文化の違い:日本人研究者のための英文ライティング

Cultural differences English writing for Japanese researchers

日本には、日本語の研究ジャーナルが数多くあり、学術出版のエコシステムが発達しています。しかし、国際的な出版物の伸びは強くありません。研究のインパクトを最大化するためにはより読者数の多い英語での出版が不可欠ですが、これが困難なハードルとなっています。日本は依然としてトップクラスの研究国である一方、多くの日本人研究者が英語の使用、特に語彙の面で困難を感じています。日本の研究者はなぜこのような問題に直面しているのでしょうか? また、どうすれば克服できるのでしょうか?

日英交流と学習の歴史

何千年もの間、日本語とヨーロッパの言葉はまったく異なる道をたどってきました。ポルトガル人との短い交流の後、日本は鎖国時代に入ったため、オランダとの限定的な貿易パートナーシップの他には、日本人は西洋人と交流する必要がなかったのです。1852年、アメリカからのペリー来航によって、日本は開国を余儀なくされました。英米に協力せざるを得なくなった日本は、やがて英語教育の必要性を認識するようになったとされています。

明治時代には、近代化を進めるために、主にイギリスやアメリカから何千人ものコンサルタントが雇われ、日本の優秀な人材の多くが海外に留学しました。太平洋戦争前後の一時期を除けば、日本は英語圏の国々との良好な関係を築いてきました。

にもかかわらず、最近の日本の英語教育は目に見えた進歩を遂げてはいません。EF英語能力指数によると、2023年の日本は113カ国中87位。更に他国との顕著な違いとして、若年層の英語力が低下しており、これは英語教育が重視されつつある世界的な傾向とはまったく対照的です。韓国など近隣諸国では英語能力が向上しており、これが言語だけの違いによるものではないことを示しています。

驚くべきジェネレーションギャップ

Peter Karagiannis氏と山中伸弥氏は、2021年の論説の中で、日本の若手研究者が年配の研究者よりも英語を使うのが困難だという傾向について論じています。日本の幼稚園から高校までの英語教育方法などの問題に加えて、彼らは若い研究者の英語への関心が低下している2つの興味深い理由を指摘しています。

ひとつは、国際的な研究者の数を増やすために多くの取り組みが行われているにも関わらず、日本は研究者の移民・移住率が最低水準にあります。日本は、頭脳流出が少ないものの頭脳循環も少なく、そのため多くの研究者は国際的なチームで仕事をした経験が乏しい、つまり英語で仕事をしたことがない人が多いのです。国際的な研究のための奨学金制度が少ないため、若手研究者はしばしばこの重要な経験を逃しています。

もうひとつは、研究者の雇用先として民間企業が突出していることです。研究者の正規雇用はますます難しくなっています。産業界はより良い給与と福利厚生を提供するため、多くの研究者は博士号取得後すぐに産業界へ転職しがちです。Peter Karagiannis氏と山中伸弥氏は、こうした企業には独特の労働文化があり、大学のポスドクや外資系企業で培った経験が評価されないことが多いと指摘しています。

日本人は自国の成功の犠牲者なのか

日本は書籍出版点数においてトップの国であり、一人当たりの出版点数もトップクラスです。国内の研究出版物についても同様で、J-Stageのアーカイブには1,289の日本語ジャーナルが掲載されており、2023年だけで31,997件の査読付き論文が出版されましたが、英語では 14,271 件のみでした。日本の研究者には、他の多くの国にはない豊かな出版環境があるのです。

さらに、日本は主要なエンターテインメントの生産国であり、輸出国でもあります。国内エンターテイメントの選択肢に事欠かないだけでなく、海外のエンターテイメントもほとんどが翻訳され、ローカライズされています。そのため日本の若者は、これまでにも多くの問題が指摘されている義務教育の授業以外でほとんど英語に接することがないのです。

日本人研究者の英語論文執筆を支援する

日本のアカデミアにおける英語力の伸び悩みには当然の理由がありますが、それでも英語で論文を出版する努力の価値は絶対にあります。研究者はそれを理解していますが、実践することはやはり困難です。日本の英語教育を妨げる構造的なハードルを克服するには、エビデンスに基づいた取り組みと長期的な計画が必要です。とはいえ、海外の学術出版関係者や専門家は、日本の研究者の課題をどのように支援できるのでしょうか?

さらに言うなら、国籍に関係なく、英語力があまり高くない同僚を助けるために、日本人研究者の課題は何を示唆してくれるのでしょうか?

英語に触れる機会を増やす

日本を代表する小説家である夏目漱石は、英語教師であり、優れた翻訳者でもありました。彼は、日本人学習者に、内容を完全に理解することをあまり気にせず、英語の本をできるだけたくさん読むように勧めていました。これは、単語や表現を徹底的に分析することを求める日本の文法翻訳教育とはまったく対照的です。最近、彼のメソッドが再評価され、日本の学校で教育法として応用され、それなりの成果を上げています。

日本の研究者にとって、これは自分の専門分野の英語論文を幅広く読むことを意味します。多読は、英文の修辞法に触れるだけでなく、重要な語彙のインプットにもなります。日本人研究者と仕事をする際、彼らが徹底的に読んで理解することを期待せずに、英語の学術論文の例を提供することは、彼らの学習の助けになります。

英語力の要求を再考する

英語力の格差は、学術界における不公正の元凶として認識されつつあります。ジャーナルが言語的問題のある論文を受け入れるべきとは言いませんが、英文校正サービスや新しいテクノロジーは、執筆プロセスを合理化し、非ネイティブの研究者が同じ土俵で競争したり共同研究したりするのに役立ちます。

親切で忍耐強く

日本人学習者に共通する特徴のひとつに、英語の学習や使用に対する不安があります。その結果、学習やコミュニケーションに支障をきたすような感情的な問題が生じることがあります。基本的に、英語を使うことが「苦痛」であればあるほど、学習者の上達は難しくなります。英語力の低い同僚と接するときは、彼らのコミュニケーションの努力を認め、批判しないようにしましょう。

結論

日本と日本人研究者は英語を必要としています。日本の研究者が直面する問題を克服することは難しいものの、決して解決不可能な問題ではありません。適切な対策を講じれば、日本は世界の研究リーダーとしての地位を確保できるはずです。


この記事はEditage Insights 英語版に掲載されていた記事の翻訳です。Editage Insights ではこの他にも学術研究と学術出版に関する膨大な無料リソースを提供していますのでこちらもぜひご覧ください。

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この記事を書いた人

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