこういる気がするんですよね。私は今、いろいろなところで「スローサイエンス」を提唱していますが、目先の論文を効率よく作成することよりも、自分でじっくりと作り込む作業をすることが知識を作るには大事だと思っています。その作業を怠って、あちこちから寄せ集めて素早く作るというやり方もあるかもしれませんが、それだと目先の論文は書けてもそれでおしまい、中身が薄っぺらになってしまうのではないでしょうか。じっくり自分を育てていくということは、誰かが言ってくれるわけではなく、自分がやらないといけません。そういうことをどこか頭の片隅に置きながら、ぜひエディテージ・グラントを使っていただけたらいいのではないかと思います。

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この記事を書いた人

エディテージはカクタス・コミュニケーションズが運営するサービスブランドです。学術論文校正・校閲、学術翻訳、論文投稿支援、テープ起こし・ナレーションといった全方位的な出版支援ソリューションを提供しています。

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